masayoshi suzuki gallery(愛知県岡崎市) 2025年5月23日〜6月14日
関智生
関智生さんは1965年、奈良県生まれ。名古屋芸術大学卒業。英国ノッティンガム・トレント大学Fine Artで修士取得。セントラル・セント・マーティンス・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインでAssociated Student修了。
masayoshi suzuki galleryでの2020年個展レビュー、2025年の個展レビューをそれぞれ参照。
関さんは1998-2003年の5年に及ぶ英国留学を終え、2004年ごろに帰国。日本の森の繁茂する緑の生命力に魅了され、2009年ごろから樹木や草むらを緑の補色である赤の単色で描く。
この《Real/Red》シリーズを展開する中で、のちに東洋陶磁器を想起させる青色の単色絵画も描いている。

これらは木々の葉、枝、草などの緑を、線やドットとして記号化して描いている。これを関さんは「触覚的な筆跡」としている。記号的でありながら、筆触の豊かさを失わないことがここでは重要である。そして、この筆触は屋外の緑の豊かさとつながっている。
これらは、現場で撮影した写真をプロジェクターで支持体(キャンバス)に投影し、トレースしながら、「光の風景」として再現する方法を採用した。
それゆえ形式的な要素もあり、この時期の作品はシステマティックな印象も与えるが、決して、描くことや筆触の感覚性をおざなりにしているわけではない。

2017年ごろ、室内でプロジェクターを使ってトレースする描き方を離れ、印象派のように現場で描くスタイルに移行。《実存南画》と命名した。ここで「実存」とは、関さんが眼の前にある対象を屋外でありのままに描く自身のスタイルのことを言っている。
描く場所を選び、自分の内面と外界の時間、ありのままの感覚をシンクロさせ、その場の空気を感得しながら現地で描くことを重視することで、自分が今、そこにいること、まさしくその時間に描くことによる光と影、風と揺らぎ、湿度、世界の厚みと触覚などの感覚性と、南画的な筆跡の融合を図った。
自分が、そのとき、そこで感じた風景を描くことから、関さんはこの連作を「一人称絵画」と呼んでいる。

画面は単色の線や点、滲みで構成され、抽象的にも見えるが、まさに筆触の集積が現場ならではの雰囲気をたたえ、先の《Real/Red》と比べ、生命体や血液のように生々しく見える。森林のまがまがしさがリアルに現れているといえるだろう。
眼振 2026年
2021年ごろから新たに描くようになったのが、《眼振》シリーズである。この連作では、《Real/Red》と同様、再び制作場所を室内に移し、プロジェクターで投影した風景をなぞるように描いた。
従来の《Real/Red》と異なるのは、タイトルにあるように眼が振動するように、水平方向に画面がスライドするズレ、揺らぎの感覚で描かれていることである。

プロジェクターを使い、「光の粒子」を記号化してトレースした後に、ブラシで絵具をずらして(スキージーして)、画面をブレの状態する。
この作品シリーズに至ったのは、関さんが生まれ故郷の奈良県に帰ったことも大きい。奈良の歴史風土の多層的な時間を1枚の絵画に封印するため、この方法が採られた。
今回の個展の作品群は、2024年、ニューヨークのギャラリーで発表した2023、2024年の作品が中心となっている。奈良・西大寺の桜など、関さんが暮らす身の回りの風景である。

ニューヨークの個展ののち、作品が現地に滞留し、日本に巡回できないでいたが、ようやく今年の3-4月、東京・神宮前のギャラリー・イリテュム・トウキョウで展示。本展は、その愛知での巡回展示である。
積層する時間の、さまざまな人たちの眼差しの重なりを、横ずれの絵画イメージに重ね合わせたのである。
時代を超えたさまざまな視線が揺らぎのように重ね合わされたこのシリーズを関さんは「三人称絵画」と呼んでいる。今後の展開が期待される。