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「IAMAS ARTIST FILE #07  木村悟之/萩原健一/堀井哲史」岐阜県美術館で3月6日まで 

ウィデオー / からだと情報

 岐阜市の岐阜県美術館で2021年12月21日~2022年3月6日、「IAMAS ARTIST FILE #07 ウィデオー/からだと情報 木村悟之/萩原健一/堀井哲史」が開催されている。

 「IAMAS ARTIST FILE」は、岐阜県大垣市の情報科学芸術大学院大学[IAMAS]と岐阜県美術館が連携し、2013年から共催してきたシリーズ。今回が7回目となる。

 映像メディアによる表現を追究してきた3人のIAMAS出身アーティスト、木村悟之さん、萩原健一さん、堀井哲史さんが参加している。

 電子的映像を表す「ビデオ」という言葉の語源であるラテン語「videō (ウィデオー)」が「私は見る」という意味であることから、身体性に着目。からだと情報の関係をテーマに据えた。

概要

会  期:2021年12月21日(火)~2022年3月6日(日)10:00~18:00(入場は17:30まで)
夜間開館:2022年1月21日(金)、2月18日(金)は20:00まで開館(入場は19:30まで)
休 館 日:毎週月曜日(祝日の場合は翌平日)、年末年始 12月27日(月)~2022年1月4日(火)
場  所: 岐阜県美術館 展示室2(岐阜市宇佐4-1-22)
観 覧 料:一般:340円(280円)、大学生:220円(160円)、高校生以下無料
※( )内は20人以上の団体料金
※身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、難病に関する医療費受給者証の交付を受けている人及び、その付き添いの人1人までは無料

木村悟之

 木村悟之さんは1977年生まれの映像作家。IAMASを修了し、現在は石川県を拠点に活動している。

 主な展覧会・発表に、「21st DOMANI・明日展」(2019年、国立新美術館)、第18回文化庁メディア芸術祭受賞作品展(2015年、国立新美術館、審査員推薦作品)、第60回オーバーハウゼン国際短編映画祭(2014年、Second Prize, MuVi Award,ドイツ)、Film by Music(2013年、山口情報芸術センター[YCAM])がある。

 代表作は、自ら設定した規則に従って撮影する「軌跡映画」。ハンディGPSを使い、緯度・経度の数値情報から、自分がどう移動するのか、何を対象とするのかなどを条件付けて、映像作品を制作している。 

木村悟之

 原点ともいえるのが今回も展示された「軌跡映画1」。2004年のIAMAS時代に大垣エリアで撮影された 。

 GPSと図面から撮影ポイントを特定。地面や樹木などにビスを打ち込んで撮影地点を決めて映像を撮り、さらに別の地点へと移動し、「まだ見ぬ風景」をつなげていく。

 4カ所で撮影した映像はモニターで見せ、当時のビスも掘り起こして展示した。撮影当時の2004年と2021年の17年間の時間の厚みが感じられる作品である。

 こうした試みは大垣以外でも続けられ、アーカイブ化している。「軌跡映画4」は、そうして撮られた複数地点のシークエンスをつないだ映像の1つである。

 新作のビデオ・インスタレーション「飛行物体」は、岐阜県揖斐郡に伝わる神話がモチーフ。縦長の映像と関連資料が展示されている。

木村悟之

 モチーフは、「古事記」『日本書紀』などに登場する誉津別命ほむつわけのみこと。本牟智和気命、品津別皇子とも表記される神話上の人物である。

 木村さんは、言葉を発することができなかったとされるこの人物に関わる伝承地を撮影。地理上の位置関係や空間性をGPSで捉え直しながら、 アニメーション、ゲームの世界なども織り交ぜ、作品化した。

 古代日本人によって創造された神話世界の虚構、伝承地の空間性が、衛星からのグローバルな位置情報の視点から再構築されるのが興味深い。さらなるフィクションやズレによって、メタレベルの映像に変換され、空間や物語の豊かさが生成される。

