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コレクション展:絶対現在 豊田市美術館 10月23日-1月23日

河原温 《MAY 13, 1971 Todayシリーズ (1966-2013) より》1971年 アクリル、カンヴァス

コレクション展:絶対現在

 愛知・豊田市美術館で2021年10月23日から2022年1月23日まで、「コレクション展:絶対現在」が開催される。

 「ホー・ツーニェン 百鬼夜行」展の開催に合わせ、歴史や時間という視点から、河原温を中心としたコレクション約25点を展示する。 

 「絶対現在」というタイトルを、禅文化を世界に知らしめた仏教哲学者、鈴木大拙の言葉から取り、作品を通じて、禅的な ‘今ここ’ に意識を向けてもらおうという企画である。

 出品作家は、ライアン・ガンダー、 河原温、 ジェームズ・リー・バイヤース、李禹煥、 ボリス・ミハイロホフ、 中川幸夫、下道基行、 杉本博司。

半世紀の時間の束に向き合う ‘今ここ’

河原温

河原温
河原温 《MAY 13, 1971 Todayシリーズ (1966-2013) より》1971年 アクリル、カンヴァス

 河原温は、その日のうちに当日の日付を描く「デイト・ペインティング」のシリーズを制作した。

 時間と空間の切り離せない関係を説明する言葉「飛ぶ矢は飛ばない」が、連続した時間では飛んでいる矢が一瞬一瞬を捉えれば止まって見えるというパラドックスを示すように、河原温の「デイト・ペインティング」は、流れる時の一瞬を現前させ、尺度としての時間と体験としての時間、個人の時間と歴史的な時間、一の時間と多の時間への意識へと、見る者を促す。

 豊田市美術館所蔵の1カ月分の「デイト・ペインティング」のシリーズは、1971年に制作されてから2021年でちょうど50年が経過した。

 本展では、この機会に1カ月分の「デイト・ペインティング」を中心として、半世紀という時間の束に向き合う「今ここ」を、コレクションを通して捉えることを試みる。

ボリス・ミハイロフ

ボリス・ミハイロフ
ボリス・ミハイロフ 《イエスタデイズ・サンドイッチ 5》 1965-1981年 写真

 ウクライナ出身のボリス・ミハイロフは、冷戦時代に撮りためたフィルムを2枚重ねて現像。世界が東西に分かれていた時代を郷愁とユーモアを込めて浮かび上がらせる。

ライアン・ガンダー

ライアン・ガンダー
ライアン・ガンダー 《おかあさんに心配しないでといって(6))2013年 大理石樹脂

 英国出身のライアン・ガンダーは、愛娘がシーツに潜ってオバケに扮している様子を、彼女が幽霊を信じている間だけ毎年彫刻にする。

杉本博司

杉本博司
杉本博司 《Agean Sea, Pilion》 1990年 写真 寄託作品

 杉本博司は、太古の昔から人類が見つめてきた唯一変わらない風景として、静謐な海の水平線を写し取る。

下道基行

下道基行
下道基行 《torii》 2006-2012年 写真

 下道基行は、戦中に国外に建てられた鳥居を探し、それらがかつて持っていた機能や象徴性を失っても、人々の生活や風景とともにある重層的な時間を捉える。

李禹煥

李禹煥
李禹煥 《風と共に》 1991年 油彩、 岩絵具、カンヴァス

 李禹煥は、時を超えた関係性の力学を想起させる、瞑想的な場を提示する。

 その他、ジェームズ・リー・バイヤース、中川幸夫を含め、このコレクション展では、太古の昔から近過去、そして現代に至るまで、子どもの成長という捉えがたい一瞬から、花の盛り、そして懐かしい個人の記憶など、さまざまな時間に向き合わせる。

 それら多層的な時間の中で、作品を前に私たち自身に意識を向けてみる—。

 現代芸術家にも影響を与えた禅の思想家、鈴木大拙は、「絶対の現在」について、「過去はすべてここにあつまり、未来はすべてここから出ていく。ただし、‘ここ’、実のところ ‘今ここ’ は空そのもの-内実に置いて無限に豊かで、尽きぬ創造性を持つ ʻ空ʼ である」と述べた。

 大拙は、時や場について考えるのではなく、直観することで、主体と客体、過去と未来を超えて創造的な ‘永遠の現在’ に至るというのである。

 河原は、「デイト・ペインティング」の制作プロセスを、「精神労働」、「瞑想」と呼んでいた。

 時間に関わる作品を前にして静かに自己に向き合えば、瞑想にも似た自ら意識の働きに気づくだろう。

展覧会のみどころ

・河原温の「デイト・ペインティング」の1カ月分のすべてを展示する貴重な機会である。

・同時開催している「ホー・ツーニェン 百鬼夜行」展は、妖怪の姿を借りて、日本の歴史や精神史を浮かび上がらせるのが狙い。一方、コレクション展では、歴史に対する現在の時間についての意識を促す。
 企画展とコレクション展を通して、歴史の中の今について考えることができる。

・個展を同時開催している作家ホー・ツーニェンさんは、「あいちトリエンナーレ2019」、2021年の山口情報芸術センターでの「ヴォイス・オブ・ヴォイド—虚無の声」で、西田幾多郎のもとで学んだ哲学者たちを総称する京都学派について取り上げた。禅の瞑想体験から直観された思想は、時や場についての深い思索に導く。
 本展では、盟友の西田に多大な影響を与えた思想家であり宗教者であった鈴木大拙の言葉をタイトルに用い、禅的な ‘今ここ’ について作品を通して考える。

展覧会概要

会  期:2021年10月23日(土)〜2022年1月23日(日)
休 館 日: 月曜日(2022年1月10日は開館)、年末年始(2021年12月27日〜2022年1月4日) 
開館時間: 10:00-17:30(入場は17:00まで)
主  催: 豊田市美術館
観 覧 料: 一般300円[250円]、高校・大学生200円[150円]、中学生以下無料
[ ]内は20名以上の団体料金。
障がい者手帳のある人(介添者1名)、豊田市内在住か在学の高校生及び豊田市内在住の75歳以上は無料(要証明)。

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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