横山奈美 《forever》岐阜県美術館で滞在制作 12月21日-1月23日公開

アーティスト・イン・ミュージアム AiM Vol.11 横山奈美

横山奈美

 アーティストが滞在制作するプロセスと作品を公開する岐阜県美術館の「アーティスト・イン・ミュージアム AiM Vol.11 横山奈美」が2021年11月12日〜2022年1月23日に開催される。

 公開制作は2021年11月12日(金)~12月11日(土)で、作品展示は12月21日(火)~2022年1月23日(日)。会場は同館アトリエ。

 滞在制作では、《forever》というドローイング作品を制作した。横山さんはこの作品を含め、一貫して、人間によって定められた価値や美しさとは何かを問い掛けている。

 芝生に寝そべる十代の頃の自分自身を一定期間描き続けるシリーズで、2020年、名古屋のKENJI TAKI GALLERYでの個展「誰もいない」では、1週間のバージョンが公開された。

 前日の絵を見ながら同じように描き続けるルールのもとに制作。今回は30日間、毎日、美術館のアトリエで描いた。

 KENJI TAKI GALLERYでの展示では、木炭で描いたが、今回は木炭と鉛筆を使っている。

横山奈美

  KENJI TAKI GALLERY で展示した最後の絵のコピーを基に1点目を制作。あとは、それを模写するように30日間、1日も休まず1点ずつ描いた。

  30点の自画像を壁に左から右に時間が流れるように展示。制作時の映像も公開されている。1点の描き始めから完成までの2時間半のノーカット映像で、集中力の持続がすごい。

 いずれも、芝生に寸胴な日本人っぽい少女が両手を頭の下にして横たわっている。

 基本的に前日の絵を模写するように描いているが、Tシャツのロゴ“forever”のデザインだけが毎回、変わっている。 寝そべっている少女が毎回、自宅に帰って、 Tシャツを着替えているイメージである。

 1日1点ずつ描いた作品がその日に対応しているという点で、河原温のデイト・ペインティングを思い起こさせる作品である。

横山奈美

 それぞれの少女の絵は、横山さんのある1日のかけがえのない生の痕跡であると同時に、日々を生きている私たち1人1人の普遍的な存在のメタファーにもなっている。

 横山さんの描く少女は、どこか野暮ったい外見で、何をするわけでもなく、ただ、ぼーっと寝そべっている。

 特別な存在ではなく、普通の人として素朴に生きていて、他人から承認されるわけでも、評価されるわけでもないが、平凡なその存在において認められている。

 そのあたりが、超然とした存在感をもつ河原温のデイト・ペインティングとは異なる。

 単色で塗ったキャンバスに白い文字で制作年月日だけを描いた デイト・ペインティング はクールで抽象的。世界/存在への飛躍があるのに対し、横山さんの《forever》は等身大である。

 あたかも、それは、何でもない日々のつながりの中にこそ生きる意味があるのだと言いたげである。

横山奈美

 横山さんは、人生の価値、生の価値を問いかけているのだ。取るに足らない毎日を生きる1日1日にどんな意味があるのか。人生とは何か。幸福とは何かと。

 この作品が提示するのは、グローバルなテーマでも「大きな物語」でもなく、一人一人の「小さな物語」である。変わりばえしない毎日が繰り返される普通の日々である。

 人生に意味があるのは、達成ではなく、連続する刹那においてである。過去でも未来でもなく、そのとき、そのとき、喜び、笑い、そして悩み、悲しみ、悔しがり、もがき、それでも諦めずに希望とともに生きる毎日である。

 横山さんの《forever》は、何度打ちひしがれても立ち上がり、歩き続けること、今ここを大切に、精一杯、普通に生きることの大切さを暗示している。

 その意味でも、1つのドローイングが前の日のドローイングとの関係性によって成り立ち、さらに次の日のドローイングを生み出すことが重要なのである。

 河原温のデイト・ペインティングでは、ある1日の絶対性に重きが置かれているのに対し、横山さんの《forever》は、連続性と普通であることを重視している。

 横山さんの作品は、日々の葛藤と休息の中で、その人自身の中にある価値を大切に、普通に生きることの尊さを教えくれている気がする。

 そうした感覚が体と心にしみこんでくると、1日の一瞬一瞬に出会う人や、関わった物、人間もその他の小さき生き物も植物も無生物も大地も宇宙もすべてが、自分が今生きていることの背景にあること、それらに支えられて生きていることへの感謝、安心感が体の奥の方からわきあがってくる。

