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岐阜県美術館でアーティスト・イン・ミュージアム AiM Vol. 14 設楽陸 2023年7月20日-9月3日に開催

現実とVR(仮想現実)の融合を試みる愛知県の画家、設楽陸さん

 岐阜県美術館(岐阜市)で2023年7月20日〜9月3日、アーティストの制作活動と作品を公開するアーティスト・イン・ミュージアムの第14弾「AiM Vol.14 設楽陸」が開催されている。

 14回目となるAiMでは、現実とVRの融合を試みる愛知県出身の画家、設楽陸さんが公開制作をする。

 設楽陸さんは1985年、愛知県長久手町(現・長久手市)生まれ。名古屋造形芸術大学を卒業。2017年、愛知県瀬戸市にタネリスタジオをオープンし、現在も運営している。アーティスト仲間の植松ゆりかさんと共同アトリエを中心にスタートさせたスペースである。

設楽陸

 スタジオを起点としたつながりから、あいちトリエンナーレ2019に合わせ、2019年、瀬戸現代美術展を開催。2021年には、長者町コットンビル(名古屋)で個展を開いた。2022年は、2回目となる瀬戸現代美術展2022を開いた。

 2022年12月には、「拠点からー有馬かおる(キワマリ荘)と設楽陸(タネリスタジオ)」が名古屋造形大学ギャラリーで開催され、2023年1、2月には、三谷温泉(愛知県蒲郡市)でのアートプロジェクト「ととのう温泉美術館」にも参加した。

ー 今回の制作に寄せて ー

この世界は君が見ている夢なのか?
僕が見ている君の夢なのか?

幼い頃に患った喘息とアトピーは、不条理を感じさせた。
禁止されたTV ゲームは、想像力を羽ばたかせた。
現実世界の違和感から妄想の世界に親近感を覚え「ここではないどこか」「ここにはいないだれか」の存在を意識し始めた。
現実と仮想の違いが分かりにくくなっている今の時代において、どちらが現実で仮想なのかより、大切なのは、それを楽しみ自分を想うことなのかもしれない。   設楽陸

設楽陸

展覧会概要

会  場:岐阜県美術館 アトリエ(岐阜市宇佐 4-1-22)
会  期:【公開制作】2023年7月20日(木)~9月3日(日)10時~18時
夜間開館:7月21日(金)、8月18日(金)は20時まで開場
休 館 日:毎週月曜日(祝日の場合は翌平日)

レビュー

 筆者は、8月12日に開催された設楽陸さんと日比野克彦館長のトーク・セッションに参加し、制作手法を細かく聞くことができた。設楽さんは、VR空間のアトリエと現実空間のアトリエをもっていて、その両方を行き来し、2つのアトリエで描く絵を融合させて、作品を作っている。

 仮想のスタジオに行くときの設楽さんは、MetaのVRゴーグルを装着し、『Painting VR』というソフトによって、VRペイントをする。描いた絵は、データとして出力。イメージをキャンバスにプリントした後、本物の絵具で描き加える。

 逆に、リアル空間で描いた絵をスキャンして、VR空間に取り込み、加筆することもある。

 仮想空間でも、筆、ローラー、スプレーなどが自在に使え、絵具を混ぜることも、ドリッピング、ポーリングもできる。ちなみに、VRの世界では、大きさの概念がなく、キャンバスのサイズも自由に伸縮できる。

 設楽さんはもともと、アトピーや喘息で、子供時代の遊び、生活に制約が課せられ、親からはゲームも禁止された。ゲームの世界や架空の物語の妄想を膨らませるようになったことが、現在の作品のモチーフにつながっている。
 
 こうした延長で、VRも、テクノロジー志向ではなく、現実空間とは違うもう1つの自由な空間として、画家として自然な展開で使うようになった。

 VR空間での描画も、現実空間での描画も、等価に、区別なくつなげている。その感覚を、設楽さんは、中国の荘子の代表作である、夢の中の自分が現実か、現実のほうが夢なのかといった「胡蝶の夢」を挙げながら、説明している。

