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平川祐樹個展「D.F.N」スタンディングパイン(名古屋)で11月5日-12月3日

STANDING PINE(名古屋) 2022年11月5日〜12月3日

平川祐樹

 平川祐樹さんは1983年、名古屋市生まれ。名古屋学芸大学メディア造形学部映像メディア学科卒業、同大学院メディア造形研究科修了。2011年から2016年までは、ドイツを拠点に活動した。

 現在の拠点は愛知県。愛知県立芸術大学准教授でもある。

 個展は、2018年の「平川祐樹ー映画の見る夢」(ポーラ美術館/神奈川)、2019年の「平川祐樹個展 Years Later」(STANDING PINE )など。

 あいちトリエンナーレ2013、札幌国際芸術祭2014、ロッテルダム国際映画祭2019、第65回オーバーハウゼン国際短編映画祭、「ストリーミング・ヘリテージ|台地と海のあいだ」(2021/名古屋/愛知)、「境界のかたち 現代美術 in 大府」(2021/大府/愛知)にも参加している。

 STANDING PINEでは3年ぶりの個展である。

平川祐樹

 世界中の失われた映画をモチーフにした詩的なシリーズ「Lost Films」など、 メディア考古学的な視点の作品は高く評価されている。

 2019年のSTANDING PINE (名古屋) の個展では、新シリーズ「Years Later」を展示した

 1920、30年代の失われた映画の場面写真の資料やブロマイドを基に再現した映画セットを映像化し、独特の時間の流れを定着させた。映画セットという静的なイメージの断片から、運動であるムービーを立ち上げるように創作された作品である。

 遺された映画の場面写真等を分析し、当時の大道具、小道具と同じ、あるいは近い物などを探し、ある場面のセットを精巧に再現。俳優は使わず、あたかも、映画セットの大道具、小道具に〈演技〉をさせるように、緻密なカメラワークによって〈もの〉による物語を創出させている。

「D.F.N」 2022年

 今回展示されたのは、映像作品ではないが、これまでの延長にある作品であることは明らかである。

 すなわち、前回の STANDING PINEでの個展の映像で、俳優でなく、映画の大道具、小道具が主役をなしたとすれば、今回は、映画撮影に用いるフィルターなど、機材や、撮影技術を主役にしているのだ。

平川祐樹

 言い換えると、普段、ほとんど注目されることがない撮影機材や、撮影技術の存在感に、目を向けている。

 例えば、会場に展示されている1つが、透明アクリルガラスに色彩のグラデーションを付けたミニマルな作品である。

 グレーに着色されたものは、映画撮影で、昼間にカメラに収めた場面を夜間のように見せる「アメリカの夜」といわれる映画技法に使うフィルターを作品化している。

 カメラのレンズに被せることで、昼の映像を夜のように見せるのである。

平川祐樹

 個展タイトル「D.F.N」は、この「アメリカの夜」(英語でDay For Night)から取られている。「D.F.N」は同時にDefinition(定義)の略語でもある。平川さんの作品は、一貫して、「定義」を問い直す作品だとも言える。

 会場には、グレー、オレンジなど、さまざまな色彩、グラデーションの作品が展示されている。オレンジは、朝焼け、夕焼けの場面に変換される。

 夜用のフィルターを時計の文字盤を覆うように被せた作品は、時計の示す現在地のリアルな昼の時間が、グレーという色彩によって、地球の反対側の遠く離れた夜の時間である空間を暗示する。

平川祐樹

 展示のメインとなるインスタレーションは、洗濯物を干す既製品の物干しスタンド、パラソルハンガーを組み合わせたものだが、よく見ると、大量の「水滴」が付いている。

 衣類を乾かすための道具が、水滴で濡れているのがユニークである。実際には、「水滴」は、平川さんが、樹脂を使って、しずくを点描のように描いたものでる。

 レディ・メイドであることや、形態からは、デュシャンの「ボトル・ラック」(1914年)が想起される。平川さんは、さりげなく芸術家へのオマージュをしのばせる。

 水滴にまみれた缶ビールも同じ手法による作品。

平川祐樹

 広告写真等で鮮度を表すために使われる水滴「シズル感」の撮影技法から着想し、やはり、樹脂を使って再現した。

 これも、普段は〈脇役〉でしかない撮影技法を強調することで、主役にしているのである。ビールの瓶や缶の、一瞬の冷えている時間を止めて永遠化している。

 ここで、平川さんは、欲望の対象であるとともに、流行を象徴するがゆえに儚い広告写真に、現代のヴァニタス画を見ている。

平川祐樹

 そこに、瞬間と永遠性、あるいは生と死のアナロジー、すなわち、映像や写真に対する時間の洞察がある。

 このほか、撮影時に人物の陰になる部分を明るくするために使うレフ板を擬人化した作品「Reflector」や、1970-80年代に輸入されたポルノ雑誌を銀色で塗った「Sensor」も。

 平川さんは、銀色を、陰とは反対の米国に代表される消費社会や人間の欲望の象徴とみている。

 作品「Sensor」では、検閲によって、欲望が否定されたポルノ雑誌の黒塗り部分(陰部)と対比されている。

平川祐樹

 平川さんは、今回の個展で、映画や広告写真の撮影機材や撮影技法というメディアの〈脇役〉に着目した。

 そこに立ち現れるのは、映画や写真における刹那と永遠などの時間性、欲望、見えるものと見えないもの、光と陰、そして生と死に関わる思念ではないだろか。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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