宮城聰が「エクサン・プロヴァンス音楽祭」でモーツァルト作曲『イドメネオ』を演出

古代ギリシアの物語に終戦時の日本を重ね、原作のスケールそのままに生々しいドラマ性を浮き上がらせる

 SPAC-静岡県舞台芸術センターは2022年6月9日、南仏で毎年開催される世界的なオペラの祭典「エクサン・プロヴァンス音楽祭」で7月6~22日、SPACの宮城聰芸術総監督が『イドメネオ』(モーツァルト作曲)を演出すると発表した。

 アヴィニョン演劇祭(2017年)、ニューヨーク(2019年)での『アンティゴネ』公演など、国内のみならず、世界的にも高く評価される演出家・宮城聰の、ヨーロッパにおけるオペラ演出のデビューとなる。

 メイン会場となる旧大司教館中庭の 「アルシュヴェシェ劇場」での公演。同劇場での日本人演出家による作品上演は、75年に及ぶ同音楽祭史上初めて。

 『イドメネオ』は、モーツァルトが25歳のときに作曲。その後のオペラ創作において重要な区切りとなった傑作である。

 クレタの王イドメネオは、自らの命を守るため神に犠牲を捧げることを誓うが、それが自分の息子と分かるや、誓約から逃れようと試み、自国民に降りかかる神の罰を傍観する。

 宮城は、この古代ギリシアの物語に太平洋戦争終結時の日本を重ねる。

 国家の命運を左右するにも関わらず自らの決断を引き受けられないイドメネオは第二次世界大戦終結時の日本の支配層に、彼が生み出した混乱を一気に解決に導く神の「声」はGHQに重なるのである。

宮城聰芸術総監督  ©加藤孝

 結末に一人憤慨する エレットラ を、国を信じて散っていった無数の戦死者たちの無念の象徴と位置付け 、原作が持つギリシア悲劇的なスケールの大きさはそのままに生々しいドラマ性を浮き上がらせる。

 今回、音楽監督を務めるのは、フランス音楽界のホープとして大きな注目を集めるラファエル・ピション。歌手陣には、テノールとバリトンの声を持つマイケル・スパイアーズ、フランスの若手ソプラノとして人気絶頂のサビーヌ・ドゥヴィエルら豪華な顔ぶれが並び、本作の核として戦死者たちの魂を表現する合唱、およびオーケストラは、ピション率いるピグマリオンが担う。

 クリエイティブチームとして、宮城と 25 年以上にわたり共に創 作を行い、代表作『マハーバーラタ』『アンティゴネ』など数多くの作品を手掛けている木津潤平( 空間構成)、高橋佳代(衣裳)が参加。

 さらに、 SPACでは『ギルガメシュ叙事詩』『顕れ』などの照明デザインを担う舞台照明家・吉本有輝子、昨年、SPACで『忠臣蔵 2021 』の振付を担当した振付家の北村明子らが参加し、唯一無二の『イドメネオ』を誕生させる。

オペラ 『イドメネオ』

作曲:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
台本:ジャンバッティスタ・ヴァレスコによるイタリア語のリブレット

音楽監督:ラファエル・ピション
演出:宮城聰
美術:木津潤平/衣裳:高橋佳代/照明:吉本有輝子/振付:北村明子
合唱:ピグマリオン、リヨンオペラ座合唱団/管弦楽:ピグマリオン

●日時(現地時間):7月6日(水)・ 8日(金)・11日(月)・13日(水)・15日(金)・19日(火)・22日(金) 各日21:30開演
●会場:アルシュヴェシェ劇場(旧大司教館の中庭)
●上演言語:イタリア語上演(フランス語および英語字幕)

あらすじ

 クレタ王イドメネオはトロイア戦争から凱旋の帰途、嵐に遭遇するが、海神ネプチューンに助けられる。王は、上陸して最初に出会う人間を生贄に捧げると海神に誓うが、息子イダマンテに出会ってしまう。

 家臣は、イダマンテをクレタに滞在中で彼を愛するアルゴスの王女エレットラとともにアル ゴスへ向かわ せるべく提案。だが、イダマンテは捕らわれの身となっている敵国トロイアの王女イリヤと愛し合っている 。

 イダマンテの危機に、イリヤは自らを生贄にと神に申し出る。すると突然、神の託宣が聞こえ、イダマンテを国王にと告げる。エレットラだけが託宣に怒るが、人々はイダマンテとイリヤの結婚を祝福する。