 そんな感覚ともつながるこの作品は、筆者を含め、人生に悩む多くの人にとって重要な作品になるはずである。

 河原温のデイト・ペインティングとは異なる意味で、とてもいい作品である。横山さんの代表作の1つになるだろう。

 作品については、2020年の個展「誰もいない」のレビューも参照。

横山奈美

 横山奈美さんは1986年、岐阜県生まれ。2010年、愛知県立芸術大学油画専攻卒業、2012年、愛知県立芸術大学大学院美術研究科 油画版画領域修了。豊田市美術館愛知県美術館などに作品がコレクションされている。

 消費され捨てられる物に光を当て、それを描く「最初の物体」シリーズ(2012 年〜)や、ネオンをモチーフに、ガラス管や背後に存在する配電線、フレームまで克明に描く「ネオン」シリーズ(2016 年〜)など、物を見て描くという行為を通し、私達や物に与えられた役割や制度を再考する。

 近年の主な展覧会に「誰もいない」 (KENJI TAKI GALLERY、2020 年)、「アペルト 10 横山奈美 LOVE と私のメモリーズ」 (金沢 21 世紀美術館、2019 年)、「開館 25 周年記念コレクション展 VISION Part 1 光について /光をともして」 (豊田市美術館、2020 年)、「日産アートアワード 2017 」
(BankART Studio NYK、2017 年)など。

作家ステイトメント

横山奈美
横山奈美《painting》2020年 麻布に油彩 
撮影:若林勇人

 私は、日々の生活の中から見つけた消耗されていくもの、廃棄されていくものをモチーフに静物画を描いています。消耗品や廃棄品は最後には捨てられる宿命を持って作り出されます。その物にとってはどうしようもない事です。
 中学生の頃、私はアメリカ人のアイドルに憧れていました。どうしたら彼女のようになれるかを考え、金髪のウィッグを被ったり、水色のアイシャドウをたっぷり塗ってみたりしました。でも、いつも近づこうとするほど彼女との違いに打ちのめされたのです。私にとってのどうしようもない事は、日本人だという事でした。
 私が選んだこの油彩画というメディアも、西洋からの輸入によってもたらされたものでした。輸入されて間もない頃、高橋由一をはじめとする画家たちは、今でいう3D のような奥行きのある絵画や、油絵具の美しいタッチに魅了されました。海の向こうのアイドルに憧れた私と同じように、西洋絵画に憧れ習得しようとしていたのだと思います。彼らの作品からは西洋への憧れと現実のせめぎ合いを感じます。
 西洋の長い絵画の歴史の壁が立ちはだかる前で、日本人としてどんな油彩画が描けるのか。それは壁を見上げるのではなく、自分の足元にあるどうしようもない事をいかに作品として立ち上がらせるかだと思います。私にとってそれは日本の油彩画の原点に戻り、日常から見つけたものをモチーフに静物画を描くことです。モチーフは捨てられるものですが、そのものの全てを逃さず隅々まで描いていきます。本来主役にならないものたちを主役にすることで、与えられた意味、用途から離れて、人間よりも大きな物体や生物、風景へと見え方が変わっていきます。捨てられていく物たちの宿命という柵を取り払い、そのものが持つ根源的な存在感を現しています。
 現在は廃棄される物の他に、ネオンを描くシリーズを制作しています。ネオンは廃棄される物ではありませんが、目立ってしまうと格好悪いとされている裏側の配電線のチューブや軸に焦点を当てて描いています。ネオン管の光を理想や憧れ、裏側を取り繕えないことに見立てて一枚の絵画に描く。理想や憧れと共に誤魔化せない格好悪い部分が表に現れます。そして露わになったネオンの光の背後で交差する配電線の黒いチューブや軸は、絵画を支える構造の一つになり、ネオンの光の美しさと同等に、表舞台に立ち上がってきます。
 世の中にはどうしようもない物事がたくさんあります。でもそれは壁を見上げたり、決められた価値に囚われているだけかもしれません。私はその囚われた柵から自分や物を解放するために、外から決められた価値や美しさではなく、全てのものに備わっている根源的な美しさ、存在意義を絵画を通して表現しています。

展覧会概要

アーティスト・イン・ミュージアム AiM Vol.11 横山奈美

場  所/岐阜県美術館 アトリエ
公開制作/2021年11月12日(金)~12月11日(土)
作品展示/2021年12月21日(火)~2022年1月23日(日)
開館時間/10時00分~18時00分
夜間開館/11月19日(金)、2022年1月21日(金)は、20:00まで開館
休 館 日/毎週月曜日(祝日の場合は翌平日)、12月27日(月)~2022年1月4日(火)
料  金/無料

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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