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名古屋にオルタナティブスペース《Q SO-KO》がオープン 3月11日-5月7日に2人展を開催 さわひらき、プラープダー・ユン(タイ)が新作を展示

Q SO-KOが名古屋市中川区にオープン

 名古屋市中川区外新町2-84に2023年3月11日、新スペースがQ SO-KOがオープンした。5月7日までオープニング展「PLACENESS」が開催される。さわひらきさん(英国ロンドン、金沢拠点)、プラープダー・ユンさん(タイ・バンコク拠点)の2人展である。

 築50年ほどの旧倉庫の空間を、美術施工チームのミラクルファクトリー(青木一将さん、児玉佑司さん)と、東南アジアとのアート/カルチャーを通した交流プロジェクトを実施するSEASUN(シーサン)がシェア。

 ミラクルファクトリーは、1Fに倉庫と工房を構え、SEASUNは、2Fに東南アジアのアート/カルチャーにフォーカスしたオルタナティブスペースを運営する。

 多様な作り手、鑑賞者が交流し、実験的なプロジェクトが展開する場所を目指す。最寄駅は、地下鉄の六番町。駅から徒歩10分ほどである。

 オープニング展では、プラープダー・ユンさんと、さわひらきさんが「Placeness」(場所感覚)をテーマに協働して展示をつくるオープニングプロジェクトを実施している。

さわひらき、プラープダー・ユン

 3月11日には、オープニングトークが開催され、2人のアーティストがPlacenessをテーマに討議をした。また、アーティストブックも出版された。

 なお、一連のトークとアーティストブック出版は、クリエイティブ・リンク・ナゴヤの助成を受けている。

Placeness(場所性、場所感覚)

プラープダー・ユン

ラープダー・ユン

 プラープダー・ユンさんは1973年、バンコク生まれ。タイを代表する作家の1人である。また、映画作家、アーティスト、評論家、脚本家、写真家、翻訳家、グラフィックデザイナー、ミュージシャンなどとしても活躍するマルチクリエイター。

 短編集『可能性』(2000年)が2002年の東南アジア文学賞を受賞。アジアの作家として、今後の人類のあり方への哲学的考察を深めているとして、2021年、福岡アジア文化賞 芸術・文化賞を受賞している。

 Placenessは、物理的にどこにいるかというだけでなく、精神、感情に関わるものである。自分と外界との関係、他者性と同様、人間を人間として成り立たせているものでもある。

プラープダー・ユン

 すべての作品に「エコーロケーション」というタイトルがついている。「反響定位」と訳されるこの言葉は、動物が、自分の発する音や超音波の反響によって、自分の位置、距離や方向、大きさなどを知ることを意味している。

 コウモリ、イルカ・マッコウクジラ、小型哺乳類などが、エコーロケーションによって、行動している。

 プラープダー・ユンさんの作品では、この言葉を人間に援用した。エコー(反響)によって自分の場所感覚を知る事例として、名古屋で暮らす東南アジア出身者をリサーチ。ミャンマー、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ラオス、タイ出身の人に会い、名古屋での生活体験についてインタビューをしたのである。

プラープダー・ユン

 話す、歌う、叫ぶなど言葉を発することによって、どのように自分の場所性を知ることになったのか。

 例えば、作品の1つに、地下鉄に乗っていた女性が、子供が泣きやまないことによって、他の乗客から電車を降りるように言われたという悲しい経験の感覚が作品化されている。

 ユニークなのは、インタビューした人へのインタビューの音声をそのまま流すのではなく、それをモーショングラフィックスに変換し、視覚的に表現していることだ。

 黒いもこもことした形象が変形しながら、画面に現れては消える映像である。どこの国の出身とか、来日して何年とか、どんな仕事をしているとか、そういうアイデンティティーではなく、彼らの発した言葉のエコーによる場所感覚が形の動きとして主題化されている。   

さわひらき

さわひらき

 さわひらきさんは1977年、石川県生まれ。英国ロンドン大学スレード校美術学部彫刻科修士課程修了。多数の模型飛行機が部屋を飛び交う映像作品でデビューした。

 近年の展覧会に、「Latent image revealed」KAAT神奈川芸術劇場(2018年)、「札幌国際芸術祭」(2017年)、「Under the Box, Beyond the Bounds」東京オペラシティアートギャラリー(2014年)、「Lenticular」Dundee Contemporary Arts、スコットランド・ダンディー(2013年)、「第12回リヨン・ビエンナーレ:Entre-temps… brusquement, et ensuite」フランス・リヨン(2012年)、「奥能登国際芸術祭2017」などがある。

さわひらき

 さわさんは、小屋と映像作品を出品している。ロンドンのスタジオ内は寒く、かつて、スタジオ内に小屋を建てたことがある。アート作品ではなく、自分が温まる空間として、である。

 ロンドンの物価はとても高く、2022年、そのスタジオを退去しなくてはいけなくなった。小屋を手放すのが寂しく、アートとして再生したのが今回の作品である。

 再生することで、作品に記憶を閉じ込めたのではなく、逆に、かつてのロンドンの小屋の記憶の葬送のような作品になっている。   

さわひらき

  その意味では、小屋は故郷を離れた移民としてロンドンで生活しているさわさんにとって、シェルターのような意味を持つ。つまり、移民・ディアスポラの実践的現在をテーマにした作品である。

 小屋は、さまざまな素材を組み合わせて構築しているが、とても堅牢である。はしごを使って上り、中に入ることができる。

 小屋内は二層構造になっていて、上の階には、さわさんの映像作品に登場する飛行機の小さなペインティングが展示され、下の階には映像作品や羊の絵がある。見逃さないためにも、ぜひ小屋の中に入ってほしい。小屋の裏側には、書籍が並べられたスペースがあり、プラープダー・ユンさんの作品を取り込むように展示している。

 また、Q SO-KOの壁にも、さわさんの映像作品がループ再生で投影されている。謎めいた作品であるが、海岸などの短い映像がコラージュされながら、作家の心象、感覚が展開している。

 ミニチュアの小屋の構造体、観覧車などが組み合わされた幻想的な風景のシークエンスで、隣に配置された小屋と交差する作品になっている。巨視的なまなざし、微視的な世界、具象、抽象と変化しながら、うつろい、揺れ、流れ、移動、回転、倒壊などの感覚が表象されている。

SEASUN(シーサン)

 タイ語のシーサンには、色、カラフルという意味がある。東南アジアの同時代のアートやカルチャーにいつでも触れられる場所となることを目指している。

 アーティスト・イン・レジデンス・プログラム、人的交流、学術コラボレーション、アート・イベントなど、さまざまなプロジェクトを組織する。

 主宰の鈴木一絵さんは愛知県豊橋市出身。横浜国立大学で教育を学び、卒業後は、国際交流基金で、日本語教育事業や組織管理部門を経験した。

 その後、海外拠点であるバンコク日本文化センターに約4年間勤務。文化芸術交流部門を担当した。2019年から、インディペンデントで文化芸術関連のコーディネーターとして活動している。

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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