エクサン・プロヴァンス音楽祭

 1948年に南フランス、エクサン・プロヴァンスでスタートしたザルツブルク、バイロイト、グラインドボーンと並ぶヨーロッパ最大級のオペラ・フェスティバル。

 毎年夏にオペラ公演、コンサート、アカデミーが開かれ、 一流の指揮者と演出家の組み合わせで演劇性の高いオペラ公演を上演している。

 また、新作の委嘱、モーツァルト作品、バロック音楽、19世紀および20世紀の作品の上演を活動の柱に掲げるとともに、ヨーロッパ音楽アカデミーを創設。若手アーティストの養成に積極的に取り組んでいる。

 2011年には、勅使川原三郎が野外劇場で広大な自然を背景に、『アシスとガラテア』を演出。2020年は新型コロナウィルス感染拡大の影響により公演を全て中止。一部プログラムにつき公演やアーティストのインタビューがオンラインで公開された。

プロフィール

演出:宮城 聰

 演出家。SPAC 静岡県舞台芸術センター芸術総監督。東京大学で小田島雄志、渡邊守章、日高八郎各師から演劇論を学び、1990年、ク・ナウカを旗揚げ。国際的な公演活動を展開し、同時代的テキスト解釈とアジア演劇の身体技法や様式性を融合させた演出で国内外から高い評価を得る。

 2007年4月、SPAC芸術総監督に就任。自作の上演と並行して世界各地から現代社会を鋭く切り取った作品を次々と招聘、「世界を見る窓」としての劇場づくりに力を注いでいる。

 2014年7月、アヴィニョン演劇祭から招聘された『マ ハーバーラタ』の成功を受け、2017年、『アンテ ィゴネ』を同演劇祭のオープニング作品として法王庁中庭で上演、アジアの演劇がオープニングに選ばれたのは同演劇祭史上初めてのことであり、その作品世界は大きな反響を呼んだ。

 他の代表作に『王女メデイア』『ペール・ギュント』など。

 2004年、第3回朝日舞台芸術賞受賞。 2005年、第2回アサヒビール芸術賞受賞。平成29年度(第68回)芸術選奨文部科学大臣賞(演劇部門)受賞。2019年4月、フランス芸術文化勲章シュヴァリエを受章。

美術:木津 潤平

 建築家。東京大学大学院建築学専攻修了。(株)木津潤平建築設計事務所代表。明治大学建築学科兼任講師。アヴィニョン演劇祭での宮城聰演出『 マハーバーラタ』、2014年、ブルボン石切場『アンティゴネ』、2017年、アヴィニョン法王庁中庭など 、 野外や個性的な空間における「場の力」を読み込み、その力を最大限に活用して劇場空間へと再構築し、戯曲の世界観を表現する独特の空間構成スタイルを確立している。

衣裳:高橋 佳代

 舞台衣裳デザイナー。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン科卒。 1998年、舞台衣裳製作会社を退社後 、フリーの舞台衣裳デザイナーとして活動。 2004年、有限会社インプレッシブ設立。舞台衣裳をはじめ、ミュージシャンのPVやライブ衣裳、CM関係の衣裳デザイン製作などを手がける。

 宮城聰演出作品では、『王女メデイア』『マハーバーラタ』『オセロー』『アンティゴネ』など。

 現在はハワイ在住。日本とハワイを往復して活動している。

照明:吉本 有輝子

 同志社大学在学中より学生劇団で舞台照明を始める。2003年、NPO劇研(NPO GEKKEN)の設立に参加、京都の小劇場アトリエ劇研の運営に携わる。

 現在、Thatre E9 Kyoto 運営スタッフ。2005年、京都市芸術文化特別奨励者。2006年、1年間文化庁新進芸術家海外留学制度研修員としてパリ市立劇場で研修。2017年、維新派『アマハラ』にて第 36 回日本照明家協会賞部舞台部門大賞を受賞。SPAC作品では、『顕れ』『ギルガメシュ叙事詩』の照明デザインを担当。

振付:北村 明子

 ダンサー・振付家、信州大学人文学部准教授。1995年、文化庁派遣在外研修員としてベルリンに留学。 1994年ダンスカンパニーレニ・バッソを設立。 2010年より、東南〜南アジア各 地域のフィールドリサーチから舞台創作を展開する国際協働制作プロジェクトを開始。

 2020年からは、アイルランド~中央アジア~日本を越境する を始動。第13回日本ダンスフォーラム大賞受賞、 ACC個人フェローシップグランティスト(2015年)、令和2~3年度文化庁文化交流使(2020年)。

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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