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栗木義夫 CULTIVATION-耕す彫刻 清須市はるひ美術館(愛知県)で2023年4月29日-6月25日

栗木義夫

 愛知・清須市はるひ美術館で2023年4月29日〜6月25日、栗木義夫さんの個展「CULTIVATION-耕す彫刻」が開かれている。

 栗木義夫さんは1950年、愛知県瀬戸市生まれ。1979年、日本大学芸術学部美術科卒業。1981年、愛知県立芸術大学大学院彫刻専攻修了。

 2006年、瀬戸市美術館で個展を開いた。その後の個展は、2007、2010、2012、2013年のギャラリーM( 愛知県日進市)、2010、2014年の田口美術 (岐阜市)、2016、2017年のmasayoshi suzuki gallery(愛知県岡崎市)など。

栗木義夫

 2019年、「アートクロニクル1919-2019」( 愛知県美術館)、瀬戸現代美術展 2019 (愛知県瀬戸市)に出品した。

 また、2022年1-3月に愛知県美術館で開催された「2021年度第3期コレクション展」の「展示室2 やきものの家系と美術──清水九兵衛を中心に」に作品が展示された。瀬戸現代美術展2022にも参加した。

 2022年の個展「Crafting Poem」(三重県四日市市、侶居)のレビューも参照。

CULTIVATION-耕す彫刻

栗木義夫

 栗木さんは、瀬戸市の陶芸家の家系に生まれ、土や窯が身近にある環境で育った。彫刻では、大学時代に、柳原義達や土谷武、あるいは、もの派の影響を受けている。

 鉄を主要な素材に抽象彫刻を制作している。本展は、「Cultivation」(カルティべーション)という切り口で、栗木さんの造形表現を読み取る。

 栗木さんの制作の中心は彫刻だが、展示は、台座や展示空間、絵やドローイング、紙の作品を含めて展開されている。それらは、いずれも彫刻を巡って制作され、栗木さんにとっての「彫刻」を考えるための重要な一部である。

 とりわけ、素材のありようが印象的である。今回の展示では、鉄と陶、紙(和紙や新聞紙)が使われ、相互に関連づけられている。

栗木義夫

 カルティべーションとは、耕すこと、育てることを意味する。耕すとは、土の中に空気を入れて柔らかくし、土を農作に適した状態にすることである。

 視覚的な意味での形、色、立体感、イメージ、内容は重要だが、それだけだと、輪郭、表面をなぞることだけになりかねない。 

 「耕す」という言葉を栗木さんの作品に関連づければ、その作品は、生活体験とイメージ、世界を見ること、触って作る体験を通じて、外界、内界、物質の表面とその奥が行き来され、その上で、変化を受け入れ、育てるような制作と言ってもいいのではないかと思う。

 そして、それは、「彫刻」とは何かという自己言及的な探究を制作自体がはらんでいるということであって、これが「彫刻」である、これが「カルティべーション」であるという類いのものではない。

栗木義夫

 栗木さんの作品のベースには、鉄の溶接がある。溶接とは、金属を溶かして接合する技術だが、栗木さんは、少し違う意味性をもたせて使っているようだ。

 接合というよりは、まさに鉄素材を耕すように使っているのである。

 溶接をすると、熱によって、作家自身が意図しない形や歪み、表情が生まれる。これは、まさに草木が人間の思い通りの形に育たないのと同じである。

 「CULTIVE」(1989年)は、床に置かれた板状の鉄の作品だが、片面に3回、反対の面に2回溶接をしていて、緩やかな起伏が見られる。

栗木義夫

 また、壁には、和紙の作品が展示されているが、これらは、この鉄板の表裏に和紙を貼り付けて剝がし取ったものだ。1989年、2023年という2回のタイミングで制作されているが、それによって、色や肌合いが異なる。

 鉄を溶接によって耕し、それが育ち、錆によって変化し、その表面を和紙に転写することで、さらに別の作品が育っている。その和紙作品も、生まれた時によって、育ちの時間が違うので質感、色が異なっている。

 また、1993年の作品「Untitled」は、矩形の鉄板で構築された大きな立体作品だが、1993年、1994年、2016年と、これまでに3回展示する機会があった。

栗木義夫

 それぞれに、筒状、立方体、屋根付きの円柱形と変化し、今回は、干しわらのようなイメージになっている。壁には、矩形にカットする前の鉄板を転写した新聞紙の作品も展示されている。

 鉄板は、カットされ、再び、さまざまな形に構築される。また、紙に転写されるなど、別の作品へと展開されている。

 別室には、1979年~2023年に制作された、鉄と陶のおびただしい作品とドローイング群が展示されている。彫刻はステージに並べられ、ドローイング類は、ガラスケースに収めら、向き合うようになっている。

栗木義夫

 彫刻は、生活の中の日用品や目に留まった形がもとになっている。抽象化され、シンプルで幾何学的でありながら、温かい印象がある。

 素材は、鉄と白い陶が組み合わされている。形のおおらかさとともに、土の温かさ、手の痕跡、鉄の表面の微妙な質感、変形などがあるせいだろう。

 鉄や土の、かすかな歪み、へこみ、起伏や傾き、めくれ、しわ、切れ目などを、あえて自然のように、そのまま受け止めている。

栗木義夫

 普段は気に留められないような、しかし確かに現実にある視覚的な見え方や、手を動かすことによって生まれる具体的な形態、触覚、そして、ドローイングによる頭の中のイメージを行き来させながら、制作されるのではないか。

 抽象化、記号化と、具象化、触覚化が同時に進むようにして、現れ出る作品である。

 「耕す」を鍵語として、概念、イメージと、素材と手を動かすこと、意識と無意識、彫刻と陶芸の両方からアプローチしているのかもしれない。

栗木義夫

 そこから、どこかユーモラスで、謎めいていて微妙、そして柔らかで温かな作品が生まれてくる。

 形や素材は確固として、そこに在るのに、どこか、うつろうような、揺らぐような感覚を伴っている。アンバランスさ、あいまいさ、生きているような姿と言ってもいい。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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