木村悟之

萩原健一

 萩原健一さんは1978年、山形生まれの研究者・映像作家。

 写真表現を軸に、映像メディアを用いて作品を制作。2005年、文化庁新進芸術家国内研修として、山口情報芸術センター[YCAM]に滞在後、2007年、IAMAS修了。IAMAS助教を経て、2017年から秋田公立美術大学准教授を務める。

 企業やプログラマーと協働したメディア教育教材の開発を研究の軸としている。『sight seeing spot』でART AWARD TOKYO 2007特別賞受賞。同作品は第11 回文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品にもなった。

 主な展覧会に、scopic measure#6(2007年、山口情報芸術センター)、Media/Art Kitchen(2013年、東南アジア)など。

萩原健一

 今回は、映像メディア教材の開発、研究に関わる中で、アニメーションの授業を展開したときのドキュメンテーションを展示。

 2021年秋、岐阜県の中学生、高校生に向けて、独自教材「フレット・アニメーション」を使って実施したワークショップについてリポートしている。

 全体像が見えるように、わずか4つのコマ割りでアニメーションの原理を子どもたちに伝える試み。実際に体験できるように展示されている。

 「SUGATAMI」は、同じ人物による同じダンスを異なる日時に撮影し、その3つの映像を同期させた作品。

 IAMAS在籍時の2008-2010年、大垣市内の同じ場所でダンスをしている人に声をかけて制作した、ある種のコラボレーションである。そうした共同性とともに、それぞれの映像に生じるズレによって、 時間と空間、身体の1回性も強調される。

萩原健一

 「TRAIN」は、スマホで文字入力をしているときの指の動きと、眼差し、表情を画面からの視線で捉え返すように撮影した映像である。

 SNSなどでコミュニケーションをとるときの共通した指の動きと、自分では見ることができない眼差し、表情との同期したような関係がとても繊細に見える。

萩原健一

堀井哲史

 堀井哲史さんは1978年生まれ。ライゾマティクスに所属するビジュアルアーティスト・プログラマーである。 東京造形大学デザイン学科、国際情報科学芸術アカデミー[IAMAS]DSPコース卒業。

 既存のソフトウェアやツールに頼らない、コンピュータならではの動的な絵づくりからプログラミングまでを一貫して行い、エンターテインメント、アートなど、さまざまなフィールドでインタラクティヴ作品、映像制作に取り組んでいる。

 プログラミング/デザインを担当した『Perfume Global Site Project』は、第16回文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門大賞、カンヌ国際広告祭など多数受賞。

 2014年、elevenplay の『MOSAIC』で映像を担当。2014年度のD&AD年鑑に、脳波をビジュアライズしたグラフィックを提供するなど形態にとらわれない制作活動を展開している。

堀井哲史

 人体の動きと位置を記録し、データ化するモーションキャプチャによって、ソロダンスを2つの映像に変換した作品「Light and Shadow 」がメインである。

 米国ワシントンD.C.のアーテックハウスで2019年に発表された作品。ダンサーの手足の軌跡や動きが空間に与える影響を視覚化した。今回は、岐阜県美術館の空間に合わせて特別に作り直した。

 「Light and Shadow 」に含まれる動きや形態の情報を基に、別の要素も加えて再構成した映像作品も展示している。

堀井哲史

 メインのパノラミックな映像は、2つのプロジェクターを同期させて投影。華麗さを極めたエネルギー、迫力、激しさと優雅さ、繊細さ、透明感を併せ持った映像が見る者を包み込む。

  正面生が強く、比較的フラットな印象の強い映像でも、多視点的で、深い奥行きを感じさせる映像でも、ダンスの身体性がめくるめくような色彩とダイナミズムとなって展開する。

 生身の身体の動きから生成されたグルーヴィーな映像が見る者を引き込み、自らもその空間にいるような没入感を体験させる。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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