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福島諭「記譜、そして、呼吸する時間」岐阜県美術館で2022年7月5日-9月11日

IAMAS ARTIST FILE #08

 岐阜市の岐阜県美術館で2022年7月5日~9月11日、「IAMAS ARTIST FILE #08記譜、そして、呼吸する時間」が開催されている。

 「IAMAS ARTIST FILE」は、岐阜県大垣市の情報科学芸術大学院大学[IAMAS]と岐阜県美術館が連携し、2013年から共催してきたシリーズ。

 8回目となる今回は、新潟県を拠点とし、IAMAS博士後期課程に在籍する作曲家、福島諭さんの個展である。

 福島さんが作曲した音源を基にしたサウンド・インスタレーションであると同時に、それを美術の方へと展開したのが大きな特徴である。

 特に、メインの2作品は、「設置音楽」という概念で展示されている。「設置音楽」は、2017年、東京・ワタリウム美術館で開催された展覧会「坂本龍一|設置音楽展」で使われたキーワードである。

 一般的なサウンド・インスタレーションが、時間性よりも主に空間性を意識して音を展開するのに対し、「設置音楽」では、時間軸を明確にもつ音楽が先行して存在し、その理想的な再生を重視したうえでの空間性を目指している。

 ちなみに、ワタリウム美術館での展示は、高谷史郎さんが空間構成と映像を担当した。

福島諭「記譜、そして、呼吸する時間」

福島諭「記譜、そして、呼吸する時間」

 作品9点が展示されているが、この記事では、3つに分類して記述する。メインとなるのは、③の福島さんが作曲した室内楽の「設置音楽」である。

①福島さんが他者とのやりとりを交えて創作した音楽や平面、映像の作品5点

「変容の対象 2009-2020」(2009-2020年)
 福島さんと濱地潤一さん(作曲家)が一定の規則にしたがい、交互に連鎖するように作曲していくという共同性によって完成させた音楽作品。

並列画像No.01-No.12」(2021-2022年)
 福島さんと新潟県の写真家、遠藤龍さんによる共同作品。一方が提示した写真イメージに、他方が、響き合う写真イメージで応え、対話するような2点を一対の作品として展示している。

福島諭「記譜、そして、呼吸する時間」

「Twill The Light(051-057)」(2018年)など3点
 プログラミングによって、左右の画像情報を処理しながら、中央に動画として新たなイメージを作り出していく作品、福島さんともう1人が往復書簡のように互いに相手の提示した静止画データに加工を加えながら、スライドショーのかたちで展開する作品など。

福島諭「記譜、そして、呼吸する時間」
福島諭「記譜、そして、呼吸する時間」

②特別展示 佐藤慶次郎さんの2作品

 福島さんと同様、作曲から造形へ表現を拡張した佐藤慶次郎さん(1927-2009年)による電子オブジェ2点である。

「エレクトロニック ラーガ」(1979年)岐阜県美術館所蔵
 オブジェの上部にある2つのマウンド状の金属部に両手を触れると、音階を発する。接触面積に応じて音が変わり、広いほど高音になる。

「花開」(1974年)岐阜県美術館所蔵
 正方形の石膏の台座の中心部から、全体が花びらのような形になった12本の軸が上に向けて展開し、その1つ1つの軸をマグネットリングが不規則に上下運動を繰り返している。

③コンピューターと木管楽器による室内楽作品の空間展示「設置音楽」2作品

 サウンド・インスタレーションであるとともに、室内楽の響きが分解、再構成される課程が分かるような展示になっている。

設置音楽《patrinia yellow》for clarinet and computer(2022年)
 クラリネット奏者1人とコンピューターによるライブエレクトロニクス作品(2013年)を設置音楽として構成した。

 ライブエレクトロニクスは演奏時、リアルタイムに生の音響を直接マイクで拾い、電子的、電気的に変調させる技術。

福島諭「記譜、そして、呼吸する時間」

 中央にクラリネットの演奏を流すスピーカーがあり、それを囲む4つのスピーカーからは、その演奏をサンプリングしながらコンピューターが加工処理して振り分けた音響が流れる。

