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瀬戸現代美術展2019

  • 2019年9月19日
  • 2019年9月19日
  • 美術

旧産業技術総合研究所中部センター瀬戸サイト(愛知県瀬戸市西茨町)
2019年9月7日〜10月14日

新聞の美術記者になりたての1990年代半ばごろは愛知県瀬戸市といえば、陶芸の取材で行くことが多かった。その後、亡くなった現代美術家の栗本百合子さんがインスタレーションを展開した愛知製陶所にも出かけた。最近再び訪れるようになったのは、今回のようなアーティストラン・スペース絡みである。近年は、窯業関係の工房や倉庫をアトリエに転用するなど、アーティストが制作拠点にしやすい環境が生まれた。本展は、そうした焼き物の町から変貌を遂げつつある現在とアーティストの存在を発信する展覧会として企画され、若手を中心に28人が参加した。会場となった「瀬戸サイト」は、日本で唯一の国立陶磁器試験所であった旧名古屋工業技術試験所瀬戸分室を前身とし、2012年に廃止された。作品は、1〜3階と窯場等に展示された。主催は実行委で、アーティストランのスペース&カフェである「Barrack(バラック)」(瀬戸市)が企画した。

栗本百合子さんは2017年12月に亡くなった。筆者も、1990年代半ば(名古屋の旧大和生命ビルのスペースが、ステゴザウルス・スタジオから旧ケンジタキギャラリーに移行して間もない時期だったように記憶する)から、栗本さんのほとんどの作品を見て懇意にしていただいた。今回、「栗本百合子アーカイブ」の拝戸雅彦さんが会場に設置したパネルによると、拝戸さんらが名古屋市内の住居兼アトリエで没後に作品関係の資料を整理する中で、栗本さんが自分の最初の作品だと認識にしたのは、1988年のステゴザウルス・スタジオでの展示で、《windows》《seven windows》というタイトルが付されていることが確認された。その後、住居兼アトリエの取り壊し直前に、裏に《windows》と記された複数のパネルが梱包された状態で発見され、拝戸さんが瀬戸市内の知人の倉に移動。これが今回、展示された栗本さんの作品の経緯である。
拝戸さんによると、これらの作品は栗本さんが作成したカタログにもPCデータにも含まれておらず、また、制作当時の状況を撮影したポジフィルムがあるかどうかなど、その他の情報についても確認が進んでいない。拝戸さんは、この作品が栗本さんの出発点に位置する作品であること、栗本さんがインスタレーションを展開する場として瀬戸に足しげく通っていたことを踏まえ、瀬戸の若手を中心としたこのグループ展に出展する意義を見出している。同時に、拝戸さんは、大和生命ビルの窓から見えた風景を描いた《windows》と比較し、窓ガラスの部分が淡い色合いでオールオーバーに塗られた今回の作品を、色面の緊張感と透明感などの特徴から、その後、光と空間の関係性をテーマに展開されていく栗本さんの方向性を指し示す貴重な作品と位置付けている。
筆者が旧大和生命ビルを訪ねるようになったとき、既にステゴザウルス・スタジオは閉鎖されていたのだが、空間が残されていたのと、ステゴザウルスでの栗本さんのインスタレーションの写真資料を見る機会がよくあったこと、そして、その後、歴史的建造物や廃屋など画廊以外の空間で展開したインスタレーションの現場を20年来見てきた体験から、拝戸さんの考察は的を射たものだと思う。また、栗本さんはアーティストである一方で、若手アーティストへの愛情を惜しまず、小さな展覧会まで丁寧に足を運ぶ人だったことからも、今回の若手中心のグループショーに展示されるのはふさわしいことに思えた。

設楽知昭

 栗本さんの作品の階下には、設楽知昭さんの作品が展示された。絵画は、非常に淡い色彩で描かれ、夢の中か記憶の奥底からたぐり寄せた仮象のようなイメージを一つの絵画空間に浮遊するように組み立てた趣がある。不定形の何か、地下室に下りる女性、洋服、熊人間のような異形、オオカミらしき獣、アイロンをかけている姿など、個々の脈絡は不明である。ただ、設楽さんの作品を見ると、いつも、思考が、人間が発明した絵画という表現形式と視覚、身体、記憶、夢などをさまよい、イメージがどこからやってくるのかと考えさせられる。自分の身体を意識させられ、浮遊感とともに自分が漂い、それらのイメージが自分の記憶とも触れ合う気がしてくるのである。

井出創太郎

 井出創太郎さんの出品作は、北海道東端に近い根室市の旧落石無線放送局で進めているアートプロジェクト「落石計画」を参照すると、窯場の空間に合わせて展示されたサイト・スペシフィックなものと言えるだろう。エッチング緑青の石膏キューブをサークル状と方形に積んで、かつて陶磁器の焼成作業がなされたであろう、時間が堆積した空間との対話を試みていた。
 この空間で展示していたもう1人は安藤正子さんで、繊細な描写で子供などを幻想的に描き、高い評価を得ていた画家が陶板を展示していたのには少し驚いた。制作する時間の流れ、方法や主題と内面との関係の変化の表れだろうか。作品は、少女と少年のイメージでいくつかのバリエーションがあり、さまざまな技法を試している。聞くと、会場から程近い瀬戸市新世紀工芸館でアーティスト・イン・レジデンスをしていたといい、大変興味深い。

安藤正子

 先ほど紹介した井出さんが参加する「落石計画」で、阿部大介さんと2014年からプロジェクトを始めた鷹野健さんも出品。2人は、建物など対象物の表面を写し取る手法を取っているが、今回、鷹野さんは、この建物の「医務室」の内部空間を皮膜のような素材で写し取っていた。いわゆるワーク・イン・プログレスで作業は進行中。できた部分から、裏庭に展示していた。

鷹野健

 この他にも、あいちトリエンナーレに出品している文谷有佳里さんの精緻かつ即興性のあるドローイングなど、まだまだ注目作はある。城戸保さんの写真は、なんでもない日常の風景の断片を奇跡のような色彩と光、美しさで切り取り、ホワイトキューブではあり得ない、普通なら邪魔になる研究室の壁面にある設備などと絶妙なバランスで展示していた。
 出品者が多く、全てに触れられないが、愛知県立芸大出身の作家を中心に絵画が多く、それぞれにしっかりしたスペースを与えられているので、見応えがある。映像や、インスタレーション、彫刻、サイトの特徴を生かした展示なども含め、アーティストにじっくり話を聞いてみたい作品が多くあった。

栗本百合子
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