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鈴木孝幸 星か根か place/sight ギャラリーハム(名古屋)で2025年5月10日-7月26日に開催

Gallery HAM(名古屋) 2025年5月10日〜7月26日

鈴木孝幸

 鈴木孝幸さんは1982年、愛知県鳳来町(現・新城市)生まれ。2007年、筑波大学芸術研究科修士課程総合造形分野を修了。名古屋のGallery HAMの個展で毎回、進展を見せている。2021年のGallery HAMでの個展2022年のGallery HAMでの個展2023年のGallery HAMでの個展2024年のGallery HAMでの個展の各レビューを参照。

 2021年の名古屋市美術館での「現代美術のポジション 2021-2022」のレビューも参照。また、2022年に愛知・豊川市桜ヶ丘ミュージアムで開催された企画展「鈴木 と 鈴木 ほる と ほる」についてはこちら

 鈴木さんは、地元の新城市をはじめ、各地の山中、川原、海岸などを歩き、そこで集めた石や樹木などの採取物や、現地で撮影した映像、あるいはコンクリート、モルタル、鉄板、鉄の棒などを使った作品を制作している。

 現地を歩いた身体感覚、そのときの視覚などの知覚・認知情報を基に、地勢、地表、さらには地球、天体レベルで作品を構想し、平面、彫刻、インスタレーション、映像作品にしている。

 作品は「彫刻」のあり方が強く意識されている。自分自身という身体性(運動)、視覚、認知の経験と想像力、あるいは壮大な地球 / 天体の構造や運動(自転、公転など)、そして重力から、作品としてどう新たなビジョンを提示するかが彼の関心であるように思う。

 近年の個展では、山間部の斜面や、海溝などの「境界」をテーマに作品化した。また、鉄板や鉄棒、モルタルなどを使って、1つの作品の中に2つの重力、すなわち2つの世界を内在させた彫刻や、自分の動きと地球の動きを重ねた映像によって、見ることをはじめとする人間の感覚、認知、空間意識、世界観を捉え直している。

 今回の個展では、会期を2カ月半ほどと長く設定。vol.1(5月10日〜6月14日)では織田真二さん、vol.2(6月21日〜7月26日)では花木彰太さんの作品も展示。鈴木さんと、織田さん、花木さんの作品が互いに響き合うようように構成している。

 いずれも初日には愛知県美術館の石崎尚さんを交えたトークが開催された。

 前述したとおり、鈴木さんの作品は、自身の身体感覚、知覚・認知、空間意識と地球・天体の運動や構造を結びつけるものだが、そこに彫刻のあり方が強く意識されている。

 一方、織田さんや花木さんの作品は、フォーマリズム的な問題意識で絵画を拡張しているものだ。ここに展示とトークの狙いが明確に示されている。

星か根か vol.1 織田真二

 メインの作品は、空間に、多数の歪んだ六面体のコンクリートブロックを天井からワイヤーで吊るしたインスタレーションである。

 コンクリート、モルタルと鉄棒を組み合わせた作品などと同様、地球の重力やその方向(鉛直)、地球の構造、動きと自分の存在を通じて、自分が拠って立つ世界と知覚、認知、空間意識、そして彫刻そのものを掘り下げている。

 コンクリートブロックは、2021-22年に、DIC川村記念美術館、愛知県美術館、兵庫県立美術館を巡回した「ミニマル/コンセプチュアル」展に出品したオランダ出身の作家、ヤン・ディベッツへのオマージュとして鈴木さんが制作したものだ。

 ディベッツの〈遠近法の修正〉シリーズを参照するとわかりやすいが、これらのコンクリートブロックは、各面が長方形、台形、平行四辺形など多種多様で、視点の位置や眼差しの方向、光と影の関係によって見え方が変わる。

 視覚的な仕掛けがあり、各面が決して正方形でなく、歪んだ六面体でありながら、視点の位置によって、その面が正方形に見える。鈴木さんは、視点による知覚の差異を鑑賞者に意識させる作品をこれまでも制作している。

 この吊るされたコンクリートブロックは、星のようなイメージであるが、重い物体が浮遊することで、重力に抗っているともいえる。そして、それを吊るすワイヤー線は、植物の根のメタファーになっている。

 鈴木さんにとって、根は、地上の植物を支えるための地中の不可視の構造、言い換えると、「見えるもの」を支える「見えない」ものを暗示するモチーフである。

 つまり、「星か根か」は、見えるか、見えないか、あるいは、どう見えるかを、空間の広がり、奥行き、パースペクティブと視点の位置、さらには天地とその構造、重力とともに問うている。

