鈴木孝幸 ギャラリーハム(名古屋)4月10日まで

Gallery HAM(名古屋) 2021年3月6日〜4月10日

Gallery HAM
不在の旅人 place/image

 鈴木孝幸さんは1982年、愛知県蓬莱町(現・新城市)生まれ。新城市在住。2007年に、筑波大学大学院芸術研究科修士課程を修了している。

 制作は、地元の新城市の山中をはじめ、各地の自然を訪れるところから始まる。

 土や石、樹木などの自然物の移動、集積、配置などの行為、そうした物質の存在と場所、空間、ランドスケープあるいは身体、視覚、意識との関係性をテーマに制作する。

self-29 360°の目と私の身体について

鈴木孝幸

 メインとなる作品「self-29 360°の目と私の身体について」は、山の中などから画廊に運び込んだ石、樹木と、現地を映した2つの映像モニターから構成される。

 鈴木さんは、新城市の宇連川の河原、ダム、山中や、浜松・舞阪の砂浜など、15カ所を訪れ、これらの自然物を採集してきた。

 中心となる位置に、採集した樹木が束ねられ、そこから針金で結えられた現地の石がいくつも伸び、床に置かれている。

 この樹木の高さは、現地に鈴木さんがいたときの《視点》の位置と同じである。

鈴木孝幸

 2つのモニター画面はこの樹木を挟んで向き合うように配置されている。映像は約40分間でループし、15カ所の風景をつないで映している。

 風景は、それぞれの場所で、カメラが1分間に1回転する速度で360°を撮影されている。

 つまり、周囲を見渡すような視線だが、カメラがときどき傾き、天地が逆さまになるなど、あえて、通常の人間の眼差しとは違うようにしてある。

 また、2つの映像のうち、一方は他方の30秒遅れの映像になっている。つまり、180度正反対の風景である。

 こうして現地のそれぞれの《視点》から360°を見渡すように撮られたシークエンスを15カ所分つないだ映像は、ロングショットを含め、定点観測的で、身体性を欠いた風景である。

self-30 地図を持たずに旅に出る—新城市能登瀬山中—

鈴木孝幸

 それと比べると、「self-30 地図を持たずに旅に出る—新城市能登瀬山中—」という作品は、同様に、モニター映像や現地の採取物などから構成されているが、全く印象が異なる。

 地図を持たずに山中に入った鈴木さんは、方向感覚を失いながらも、太陽の位置を確かめて移動。手持ちカメラで撮影した風景は、とても臨場感があり、身体的である。

 山中の起伏が体にそのまま伝わり、自らの動作、眼差しがそのままカメラワークに影響する。クローズアップなど、対象に肉薄した映像も含まれる。

鈴木孝幸

 今回の展示の2つのインスタレーションは、いずれも映像を中心とした作品であると同時に、現地の自然物を構成しているのが大きな特徴である。

 鈴木さんが立った場所、移動した距離、経路、見たもの、体に触れたもの・・・。

 それらのリアリティと視覚性、身体性、物質、空間、ランドスケープが、あえて特定の意味に回収されないよう、実験のようなかたちで配置、提示された感はある。

鈴木孝幸

 かつて、鈴木さんの作品は、もの派との関係で展覧会に出品されたことがある。

 2016年に、横浜市民ギャラリーであった「新・今日の作家展2016 創造の場所—もの派から現代へ」で、菅木志雄さんらとともに作品が展示された。

 美術のための素材でなく、自然の中にある石や木などの作品を空間に置くという行為、そうした物質と物質、空間との関係、《もの》が在ることから世界を考えるという問題意識から、もの派との関わりが参照されたのである。

 ただ、筆者が思うには、鈴木さんの作品は、ギャラリーでの物質と物質、空間との関係性もあるが、むしろ、自然物が元にあった現地の場所、自然、風景が強く意識される。

 その意味では、ランドアート、中でも、自然の中に出向き、そこに立ち、歩行するという意味で、リチャード・ロングを想起させる。

 また、最近のギャラリーでの展示では、映像が大きな役割をはたしている点も見逃せない。

鈴木孝幸

 会場には、地図の一部分を切り取った平面の連作や、Google Earthから探した地図未掲載の小さな島を立体にした小品なども展示されている。

 これらでは、鈴木さんが現地を訪れていない遠隔地の場所が、作品の題材になっている。

 自然、ランドスケープの中にあり、その中で、ある関係性をもっていた自然物を選び、作家である鈴木さんが働きかけること、別の場所に移動させることで、新しい関係を結び合わせるのが、基本的な制作のスタイルである。

 今回は、現地を訪れていない地図上だけの旅の場所を含め、移動、歩行のリアリティと身体性、あるいは視覚とランドスケープ、物質と物質、空間の関係性や意識の拡張が、さまざまな次元で提示されている。

 とりわけ、映像によるランドスケープが加わることで、現地の自然物の存在、そこに立った、あるいは歩いた身体感覚と視覚、意識が、ギャラリー空間で、鑑賞者にとって、新たな関係、状況となって感覚、意識を動かすのが興味深いところである。

鈴木孝幸

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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