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ミヤギフトシ アッセンブリッジ・ナゴヤ 12月13日まで。現代美術展レビュー①

アッセンブリッジ・ナゴヤ2020 12月13日まで

 音楽と現代アートの芸術祭「アッセンブリッジ・ナゴヤ2020」が2020年10月24日〜12月13日(木曜、金曜、土曜、日曜、祝日オープン)、 名古屋港〜築地口エリア一帯で開かれている。

 5 回目となる今回は、新型コロナウイルス感染症によって、文化や芸術に触れる機 会が限られている中、多彩な音楽、現代アートのプログラムを発信し、豊かな時間を届ける。

現代美術展『パノラマ庭園 -亜生態系へ-』

 この記事では、順次、現代美術展『パノラマ庭園 -亜生態系へ-』のレビューを掲載する。

1回目は、ミヤギフトシさんの作品。

 関連記事は、「愛知芸術文化センター愛知県美術館・オリジナル映像作品 ミヤギフトシ『音と変身/Sounds, Metamorphoses』初公開」「アッセンブリッジ・ナゴヤ2020 アーティスト、プログラムの全容を発表」「アッセンブリッジ・ナゴヤ 「名フィルメンバーの対話で綴る 2020―演奏会空白のとき―」配信決定」「アッセンブリッジ・ナゴヤ2020 第1弾参加アーティスト、プログラムを発表」「アッセンブリッジ・ナゴヤ 2020 10月24日〜12月13日に開催」

ミヤギフトシ

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 ミヤギフトシさんの作品は、会場内の各所にあり、港まちポットラックビルの映像インスタレーションが核になる。

  「あいちトリエンナーレ2016」出品の《いなくなってしまった人たちのこと/The Dreams that have Faded》(2016年)の5チャンネルの映像作品(5つのモニター画面による映像インスタレーション)と、 2020 年10 月3 日に愛知芸術文化センターで初公開された新作、愛知芸術文化センター愛知県美術館オリジナル映像作品第29作『音と変身/Sounds, Metamorphoses』(2020 年、58 分13 秒)とを合わせて見せる試みである。

 ミヤギさんは1981年、沖縄県生まれ。写真や映像、テキスト、オブジェなどによる作品を展開。国籍や人種、アイデンティティ、セクシュアリティを主題に、物語性、文学性をはらんだ制作を続ける。近年は、2019 年、初の小説『ディスタント』(河出書房新社)を出版するなど、ジャンルを広げている。

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 新作「音と変身」は、16 世紀にヨーロッパに渡り帰国した最初の日本人とされる天正遣欧少年使節、キリシタン弾圧の歴史への追憶とともにイタリアを巡る旅の映像が中心になっている。

 それに、少年使節と同時代のイタリアの貴族・作曲家、カルロ・ジェズアルド、第二次世界大戦後、最初のフランスへの留学生となった作家、遠藤周作や、ミヤギさんが米国に留学した体験、ゲーテの「イタリア紀行」などの記憶、言及、引用なども重ね合わされている。

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 それぞれの物語のレイヤーが、「変身」という結び目によって、重なりながら、ずれていく。

 交わりそうで、すれ違う物語、場所、出来事、歴史、記憶が詩的に関わりながら、ミヤギさん自身と思われる美術家と音楽家らのダイアローグが、「私」のモノローグのように多層的に綴られる。

 時代や空間を超えて想起されることが、「私」の不安定な生にからみとられながら、通り過ぎていく。

 少年使節が帰国後、豊臣秀吉に謁見し、演奏したと伝えられる西洋音楽がどんな曲だったかについての探求も重要なポイント。

 旅の始まりとなるアクアアルタ(高潮)のベネチア。ミヤギさんは、ローマ、ナポリ、フェラーラなど、イタリア各地をひたすら自問自答しながら歩き続け、手持ちのiPhoneで撮影した。

 止まらず動き続けるカメラは、愛知芸術文化センター(愛知県美術館)がオリジナル映像作品のテーマに掲げてきた「身体」とも響き合う。

 一方、「いなくなってしまった人たちのこと」は、2016年のあいちトリエンナーレのコラムプロジェクト「交わる水-邂逅する北海道/沖縄」で発表。海にまつわる5つの映像のインスタレーションとして、5つの海の映像とともに、「不在」とされた人のことが語られる。

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 トリエンナーレでは、円環状に配置した5台のモニターに、沖縄、北海道、長崎、マカオ、マニラの海が映された。

 トリエンナーレ出品後、国内外での展示の機会に際し、音が加えられるなど、作品自体が発展を遂げた。

 弾圧時代のキリシタンなどがモチーフ。なきものとされた人たちやその存在への思いが関連する海の映像とともに時代を超えて共振する作品である。

 今回は、「音と変身」の奥のスペースに、5つの画面をコの字型に展示。鏡とテキストを使った平面作品なども加えられた。

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 その他、古代ローマの詩人、オウィディウス「変身物語」をモチーフに、NUCO、名古屋港ポートビル展望室に、作品が展開されている。

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 名古屋港ポートビル展望室に展示された作品は、鏡を使っている。展望台の外の眺望が映り、テキストと風景が共振する。

 とりわけ、文字が空に浮かんでいるように見えるとき、とても詩的で、想像力をかき立てられる。

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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