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「風景をうつす」弓指寛治、幸洋子、南條沙歩、樋口誠也、伏木啓、村上将城、山本努武、井垣理史 アートラボあいち(名古屋)で2022年11月5-12月4日

アートラボあいち(名古屋市中区) 2022年11月5日〜12月4日

名古屋学芸大学企画展

 名古屋学芸大学(愛知県日進市)のメディア造形学部映像メディア学科の卒業生と教員が制作した作品を集めたグループ展である。

 近年、名古屋学芸大学の卒業生の活躍が著しい。かつては、名古屋の美大といえば、愛知県立芸術大、名古屋芸術大、名古屋造形大の3つだったが、そこに名古屋学芸大が加わったと言っていい状況である。

 出品は8人。「映像メディア学科」でありながら、作品分野は、現代美術(絵画)、映像 / インスタレーション、アニメーション、写真など多岐にわたっている。

 中でも、あいちトリエンナーレ2019で話題を呼んだ 弓指寛治さんの大作「挽歌」が名古屋で初めてお披露目となるなど、注目の展覧会になっている。

 グループ展としてのテーマは、「風景」だが、単に目の前に広がる景観というだけでなく、記録、あるいは記憶、すなわち、失われていく風景や内なる心象もモチーフになっている。

弓指寛治

弓指寛治

 弓指寛治さんは1986年、三重県伊勢市出身。名古屋学芸大学メディア造形学部映像メディア学科卒業、同大学院メディア造形研究科修了。

 ゲンロンカオス*ラウンジ新芸術校の第一期生として学んでいた2015年に、交通事故後に心身のバランスを崩していた母親が自死したことで人生が一変。以後、「自死」や「慰霊」をテーマに創作を続けている。

 あいちトリエンナーレ2019では、「輝けるこども」を出品。2011年4月に栃木県鹿沼市でクレーン車が児童の列に突っ込み、児童6人が亡くなった事故を題材にした。

  出品作「挽歌」(2016年)は、母親の自死をきっかけに描いた縦2.45メートル、横7.2メートルの大作。現在の活動の核になっている作品である。

 近親者が自死すると、身近な人は後悔、自責の念や罪の意識に苛まれる。自死がタブー視され、時に「業」と片付けられる中、 苦悩する弓指さんが描いた作品である。ダイナミックな画面には、サソリとともに、母親の死を昇華させるモチーフとしておびただしい鳥が描かれている。

幸洋子

幸洋子

 幸洋子さんは1987年、名古屋市生まれ。名古屋学芸大学メディア造形学部映像メディア学科卒業。東京芸術大学大学院映像研究科アニメーション専攻修了。

 幼少期から描くことや、ビデオカメラで遊ぶことを好み、以後、日々の出来事や、感じたことをベースに、さまざまな画材や素材でアニメーションを制作している。

 出品したのは、作家本人の誕生から現在までを作品とともに振り返ったドキュメンタリー映像。

南條沙歩

南條沙歩

 南條沙歩さんは1989年、岐阜県生まれ。名古屋学芸大学メディア造形学部映像メディア学科卒業、京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻構想設計修了。

 身体感覚を意識した断片的な記憶を気配として描写するような手描きアニメーション作品を制作している。

 出品作の「微熱」は、短編アニメーション「微熱(2010)」のリメイクである。一人の少女の生活の中に見え隠れする影。その気配は、少女の望みや後悔などの内面世界を映し出すように何度も現れ、優しくささやきかける。

樋口誠也

樋口誠也

 樋口誠也さんは1995年、長野県松本市生まれ。名古屋学芸大学メディア造形学部映像メディア学科卒業、同大学院メディア造形研究科修了。現在、名古屋学芸大学映像メディア学科助教。写真新世紀2020でグランプリ受賞。

 作品は、シンガポール滞在中に制作した「some things do not flow in the water」。

 好ましくない過去を忘れて、なかったことにする意味の「水に流す」という言葉と、日本との過去の関係からシンガポールに残っている「許す、しかし忘れない」言葉が呼び起こす両国の歴史認識の違いを映像から問い直す作品である。

 映像作品に登場する写真は、樋口さんが、日本と歴史的関係があるシンガポールの各所で撮影。そのインクジェットプリントと一緒に樋口さんがシャワーを浴び、その後、インクが洗い流された写真を見ながら、本人がイメージの細部を思い出していくパフォーマンス映像である。

 歴史と写真の記録性、イメージと記憶を巡る繊細な関係、揺らぎがあぶり出される。 

伏木啓・井垣理史

伏木啓・井垣理史

 伏木啓さんは1976年生まれ。2001年、武蔵野美術大学大学院造形研究科修士課程修了。2006年、DAAD(ドイツ学術交流会)奨学金を受け、ドイツに滞在。2008年、バウハウス大学ワイマールMFA課程修了。2017年、京都市立芸術大学大学院美術研究科博士後期課程満期退学。

 現在は、名古屋学芸大学メディア造形学部映像メディア学科教授を務める。

 井垣理史さんは同メディア造形学部デザイン学科准教授。さまざまな素材を用いて「際」や「間」を浮かび上がらせるインスタレーションを制作。パフォーマンス/舞台作品の空間構成や美術を担当し、身体や映像との関わりによるオブジェクトを制作する。

 〈The Other Side〉は、映像と俳優による舞台作品として、2019-2022年に5つのバージョンが上演され、その後、2022年10月、長者町コットンビル (名古屋)で初めて、俳優のいないインスタレーション・バージョンとして作品化された。井垣さんは2003年から伏木さんとの協働制作に参加している。

 このシリーズでは、展示空間に合わせてバージョンを変えている。今回の〈The Other Side – Installation 2022〉は、インスタレーションの第2バージョンである。

伏木啓・村上将城

村上将城

 村上将城さんは1978年、岐阜県生まれ。現在は名古屋を拠点に活動している。愛知県立芸術大学美術研究科修了。名古屋学芸大学メディア造形学部映像メディア学科講師。

 出品作は〈waltzー中川運河2018〉。2013-2015年と、2018年に中川運河で行われた映像インスタレーション〈waltz〉の記録と、中川運河の写真とテキストで構成したプロジェクト関連冊子の内容を再構成した展示である。

山本努武

山本努武

 山本努武さんは1976年、兵庫県生まれ。成安造形大学卒業。情報科学芸術大学院大学(IAMAS)修了。愛知県立芸術大学美術研究科博士後期課程 博士(美術)。

 名古屋学芸大学メディア造形学部映像メディア学科准教授。

 展示作品「景観の解像度」は、iPadで表示されるAR(拡張現実)の景観と、それに対応するように展示空間に設置した抽象的オブジェを同時に鑑賞する作品である。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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