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愛知県美術館 2020年度第3期コレクション展

愛知県美術館 第3期コレクション展

 名古屋・栄の愛知県美術館で2020年9月19日 ~ 12月6日、2020年度第3期コレクション展が開かれている。

 4つのセクションごとに作品が展示された。

私は生まれなおしている──令和2年度新収蔵作品を中心に──

展示室5前室2

コロナ禍の支援 若手の現代美術作品

 コロナ禍の緊急支援策の1つとして愛知県が購入した若手アーティストの現代美術作品の第1弾を中心とした展示。既に美術館が所蔵するモーリス・ルイス、榎倉康二などの作品との関係性も楽しめるよう同じ空間に並べられた。

 基金による毎年約3000万円の作品購入とは別に2020年度から3カ年、20〜40代の若手作家の作品購入予算として、県が1億円の特別枠を設けた。詳細は、「愛知県が1億円(3年間)の特別枠 県美術館が若手作品を購入」

高山陽介

高山陽介

 高山陽介さん(1980年、群馬県生まれ)の作品は、チェーンソー、のみによる木彫を中心に数多く展示された。

 多くは頭像だが、一部は、犬を連れて散歩している女性像もある。デフォルメされ、頭像は異形のようなおどろおどろしい雰囲気もある。

高山陽介

 木彫であることを意識させないように表面に艶やかな塗料を厚く塗り固めるなど、さりげなく、彫刻という形式をずらす挑戦もしている。

 頭像の首を缶コーヒーの空き缶で作っているのは、その1つ。大型の彫刻を背後で固定しているのは、ペットボトルの水である。あえて、制作と生活が直結していることを暗示しているようにも思える。

 また、加工した際の木屑を残したままで展示。台座を塗料で汚したままにしているのも面白い。制作途中のような荒削りの背面を強調した作品もある。

高山陽介
高山陽介

水戸部七絵

水戸部七絵

 水戸部七絵さんは1988年、神奈川県生まれ。迫り出すほどに油絵の具が厚く塗られている。人のイメージだとされるが、ほとんど判別不能。多彩な色彩の中で、黄色が人の形象の肌の色として主張している。

 タイトルは《I am a yellow》。人種的な差別に対抗する問題意識が絵の具の物質感となって強く打ち出されている。

山下拓也

山下拓也

 山下拓也さんは1985年、三重県生まれ。モニター画面の映像と巨大な立体が対になっている。東京のTALION GALLERYの壁をジグソーでくり抜き、それを素材に組み上げた巨大な立体像である。

  モチーフは、中国の蘭陵王。カラフルな色彩とともに愛嬌のある表情も感じられる。ギャラリーの壁で作った彫刻を美術館の空間で展示するという入れ子構造がある。

横山奈美

横山奈美

 闇に浮かび上がるネオンサインによる男女の肢体が描かれる。体の艶かしさと光の線が妙にマッチしたモチーフである。

 後ろにある配線や構造体もしっかり描き、裏にあるもの、普段は意識に上がらないものを可視化。見える/見えない、見る/見ないことを主題にしている。

 男女の肢体、ネオン管が欲望を表象するとすれば、背後の取り付け金具などは、それを支える裏側に過ぎない。絵画とは何か、内なる美とは何かという問題意識もここには見える。

 横山さんについては、「横山奈美展「誰もいない」 ケンジタキギャラリー」、「豊田市美術館 光について/光をともして 9月22日まで延長」も参照。

今村文

今村文

 今村文さんは1982年、名古屋市生まれ。蜜蠟(みつろう)に顔料を溶かした絵の具を焼き付けるエンコースティックで、繊細な植物の重なりを定着させている。

 手間のかかる古典的な作業を繰り返し、装飾的であると同時に、はかなく純粋な生命を宿した草花を細密に描く。

寺内曜子

寺内曜子

 寺内曜子さんは1954年、東京都生まれ。英国製の電話ケーブルを切り開いて、内蔵のようなカラフルな細線をむき出しにした。内部の細い導体はとぐろを巻いた状態で設置。生き物のように見せている。

 外皮のチューブが跳ね上がって折れ曲がり、内が外に反転するなど、ユニークな形態になっている。

 1本のケーブルから生み出される自由な形の内部と外部、内面と外面の関係がとても面白い。既成の素材にひねりを加えることで、合理的な工業素材が有機的な生き物のようになった。

山田七菜子

山田七菜子

 山田七菜子さんは1978年、京都府生まれ。「海みずから泳ぐ海」と詩的なタイトルのついた絵画。山田さんは、油絵具を繰り返し重ねて、色彩の中に野性的、根源的なものに触れ合う世界を探求している。

 そこにあるのは、山田さん自身の不安と希望を包み込む無垢なる混沌、豊穣さ。深い紺色は、絵画そのものの豊かさであるように繊細で、闇の中の光、静寂の中の動きをたたえている。

 山田さんの作品については、「山田七菜子 夢題の無 ギャラリー ハム」も参照。

本山ゆかり

本山ゆかり
本山ゆかり

 本山ゆかりさんは1992年、愛知県春日井市生まれ。画用紙に線でシンプルに描いたように見える作品は、ガラス絵のように裏側からアクリルボードに描いた。つまり、描く順を逆にしている。

 しわが寄った布の作品は、シャクヤクのイメージが刺繍してある。真ん中で緑とピンクの布をつないでいる効果も加わって、形象が可視/不可視の間を彷徨うようになっている。

 平面作品の地と形象の関係、支持体のあり方、絵画の成り立ちをより多角的に探求していることが分かる。

青野文昭

青野文昭

 青野文昭さんは1968年、仙台市生まれ。
 東日本大震災後、岩手県宮古市で収集した衣料品店の床面、テーブル、絵具を使って、修復すること、代用すること、浸透することから、記憶の継承、想起、共有などの主題へとつなぐ。

