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[IAMAS ARTIST FILE #09 〈方法主義芸術〉ー規則・解釈・(反)身体]岐阜県美術館で2023年10月11日-12月24日に開催

中ザワヒデキ 《 三五目三五路の盤上布石絵画第一番 》 1999 撮影:黒川未来夫

〈方法主義芸術〉とは何か

 「IAMAS ARTIST FILE #09 〈方法主義芸術〉ー規則・解釈・(反)身体」が2023年10月11日~12月24日、岐阜県美術館で開催される。「IAMAS ARTIST FILE」は、岐阜県美術館と情報科学芸術大学院大学[IAMAS]の連携事業。

 方法主義の 提唱者は、中ザワヒデキ。1990年代初頭に「バカCG」という日本初のへたうまコンピュータ・グラフィックスで一世を風靡した中ザワは1997年、「純粋芸術家」に転身。

 当時の快楽的ポストモダニズムの芸術的状況に対抗し、禁欲的で還元主義的な「方法絵画」を発表し、20世紀中葉のフォーマリズムによる諸芸術分断への批判として、方法への還元を主張。総合芸術とは違うかたちで、諸芸術の連携を推し進めようとした。

 こうした中ザワの唱えた2000年代初頭の芸術運動「方法主義」に、 足立智美とともに、IAMAS教員の三輪眞弘、松井茂が参加。同時代芸術を批判し、原理や規則に因る絵画、詩、音楽を発表した。

方法公式写真 2000 左から足立智美、松井茂、中ザワヒデキ 撮影:福永綾子

 4名の方法主義者たちによる野心的な芸術運動は、2000年1月1日の「方法主義宣言」(第一宣言)に端を発し、1990年前後のポストモダニズムを背景とする「なんでもあり」の状況に確固たる「アンチ」の立場を唱えつつ、2004年12月31日に幕を下ろした。

 本展覧会は、「方法主義」の活動終焉から約20年が経過した今日の芸術状況において、その活動の軌跡の意義を振り返る。「方法」によって撒かれた芸術表現の萌芽は、現代の私たちに何を残したのか。

 あるいは、ポスト・ポストモダンである同時代芸術が今も、快楽的多様性ゆえに袋小路に陥っているのだとすれば、その打開策すら提案できるに違いない。

 「われわれ方法主義者は、放縦と怠惰を学芸にもたらした自由と平等を懐疑し、倫理としての論理を復権する。」(「方法主義宣言―方法絵画、方法詩、方法音楽」、2000年1月1日)

方法公式写真 2004 左から三輪眞弘、松井茂、中ザワヒデキ 撮影 井村一巴

展覧会概要

会  場:岐阜県美術館 展示室2 (岐阜市宇佐4-1-22)
会  期:2023年10月11日(水)~12月24日(日)10:00~18:00
休 館 日:毎週月曜日(祝日の場合は翌平日)
夜間開館:10月20日(金)、11月17日(金)は20:00開場
※展示室の入場は閉館30分前まで
料  金:一般340(280)円、大学生220(160)円、高校生以下無料
※( )内は20名以上の団体料金
※身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、特定医療費(指定難病)受給者証の交付を受けている方およびその付き添いの方(1名まで)は無料

中ザワヒデキ 《 三五目三五路の盤上布石絵画第一番 》 1999 撮影:黒川未来夫

方法主義重要事項略年譜

2000.1.1
方法主義第一宣言
2000.2.29
機関誌「方法」第一号刊行
2000.9.2
「方法鼎談二〇〇〇」掲載(週刊「図書新聞」)
2000.12
「方法鼎談二〇〇〇→二〇〇一」掲載(「美術手帖」 2001 年 1 月号)
2001.1.1
方法主義第二宣言
2000.3.10-11
第一回方法芸術祭(北九州市立美術館)
2002.1.1
方法主義第三 宣言
2002.1
機関誌「方法」の英語化
2002.4.14, 28
第二回方法芸術祭(阿佐ヶ谷ギャラリー倉庫)
2003.1
機関誌「方法」の新フォーマット化
2004.5
「方法マシン趣意書」発表
2004.6
「方法マシン」始動
2004.12.31
機関誌「方法」最終号、活動終焉

中ザワヒデキ 《 二三字三九行の文字座標型絵画第三番 》 1999 撮影:黒川未来夫(みそにこみおでん氏所蔵)

見どころ

作曲家・三輪眞弘の情報科学芸術大学院大学(IAMAS )退任記念展としての一面
 IAMASで1996年より教鞭をとってきた三輪眞弘が2023年度をもって退任する。本展覧会は、IAMAS A RTIST FILE 01として、2013年に岐阜県美術館で開催された個展「逆シミュレーション音楽の世界」から、ちょうど10年、三輪眞弘の作曲の原点であるアルゴリズミック・コンポジションの作品化を後押しした方法主義時代の活動を余すところなく振り返る。

 三輪眞弘は、2007年アルス・エレクトロニカのデジタルミュージック部門ゴールデンニカ賞(グランプリ)、芥川作曲賞(2004)、芸術選奨文部科学大臣賞(2010)、サントリー音楽賞 (2021)など、数多くの賞を受賞し、「逆シミュレーション音楽」と名付けられた独自の作曲法に基づく音楽作品は世界中で高く評価されてきた。

 三輪は2002年に足立智美と入れ替わりで方法主義者となり、方法芸術を身体を介して実現するグループ「方法マシン」の活動を通じて、自身の理念を作品化してきた。本展覧会では、その軌跡を、記録映像、楽譜、テクストなどの資料で包括的に振り返る。

