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「ON―ものと身体、接点から」清須市はるひ美術館(愛知)6月25日-8月21日

ON―ものと身体、接点から

 愛知県清須市の同市はるひ美術館で2022年6月25日~8月21日、物と物、身体が接するという視点から、4人の若手作家の作品や制作過程に注目した現代美術展「ON―ものと身体、接点から」が開かれている。

 「触れ合う」「こすれ合う」「表面を流れる」「転がる」など、物と物、身体が接する状態を示す「ON」をキーワードに、目、耳、鼻、舌、皮膚など人間の感覚器官を使って触れていることに感性を働かせている作家を紹介する。

谷本真理

 谷本真理さんは1986年、兵庫県生まれ。2012年、京都市立芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。

 主な展覧会に、「ショーケースギャラリー 谷本真理展」横浜市民ギャラリーあざみ野(神奈川、2020)、「清流の国ぎふ芸術祭 Art Award IN THE CUBE 2017」岐阜県美術館(岐阜、2017)、「新・陶・宣言」豊田市美術館(愛知、2011)など。

谷本真理

 谷本さんは、作りかけた粘土を床に壁にぶつけるなど、作為や意図の不自由さから自分を解放するような身体感覚を通じて、素材やメディウムに自分の皮膚感覚が憑依して空間に広がる感覚を大切に制作してきた。

 今回のインスタレーションも、しわの寄ったシーツに乱雑に置かれた陶器や、吊るされたティーバッグから滴り落ちた紅茶のシミによって、そこで何かが行われたような感覚を作品にしている。自由で、ゴールのない瞬間の充実を楽しんだ、あたかもダンスの軌跡のような痕跡がある作品である。

谷本真理

 やきものや、絵画においても、流れる釉薬や絵具の広がり、にじみが、イメージのうつろい、錯綜、オーバーラップなどの効果となっている。

 完成したイメージでなく、進行しつつあるもの、生成し、変化するものそれ自体を楽しんだ、エネルゲイア的な感覚を呼び覚ます作品である。

谷本真理

水木塁

 水木塁さんは1983年、京都府生まれ。2006年、京都市立芸術大学美術学部漆工科卒業。2016年、京都市立芸術大学大学院美術研究科メディア・アート領域博士号取得。


 主な展覧会に、「VOCA展2020 現代美術の展望―新しい平面の作家たち」上野の森美術館(東京、2020)、「行為の編纂」TOKAS 本郷(東京、2018)、「鏡と穴-彫刻と写真の界面 vol.3 水木塁」gallery αM(東京、2017)、「水の情景―モネ、大観から現代まで」横浜美術館(神奈川、2007)、個展「liquid space」法然院(京都、2005)などがある。

水木塁

 作品は、地面に落ちた植物の影や、スケートボードの滑り止め用デッキテープで構成したタイル状の凹凸、ざらついたテクスチャー、あるいは、にじむような陰影、色彩が印象的である。あえて、美術館の壁の湾曲に張り付くように平面を展示し、壁のカーブをそのまま作品に取り入れている作品もある。

 スケートボーダーである水木さんは、ウィール(車輪)で都市の構造を観測するように動く身体感覚や、そこから見えてくる視覚を作品に反映させている。

水木塁

 地面の水平性や、それに垂直に交わる壁、傾斜や湾曲、凹凸やテクスチャー、幾何学形をひと続きのものとして、そのディテールに接しながら動いていくスケートボーダーとしての身体感覚、視覚によって、空間を相対化した作品と言ってもいいのではないか。

 そうした意識が、スニーカーの箱を展開して、コンパスで曲線を描いたドローイング作品にも反映されているのだろう。

水木塁

文谷有佳里

 文谷有佳里さんは1985年、岡山県生まれ。2008年、愛知県立芸術大学音楽学部作曲専攻卒業。2010年、東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了。

 主な展覧会に、「あいちトリエンナーレ2019 情の時代」愛知県美術館(愛知、2019)、「文谷有佳里̶往来する線 Between Line and Drawing̶」茅野市美術館(長野、2013)、「ポジション2012名古屋発現代美術~この場所から見る世界」名古屋市美術館(愛知、2012)など。

文谷有佳里

 瀬戸現代美術展2019にも出品。2022年1-3月の「愛知県美術館 若手アーティストの購入作品公開の第3弾」でも作品が展示された。

 見る者に身体感覚が伝わるように引かれた線の重なりによって空間がつくられる。作品タイトルに制作した日付がつけられていることから、生の痕跡として線を引く行為とその時間が連鎖して空間が生成していることが分かる。

文谷有佳里

 シンプルにして複雑である。白地に黒い線だけで描き、豊かな多層的な世界が現れる。ダンスのような身体性が、即興性、パフォーマティブな感覚、流動感、疾走感、浮遊感とともに感じられるとともに、それだけでなく、精緻な構成、パースペクティブをもっているのがなによりも魅力。モノクロームの繊細な線と形が緊張感と豊かな空間性をうみだしている。

 あいちトリエンナーレで試みたように、今回も、展示ケースや美術館入り口のガラス面に描き、現実空間にも働きかけている。

文谷有佳里

時里充

 時里充さんは1990年、兵庫県生まれ。2010年、岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー [IAMAS]卒業。2012年、多摩美術大学情報デザイン学科卒業。

 展覧会は、第12回恵比寿映像祭「時間を想像する」東京都写真美術館(東京、2020)、「フィジーク トス」アキバタマビ21(東京、2019)、「アスリート展」21_21 DESIGN SIGHT(東京、2017)など。小林椋さんとのユニット「正直」としても活動している。

時里充

 映像作品が2点出品された。

 1つは、縦長のスクリーンに人形が動きながら会話を交わしている映像である。元になっている映像は、時里さんが自宅周辺などで撮影したものだというが、作品からは、そうした印象は受けない。

 随所に違和感がある映像は、コンピューターによる解析、人工知能、声優、手の動きなど「他者」の介入によって、意図的に動きや物語の台本、声色などを変換しているとのことである。つまり、動画の各要素の「接点」をずらしている。

時里充

 2つの映像によって、手の動きをテーマにした抽象的な作品もある。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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