やましたあつこ

やましたあつこ

 やましたあつこさんは1993年、愛知県半田市生まれ。
 白い網目に包まれながら、2人の女性が向き合っているイメージである。

 脚を絡ませ、親密にささやきあっているようだが、危うい雰囲気も漂う。とても、不思議な感覚を呼び覚ます世界である。

坂本夏子

坂本夏子

 坂本夏子さんは1983年、熊本県生まれ。
 筆者がよく取材した白土舎でも作品を展示していた。浴室タイルの白いグリッド構造が身体まで浸透しつつ、髪の毛が異様に変形された、これも不思議な絵画。

田島秀彦

田島秀彦

 田島秀彦さんは1973年、岐阜県生まれ。

 正方形のタイルを敷き詰めたような長大な平面である。各々のタイルのイメージは、イスラームやアジア、ヨーロッパなど、さまざまな文化圏に起源を持つ絵柄だという。

 穏やかな色調の中に、多様な世界がフラットに共存しているわけである。

 よく見ると、 画面の中央よりやや下を水平に、戦車、戦闘機、軍艦などのほのかな光のイメージが連なっている。世界のさまざまな地域での戦闘、紛争を静かに見据えている。

小林椋

小林椋

 小林椋さんは1992年、東京都生まれ。

 小林さんの作品は、ローテクのぎこちない動きの反復によって、寓話のような深い世界を表現する。おもちゃのような抽象性、素朴な動きを、民話や精神世界、集団の記憶などに関連づけている発想がユニークである。

 詳細は、「小林椋『州ん』 gallery N」も参照。

木村充伯

木村充伯

 木村充伯さんは1983年、静岡県生まれ。

 板の上で油絵具で盛り上げるように塑像を制作。絵具の油が体液のようにしみ出ている。平面絵画に使う絵具という柔らかい素材で塑造するという逆説的な試みである。

  木村さんの作品については、「木村 充伯展 – 呼吸  ケンジタキギャラリー(名古屋)」も参照。

加藤翼

加藤翼

 加藤翼さんは1984年、埼玉県生まれ。
 男たちが互いをロープで縛り合いながら、楽器を演奏する映像である。他者同士が繋がりながら、同時に拘束しあって、米国国歌を演奏する。

 2019年のあいちトリエンナーレにも出品した。

エミコ・サワラギ=ギルバート

エミコ・サワラギ=ギルバート

 エミコ・サワラギ=ギルバートさんは1947年、東京生まれ。

サイモン・フジワラ

サイモン・フジワラ

 サイモン・フジワラさんは、1982年、英国ロンドン生まれ。毛を刈った毛皮のコートで構成した平面。

モーリス・ルイス

モーリス・ルイス

 モーリス・ルイス(1912〜1962)の作品「デルタ・ミュー」。 

榎倉康二

榎倉康二

 もの派の榎倉康二さん(1942〜1995年)の作品。

安斎重男

安斎重男

 1970年から現代美術の現場で作品やアーティストの肖像を撮り続けた写真家、安斎重男さんのコーナーがあった。

 安斎さんは、2020年8月に他界。詳細は、「現代美術の現場を撮影した写真家、安斎重男さんが死去」を参照。

クリンガーと「ブリュッケ」──令和元年度新収蔵版画を中心に──

展示室6

マックス・クリンガー

 2019年度に寄贈を受けたマックス・クリンガー(1857〜1920年)の作品の一部を、クリムトの《人生は戦いなり(黄金の騎士)》とともに展示している。

 クリンガーは、象徴主義を代表するドイツの画家、版画家、彫刻家で、今年は、没後100年となる。

 愛知県美術館は昨年度、愛知教育大などで教鞭をとったクリンがーの研究者、故・風巻孝男さん旧蔵のコレクションを遺族から受贈した。

 クリンガーが、クリムトが会長を務めたウィーン分離派の通信会員であった関係などから、《人生は戦いなり(黄金の騎士)》も展示している。

 また、2019年度に購入したブリュッケ展カタログを紹介。ブリュッケの中心メンバーだったキルヒナーの足跡もたどる。

新収蔵記念 かたかげり──秋岡美帆とともに──

展示室7 

秋岡美帆

秋岡美帆

 秋岡美帆さん(1952〜2018年)は、風景をモチーフに写真をNECO(拡大インクジェット)印刷で引き伸ばした作品で知られる。筆者は、1990年代に、名古屋のギャラリー・アパでの個展を取材したことがある。

 大型の作品は、自然の風景が見せる一瞬の表情を切り取っている。このコーナーでは、2019年度に収蔵した作品4点の光と陰の揺らぎ、茫洋とした広がりの表現を紹介するとともに、秋岡さんの表現と共鳴する作品を展示している。

仲田好江、島田鮎子、辰野登恵子、松本陽子

 それらは、仲田好江さん、島田鮎子さん、辰野登恵子さん、松本陽子さんの絵画である。

松本陽子

《黒漆厨子 千体観音図貼付》愛知県文化財指定記念 木村定三コレクションの仏教美術──工芸作品を主として──

展示室8 

 千体の観音像を描いた絵画が内壁に貼り付けられた厨子(14世紀)が2020年8月、愛知県指定文化財になったことを記念。密教法具をはじめ、仏教の工芸品や小型の彫刻などを特集展示している。

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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