4名の方法主義者の作品が一挙に集う、またとない機会
 方法主義者(中ザワヒデキ、足立智美、松井茂、三輪眞弘)は、活動の途中で足立智美と三輪眞弘が入れ替わっており、4名が同時にメンバーとして活動した期間はない。本展覧会は、中ザワ・足立・松井・三輪それぞれの方法主義的作品をひとつづきに見ることができる貴重な構成となる。

 絵画、詩、音楽というそれぞれの領域で活動しつつ、「方法」においては領域がある意味で侵食し合っていた。空間を満たす多様な「方法」作品は、絵画であり、詩であり、音楽であり、規則であり、楽譜であり、アルゴリズムである。 現在は別々に国際的に活躍する4名の作家のクロッシング ・ポイントを垣間見ることができる。

詩を「展示する/しない」ことの模索
 本展覧会は、三輪眞弘に加え、詩人・松井茂がIAMAS教員として出展する。松井茂は2000年に方法同人となり、漢字の「一」「二」「三」から成る「純粋詩」や5日ごとにメール配信される「量子詩」を書き続けている。展示室に置かれたコンピュータは2002年以来、松井が配信している「量子詩」を会期中受信し続ける。

 展示では、先述の「純粋詩」に加え、「同時並列回路」と名付けられた方法詩も展示空間に「出力」され、「作品化」される。

数々の貴重な当時の作品、再演・再制作!
 本展覧会では、2000-2004年とその前後に制作された当時の作品に加え、本展覧会のために再制作・再演される数々の作品を披露する。

 足立智美の「方法音楽第9番」では、当時発表された立体楽譜のインスタレーションを再制作し、展示。

 方法提唱者である中ザワヒデキは「文字座標型絵画」作品群より、当時制作されたライトボックスやキャンバスを複数点出展する。《15個の滑車と6個の重りのあるロープ第一番 》はインスタレーションとシミュレーションで楽しむことができる。また、「盤上布石絵画」や「 n 個の変曲点のある単一曲線」の作品群も複数出品され、見ごたえ のある展示となっている。

 三輪眞弘作品のコンサート(12月9日、岐阜県美術館で)、最終日12月24日にもパフォーマンスがある。

三輪眞弘+小笠原則彰 《またりさま人形》 2003

出品作家

足立智美(1972-)パフォーマー、作曲家。方法主義の起草に関わり、2001年まで参加。音響詩、即興演奏、器楽作曲、 テクノロジーを駆使した多岐にわたる表現を通じて、独自の実験 音楽を追求する。
中ザワヒデキ(1963-)美術家。 90年代のバカCG 期を経て、2000年に方法主義を提唱、方法主義者となる(-2004) 。2010-2012年、新・方法主義者。2016年、「人工知能美学芸術宣言」に端を発する人工知能美学芸術研究会(現在)。著書『近代美術史テキスト』『現代美術史日本篇』他
松井茂(1975-)詩人、情報科学芸術大学院大学教員。2000年から04年まで「方法」同人。「純粋詩」(2001-)、「量子詩」(2002-)などを制作。詩集に『Cycle 自転車をめぐる散文詩の試み 』(engine book、2023年)など。
三輪眞弘(1958-)作曲家、 情報科学芸術大学院大学教員。2002年より方法主義 に参加し、後に方法芸術を身体運動を通して実現する「方法マシン」を結成。方法主義によって生み出された音楽創造の方法論「逆シミュレーション音楽」を提唱。佐近田展康とのユニット・フォルマント兄弟の兄。

情報科学芸術大学院大学[ IAMAS ]とI AMAS ARTIST FILE

 情報科学芸術大学院大学[IAMAS]は、科学的知性と芸術的感性の融合を目指した学術の理論及び応用を教授研究し、その深奥をきわめ、未来社会の新しいあり方を創造的に開拓する「高度な表現者」を養成するとともに、学術文化の向上及び地域の振興に寄与することを目的に、岐阜県が 2001年に開学した大学院大学。

 情報科学芸術大学院大学[IAMAS]と岐阜県美術館との連携事業「I AMAS ARTIST FILE」は2013年に始まり、本展で9回目となる。 これまでに開催した展覧会は以下のとおり。

2013年 #01 三輪眞弘 「逆シミュレーション音楽の世界」
2014年 #02 前田真二郎・齋藤正和 「記録と行為 映像表現の現在形」
2015年 #03 BEACON 伊藤高志・稲垣貴士・ KOSUGI+ANDO ・吉岡洋 「LOOK UP」
2016年 #04 ALIMO ・若見ありさ 「描く・動く 芸術とアニメーション」
2017年 #05 前林明次 「 場所をつくる旅 」
2020年 #06 クワクボリョウタ ・ 会田大也 「みるこころみるかえりみる」
2021年 #07 木村悟之・萩原健一・堀井哲史 「 ウィデオー からだと情報 」
2022年 #08 福島諭 「記譜、そして、呼吸する時間」

関連プログラム  岐阜おおがきビエンナーレ

■岐阜おおがきビエンナーレ2023 〈方法/Method〉
日 時:2023年12月7日(木)~10日(日)
会 場:情報科学芸術大学院大学 (ソフトピアジャパンセンタービル4階) 、岐阜県美術館
登壇者:池田拓実、 岡田暁生、さかいれいしう、篠原資明、中ザワヒデキ、 圜羽山圜、 松井茂、三輪眞弘、安野太郎、吉岡洋ほか(モデレータ 大久保美紀)
備 考:申込不要、プログラム詳細は「岐阜おおがきビエンナーレ2023」WEBサイト

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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