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米林雄一展/李允碩展 愛知県立芸術大 SA・KURA(名古屋)で1月28日-2月12日

愛知県立芸術大学サテライトギャラリー SA・KURA(名古屋) 2023年1月28日~2月12日

米林雄一 李允碩

 2人の彫刻家による2つの個展という体裁である。

 李允碩(リー・ユンソク)さんは、この展示の企画者である愛知県立芸術大学の彫刻専攻准教授、村尾里奈さんの東京藝術大学大学院時代の先輩で、韓国・ソウル市立大学環境彫刻学科の教授である。

 また、米林雄一さんは李さんの恩師で東京藝術大名誉教授である。筆者は、1990年代、 新聞記者としてギャルリー・ユマニテでの個展を取材したことがある。

 本展は、愛知県立芸大とソウル市立大が2022年度に交流協定を結んだのを機に李さんを招いて企画した交流展である。

 米林雄一さんは1942年、東京生まれ。1964年、金沢美術工芸大学美術学科彫刻専攻卒業。1966年、東京藝術大大学院美術研究科彫刻専攻修了。長野県在住。社団法人二紀会理事。

 李允碩さんは1970年、ソウル生まれ。1996年、ソウル市立大学環境彫刻学科卒業、1999年、武蔵野美術大学大学院彫刻コース修了、2003年、東京藝術大大学院美術研究科博士後期課程修了。ソウル市在住である。

Solo Exhibitions by Yuichi Yonebayashi and Lee Yoon Seok 2023年

米林雄一

 米林雄一さんの作品は、造形された木材の表面にグラファイトが塗られた彫刻である。

 幾何学的な構成や、グラファイト、鉛などで覆われた暗い表面、大きな空間の広がりを感じさせる存在感から、宇宙的な法則を想起させるものである。

 表面には、鉛や鉄など線状の異素材が象眼のように埋め込まれ、緊張感を高めている。同時に、表面は木工用の電動工具のルーターや、のみ、かんなで絵を描くように彫られ、そして削られている。

 この精緻な構成、シャープな幾何学性と、絵画的といってもいい柔らかさを残した微妙な質感、繊細な表面によって、作品は力強い存在感とともに、宇宙や自然界の運動に伴う揺らぎ、震えにも似た感覚をまとっている。

米林雄一

 円や水平、垂直など幾何学的な明快な形、線に見える法則性とかすかな揺らぎのようなうつろいによって、宇宙空間の存在とその広がり、変化が主題化されている。

 1月28日にあった記念対談で、米林さんは、2008年に行われたJAXAとの共同研究「宇宙モデリング」について、動画を使って紹介した。

 宇宙空間における実験の一環として、無重力の状態でモデリングができるかどうかをスペースシャトル内で試みた記録映像で、宇宙飛行士が紙粘土を手びねりで成形した人形も見せてくれた。

米林雄一

 一方、李さんは、想像力によって、宇宙をエモーショナルなものとして捉えたステンレス・スチールの彫刻を展示した。

 李さんの作品では、ステンレス・スチールの鏡面が周囲の空間や鑑賞者を映し出す。彫刻の存在、空間が周囲の環境を内包させるものになっているともいえる。

 「Unfolded(満たされるものと消えていくもの)」(2022年)では、枝葉を伸ばし、成長する樹木が具象的に表現されている。樹木そのものは立体的というより平面的で、背景を含め、全体が層状に構造化されている。

李允碩

 背景(地)に対し、平面的な樹木が図として浮き上がるようになっている点で絵画的である。 

 繁茂する枝葉の部分も、背景も、おびただしい空隙によって成り立っていて、視線を奥へと誘う側面を含め、とても複雑である。

 移動しながら見ていくと、反射、投影、透過などによって、めくるめくように視覚性が変化する。宇宙的なものとして、形作られるものと失われるものが象徴的に表現されている。

李允碩

 「foREST」(2022年)は、森とシカをモチーフにしている。「森」(forest)に「安らぎのために」(for rest)をかけている。森の中にいるシカの家族は、神の恵み、愛の空間を表している。

 「Vision」(2014年)は、おびただしい数の面があちこちの方向を向いていて、光を空間に拡散させることで、神の無限性のメタファーになっている。

李允碩

 米林さんも李さんも、それぞれ異なる方法で抽象的形態や、具象的形象によって、宇宙的な時空のイメージをつくっている。

 米林さんが幾何学性と表面のかすかな変化、震えからアプローチしているのに対し、李さんは神、物語、エモーションから造形化している。 

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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