 タイトルの《patrinia yellow》は、オミナエシの花。楽曲はその1年間の周期をイメージして作曲されている。

 2014年に、第18回文化庁メディ芸術祭アート部門で優秀賞を受けた。 

 設置音楽《春、十五葉》~五管の木管アンサンブルとコンピューターのための~(2022年)
 木管(クラリネット3、オーボエ、アルトサクソフォン)奏者5人とコンピューターによるライブエレクトロニクス作品(2015年)を初めて設置音楽として構成した。

 中央に3つのクラリネットと、オーボエ、アルトサクソフォンの演奏を流すスピーカーがあり、それを囲むように6つのスピーカーを配置。木管アンサンブルの室内楽をコンピューターがリアルタイムにサンプリングしながら加工処理し、6つのスピーカーに振り分けるように全体を構成している。

福島諭「記譜、そして、呼吸する時間」

 コンピューターによってサンプリング後に加工処理された音は、人間の扱う領域から遠い響きを象徴するものとして、1オクターブ12音階を15音に等分した平均律が用いられている。

開催概要

会 期:2022年7月5日(火)~9月11日(日)10:00~18:00
※企画展開催期間中の毎月第3金曜日は20:00まで開館
※入場は閉館の30分前まで
休館日:毎週月曜日(祝日の場合は翌平日)
会 場:岐阜県美術館(岐阜市宇佐4-1-22)
観覧料:一 般340円(280円)、大学生220円(160円)、高校生以下無料
※( )内は20名以上の団体料金
※身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、難病に関する医療費受給者証の交付
を受けている人、および付き添いの人1名は無料

関連プログラム

福島諭 アーティストトーク

 出品作家の福島諭さんが自作について語る。ゲストに2021年に第31回芥川也寸志サントリー作曲賞を受賞し注目が集まる作曲家、桑原ゆうさんを迎える。

日時:7月17日 (日)14:00~15:30(受付 13:45〜)
会場:岐阜県美術館 講堂
出演:福島諭(本展出品作家) 桑原ゆう(ゲスト)
料金:無料
定員:70名(先着順)

コンサート 「エレクトロニック ラーガのための室内楽」

 《エレクトロニックラーガ》(佐藤慶次郎、1979年、岐阜県美術館所蔵)を演奏する。

日 時:8月28日(日) 14:00 〜15:30
出 演:福島諭、福島麗秋、濱地潤一、飛谷謙介(Mimiz)、鈴木悦久(Mimiz)
ゲスト:石川喜一(ピアノ調律師・美術家)

三輪眞弘+福島諭二人展

 2022年9月18日午後2時から、岐阜市のサラマンカホールで、「佐治敬三賞受賞記念〜ぎふ未来音楽展2022 三輪眞弘+福島諭二人展」がある。

 コンサート、シンポジウムで構成される。全席自由2000円。詳細は、サラマンカホールのWEBサイトで。

プロフィール

福島諭

 1977年、新潟生まれ。作曲家。情報科学芸術大学院大学[IAMAS]修了。現在、博士後期課程在籍。作曲を三輪眞弘に師事。

 2002年から、リアルタイムなコンピュータ処理と演奏者との対話的な関係によって成立する作曲作品を発表。即興演奏とコンピュータによる独自のセッションを試みるバンド Mimizのメンバー。

 濱地潤一との共同作曲による室内楽作品《変容の対象》を2009年から継続。近年は、共同制作のあり方を音楽以外の表現へ拡張している。2016年、G.F.G.S.レーベルよりCD「福島諭:室内楽2011-2015」をリリース。日本電子音楽協会理事。

 主な賞歴として、2014年、第18回文化庁メディ芸術祭アート部門優秀賞、2017年、「坂本龍一|設置音楽コンテスト」佳作など。

桑原ゆう

 1984年生まれ。東京藝術大学大学院修了。

 日本の音と言葉を源流から探り、文化の古今と東西をつなぐことを主軸に創作を 展開。国立劇場、静岡音楽館AOI等、国内外で多くの委嘱を受け、世界各地の音楽祭や企画で作品を発表。 第31回芥川也寸志サントリー作曲賞受賞。桑原さんのWEBサイトも参照。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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