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拠点からー有馬かおる(キワマリ荘)と設楽陸(タネリスタジオ) 名古屋造形大学ギャラリーで12月9-25日

名古屋造形大学ギャラリー 2022年12月9〜25日

愛知でアーティスト・ラン・スペースを開設した2人

 2022年4月に愛知県小牧市から名古屋市北区の名城キャンパスに移転した名古屋造形大学のギャラリーで開かれている2人展である。

 2人は、有馬かおるさんと、設楽陸さん。その作品を、それぞれが開設したアーティスト・ラン・スペースと関連づけながら紹介する企画である。

 有馬かおるさんは1969年、愛知県小牧市生まれ。名古屋造形芸術短大(当時)を卒業した。

 1996年に愛知県犬山市に「キワマリ荘」(及び、その中のアートドラッグセンター)というスペースを開設。その後、2007年、水戸芸術館で開催された「夏への扉―マイクロポップの時代」展への参加を機に水戸市に拠点を移し、「水戸のキワマリ荘」をオープンさせた。

設楽陸 有馬かおる

 その後、曲折を経て、2017年には、Reborn-Art Festival(リボーンアート・フェスティバル)2017への参加に合わせ、宮城県石巻市にも「石巻のキワマリ荘」を開設した。現在は、その近くでART DRUG CENTER を運営している。

 一方、設楽陸さんは1985年、愛知県長久手町(現・長久手市)生まれ。名古屋造形芸術大学を卒業した。

 2017年に愛知県瀬戸市にタネリスタジオをオープン。現在も運営している。アーティスト仲間の植松ゆりかさんと共同アトリエを中心にスタートさせたスペースである。

 スタジオを起点としたつながりから、あいちトリエンナーレ2019に合わせ、2019年、瀬戸現代美術展を開催。2022年は、2回目となる瀬戸現代美術展2022が開かれた。

 会場には、2人の作品とともに、各スペースの歴史、特長、年表などを掲示。展示は、愛知の現代美術史としても意味あるものになっている。

有馬かおる(キワマリ荘) 

有馬かおる

 筆者が有馬さんと出会ったのは、1996年ごろ。駆け出しの美術記者だったときである。有馬さんは、名古屋のウエストベスギャラリーコヅカで個展を開いていた。

 その後、犬山市のキワマリ荘も訪ねているので、このスペースの初期の雰囲気も体験している。その後、有馬さんが愛知を離れ、拠点を移してからは、作品を見る機会が減っていたので、今回は、とても楽しみにしていた。

 展示は、ドローイングから始まる。新聞紙の一部を白く塗り、たどたどしく漫画のように線を引いた作品があった。1990年代にも見た有馬さん独特の表現である。

有馬かおる

 新聞のその日の記事と直接の関連はないが、響き合うような視点も感じられる。

 社会での大きな出来事と、有馬さんの小さな作品とのギャップが、逆説的に、取るに足らない、あぶくのように小さな1人の人間存在を浮かび上がらせる。

 俳画にも似た、文章とその挿絵のような作品もある。こうした暗く、ネガティブな内面を吐露したような文章と、どこか淫靡でユーモアを感じさせる絵が、昔から、いかにも有馬さんらしい作品である。

有馬かおる

 現実からは程遠い世界観ながら、反エリート的、反美術史的で、生きにくさと、冷めた感覚をむき出しにした有馬さんの乾いた作品は、共感を誘うのではないか。

 記憶の奥底からすくい上げたような鬱屈感と倦怠感のある、弱々しく飄々とした表現だが、憎めない作風である。

有馬かおる

 アイルランドの小説家、ジェイムズ・ジョイスの「フィネガンズ・ウェイク」のページに描いた作品もあった。

 世界中の言語を散りばめ、言葉遊び、二重含意などで超難解な作品として知られる洋書のページに、プロポーションのおかしな裸の人物が描かれている。

 なぜ有馬さんが 「フィネガンズ・ウェイク」 を選んだのかは聞けていない。

有馬かおる

 有馬さんがある時期から挑戦している絵画もある。アクリル絵具で、自画像など人物の正対像を描いている。

 その他、写真と小立体もあった。写真は、波打ち際を撮影したイメージを左右対称に合成し、「境界」というタイトルをつけた4点組である。

 いろいろな解釈ができる作品だろう。有馬さんといえばドローイングだと思い込んでいた筆者からすると、意外な作品だった。

有馬かおる

設楽陸(タネリスタジオ) 

 設楽さんの父親は、名古屋の画廊・白土舎で長く個展を開いてきた父親の設楽知昭さんである。筆者は、知昭さんの作品は長く見てきたが、陸さんは、比較的最近になって作品を見るようになった。

 陸さんから作品についてしっかり話を聞けたのは、2021年の長者町コットンビル(名古屋)での個展が最初である。

設楽陸

 設楽陸さんの作品は、ゲームやレゴブロックなどの遊びの世界や、幼年期に過ごしたコミュニティー、自分で書いた架空の世界史、哲学、美術、宇宙や神秘世界、仏教などが融合した妄想的な仮想空間がモチーフである。

 今回のメイン作品は、2021年3月に開催された「VOCA展2021 現代美術の展望-新しい平面の作家たち-」への出品作である。

 多様な要素が混然と入り込んだエネルギッシュな作品である。

設楽陸

 2022年制作の「その微笑ましい顔が懐かしい」も興味深い。最初にVR空間のスタジオで描いた女神像を欠落部分がある状態で出力し、現実空間で、それに加筆していくかたちで制作した1対の作品である。

 イメージそのものが面白い上に、仮想空間で生成されたイメージが原画になって、それを基に現実空間の絵画が描かれているのが、いかにも現代的である。

 設楽さんにとって、生命力、エネルギーのアイコンである爆弾のイメージが、ここでも描かれている。

設楽陸

 2008年の作品「sea」は、縦に8点の絵画を積み上げたユニークな作品である。ほかに、創作の背景にある「架空の歴史ノート」等も展示されている。

設楽陸

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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