 そのために、今回引用されたのが、絵画を形式的に拡張し、「見える」と「見えない」、平面性と空間性(奥行き)、物体性と視覚性(イリュージョン)の間で揺らぐ織田さん、花木さんの作品である。

 「星か根か vol.1」で出品した織田真二さんは1981年、岡山県生まれ。愛知県で育ち、2007年、愛知県立芸術大学美術学部美術科油画専攻卒業、2009年、同大学院美術研究科油画・版画領域修了。

 アルミ複合板の円形の支持体を円周率の数列を基にしたルールで折り曲げる一方、絵画のようなプロセスで丁寧に着色している。

 支持体を矩形でなく円形に変え、波打つように曲げた立体でありながら、他方で、色を塗る過程において、絵画としてのプロセスをなぞり、絵画が強く意識されている。

 織田さんの作品は絵画としての視覚性が探求される一方、立体的にも見え、視点の位置や光のかげんによって見え方がうつろうように変化することで、一意的に定められる絵画からを離れようともしている。

 また、鈴木さんの作品の、重厚なコンクリートの塊が空中に浮くさまは、極めてパラドクシカルで、天地が反転しているような印象を与える。

 つまり、彫刻的な作品の鈴木さんと、絵画的な作品の織田さんの違いはあれど、2人ともそれぞれ見ること、見えることを構造的、空間的に問い直している。

星か根か vol.2 花木彰太

 「星か根か vol.2」で出品した花木彰太さんは1988年、愛知県生まれ。2014年、愛知県立芸術大学大学院美術研究科油画・版画領域修了。

 2018年にSHUMOKU GALLERY(愛知)で、2015年にGALLERY VALEUR(愛知)で個展を開催。2019年の「瀬戸現代美術展2019」(愛知・旧産業技術総合研究所中部センター瀬戸サイト)などにも参加した。2022年には、See Saw gallery+hibit(名古屋)で佐々木耕太さんとの2人展を開いている

 花木さんもまた、支持体を大胆に変形させながら、「絵画」に問題意識を向けている。展示されたのは、2つのタイプの作品である。

 1つは、支持体を切妻屋根のように変形させた作品である。支持体はフラットではなく、中央が高く、左右両側に傾斜面が流れている形状。表面は極めてペインタリーで、その意味では、絵画的な立体、立体的な絵画である。

 MDFパネルにアクリル絵具で描いてあるが、左右に流れる斜面構造、光学的な影響、色彩、筆触などが緻密に選択され、見えることの相対性、色彩の揺らぎが探求されている。

 「絵画」のあり方を捉え返しながら、平面性と立体性とが拮抗し、併せて、物質性と非物質性、絵具の筆触と光学的な色彩現象とが、やはり拮抗している。

 もう1つのシリーズは、コの字型のアルミニウムレールによって、天空の星座のかたちを線状にトレースし、黒色のアクリル絵具で塗った作品である。

 もともと、星座とは不思議な存在である。確かにそれぞれの星は存在しているが、星座を構成する恒星は同一平面にはない虚構である。星座とはいわば、それぞれがはるか彼方から届いた光のドットを仮想の天球面に張り付けた図柄である。

 花木さんは、この不可視の仮象の線によるイメージを「絵画」にしている。今回は、鈴木さんがコンクリートの六面体を吊り下げた空間の床面に、これらの「星座」作品を設置した。つまり、これもまた天地の反転である。

 鈴木さんによる重厚なコンクリートとしての「地」が「天」の位置にあり、逆に、花木さんによる星座をトレースした「天」が「地」の位置にある。

 そして、鈴木さんによるコンクリートブロックの作品は空間に散りばめられ、他方で、花木さんによる星座の絵画は平面的なレイヤーである。

 花木さんの星座の線で構成した作品は、日本と正反対である南半球、すなわち、ブラジル南部やウルグアイ沖の大西洋上で実際に見られる星座をトレースしている。

 つまり、床面に置いた星座のイメージが、実際に地球の反対側の夜空に見える星座になっているというのが、想像力をかきたて、とても面白い。

 ここでも、見ること、見えること、平面性と空間性、絵画と彫刻の問題領域が、地球レベルの構造とともに構想されていると言えるのではないだろうか。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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