 この、現実と空想の地続きの感覚は、アトピーや喘息による苦しみ、自由に動けない自分を夢と捉え、アタマの中の妄想を現実と捉えた幼時の記憶ともつながっている。

 設楽さんは、VRで描くとき、本来は感じるはずのない感覚を感じる《ファントムセンス》とともに、VRと現実のペインティング、それぞれの身体性を行き来している。

 父親の画家、設楽知昭さんは2021年夏、白血病のため、亡くなった設楽知昭さんの作品自体が、夢や死後、仏教、身体と精神などに深く関係している。父親が闘病する中で、仏教や宇宙物理学、数学の本を読み漁った設楽陸さんが、現実と仮想、夢の中や死後、多層的な世界への思索を深めたことも、現在の作品展開に影響を与えている。

 こうした制作過程と、設楽さんの絵画の内容とがより深くリンクしてきたとき、更なる作品の面白さが現れてくるだろう。

設楽陸プロフィール

設楽陸

1985年 愛知県長久手 市生まれ
2008年 名古屋造形芸術大学美術学科総合造形コース卒業
2009年 個展「 parallel reality 」(キャズ( CAS )、大阪
2012年 「ポジション 2012 名古屋発現代美術~この場所から見る世界」 (名古屋市美術館、愛知)、「 モニターとコントローラーの向こう側へ-美術とテレビゲーム- 」 (ニュートロン東京)
2016年 「となりの人びと― 現代美術 in 春日井」(文化フォーラム春日井、愛知)、「PLAY vol.1 -表現における遊戯性 」 (高浜市やきものの里かわら美術館 、 愛知)、芸術大学連携プロジェクト「Sky Over III 」(アートラボあいち大津橋・長者町)
2017年 タネリスタジオ(瀬戸市)創設、 主宰を務める。「 惑星ノマ PLANET NO MA 」(ボーダレ ス・アートミュージアムNOMA 、滋賀)
2019年 個展「 INNER VISIONS 絵の帝国」(masayo shi s uzuki gallery 、愛知)、瀬戸現代美術展 2019 (旧産業技術総合研究所中部センター瀬戸サイト、愛知)、あいちトリエンナーレ 2019 連携企画事業「情の深みと浅さ」展(ヤマザキマザック美術館、愛知)
2020年 「 RECEPTOR /レセプター 」(masayoshi s uzuki gallery 、愛知)
2021年 個展「2021年 something great」(長者町コットンビル、愛知)、「VOCA展 2021 現代美術の展望─新しい平面の作家たち─」(上野の森美術館、東京)
2022年 瀬戸現代美術展 2022 (菱野団地各所、愛知)、NEWVIEW AWARDS 2022 「 Create a Melting Reality 」( 渋谷パルコ、東京)、2022年度名古屋造形大学ギャラリー特別企画展「拠点から-有馬かおる (キワマリ荘) と設楽陸 (タネリスタジオ 」展(名古屋造形大学ギャラリー、愛知)
2023年 三谷温泉アートプロジェクト「ととのう温泉美術館」(松風園、愛知)

設楽陸

関連プログラム

(1)設楽陸×日比野克彦 “アトリエ トーク・セッション

内容:リアル、VR(仮想現実 )、AR(拡張現実)に制作を広げ 、空間を超えて作品を発表する意義について対談
日時:2023年8月12日(土)13時30分~15時00分(受付13時15分~)
会場:岐阜県美術館 アトリエ
出演:設楽陸、日比野克彦(岐阜県美術館長)
料金:無料
対象:どなたでも
定員:40名、当日先着順
申込:不要

(2)VRお絵描き教室

内容:設楽陸さんと一緒に、VR(仮想現実)で絵を描いてみましょう。
日時:2023年8月20日(日)午前の部11時00分~12時00分(受付10時45分~)、午後の部14時00分~15時00分(受付13時45分~)
会場:岐阜県美術館 アトリエ
講師:設楽陸
料金:無料
対象:満13歳以上
定員 各回3名
申込:要事前申込み、岐阜県美術館Webサイトの申込フォームより先着順、7月26日申込み受付開始

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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