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豊田市は車だけじゃない! 現代アートと民藝 2つの異空間が楽しめる美術館がスゴイ! 豊田市民芸館と豊田市美術館

黒田直美(ライター)

豊田市民芸館と豊田市美術館

 「豊田」と聞くと、ほとんどの人は車のトヨタ、海外の人ならTOYOTAを思い浮かべるのではないでしょうか?

 しかし、ここ豊田には、豊かな自然や古代から続く奥深い歴史、さらには魅力あふれる二つの美術館があります。名古屋からちょうど 1 時間、プチトリップにも最適な場所にある豊田市民芸館と豊田市美術館。

 全くタイプの異なる美術館ですが、どちらも半日以上滞在でき、展示物はもとより、立地も建物も最高の環境で旅気分を満喫させてくれます!

散歩を楽しみながら美術館巡りを楽しむ!

 名古屋駅から地下鉄東山線、鶴舞線と乗り継ぎ、30分。電車が地上に出ると車窓の風景も一変します。

 梅坪駅で名鉄三河線に乗り換えると、ぽつんと現れる無人駅。これが平戸橋駅です。

 単線列車のホームや無人改札、のんびりした雰囲気の町並みも旅気分を盛り上げてくれます。

おとぎ話に出てくるような田舎家を訪ねてみると…。

 豊田市民芸館に向かう途中、小さな森と、その中にひっそりとした佇まいの古民家が見えてきます。

 豊田市の文化発展に貢献した実業家、古陶磁研究家だった名誉市民の故・本多静雄氏(1898-1999年)が、戦後に住んだ居宅跡を整備し、市民に無料開放した「豊田市民芸の森」です。

 ここには、江戸時代中期ごろの家を移築したとされる田舎家の青隹居せいすいきょ(本多氏の雅号から名づけられた)や狂言舞台、収集した民芸品を納めた収蔵庫などが現存しています。

2 匹の狛犬は、陶磁の研究家だった本多氏の蒐集品

 一歩中に入ってみると、おとぎ話に出てくるような森の小道で陶磁の狛犬が出迎えてくれます。

 奥へと進めば、ひなびた茶室や土蔵、田舎家などがあり、タイムスリップしたような懐かしい感覚に浸れます。

本多氏が移築、改修した茶室「松近亭」

 現在、青隹居の中に展示されているのは、瀬戸焼や常滑焼などの陶磁器をはじめ、長野県松本市の染色工芸家、三代澤本寿みよさわもとじゅ(1909-2002年)が染めた色紙を使用した襖や染めの夜具など、昔ながらの生活用具、民芸品の数々です。

 2022年4月10日までは、中世から現代に続く日本の6つのやきもの産地である六古窯(瀬戸・常滑・越前・信楽・丹波・備前)の一つ、愛知県常滑市のやきものを紹介しています。

 古くは平安時代末期や室町時代に作られた貴重なかめや壺なども展示。いにしえの時代から続いてきた陶磁器は、美しい形状と日本人の繊細で確かな技術を伝えてくれています。

室町時代に作られたとされる壺

古陶磁器の研究や猿投窯の発見など、偉大な市史を発掘した本多静雄氏

 豊田市に生まれた本多静雄氏は、関東大震災(1923年)の翌年に、逓信省技術官僚となり、電気通信事業や科学技術の向上に貢献するなど、戦前の日本の黎明期を支えた人物です。

 1943(昭和18)年に故郷の豊田に戻り、疎開していた陶芸家、加藤唐九郎らと出会い、そこから陶磁器の魅力に引き込まれ、古陶磁器の研究に力を注ぎました。

 また、民藝運動の創始者、柳宗悦らに出会い、民藝思想にも傾倒していきます。

 彼の功績の一つは、猿投窯の発見や中世以降の陶磁器の収集、民藝への深い造詣など、豊田市に多大な文化資産を残してくれたことです。

 生前には毎年、「陶器と桜を観る会」を開催し、収集したコレクションを一般に公開。敷地内の舞台で本多氏が自作の狂言を披露したといいます。

 画家の杉本健吉と交流を続け、杉本美術館の館長(閉館)に就任するなど、郷土の芸術や文化を育む努力も続けました。

 クヌギの森や竹林を散策しながら、当時の芸術家や受け継がれてきた伝統を振り返ると、人々の温かな思いと豊かな時間が心の中に満ちてくるようです。

矢作川を望む桜の名所で民藝に触れる

 今回のメインスポットである豊田市民芸館へは、民芸の森から、矢作川の景色を眺めながら歩くこと15分。恵まれた自然環境の中に広がる風景は都心から1時間とは思えないほどです。

 桜の開花時期には、あたり一面がピンク色に染められます。桜の名所は数あれど、ここ豊田市民芸館と桜の競演はまさに一枚の絵画のようです。

豊田市民芸館の庭園風景

 手仕事の美しさや日常にある普段使いの生活道具に「用の美」を見いだし、その思想を民藝運動へと発展させた柳宗悦。

 2022年2月13日まで東京国立近代美術館で開催された『柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年』は、大変な人気を集めました。

 陶磁器や織物、民具などが年配の人には懐かしく、若い人たちにはオシャレで新しいと、多くの人が世代を超えて、柳宗悦や民藝の魅力に引き込まれていました。

日本民藝館の一部を移築して建てられた第1民芸館

広大な敷地の中に建つ3つの民芸館や登り窯

 豊田市民芸館は、東京の日本民藝館の改築に伴い、本多静雄氏が建物の一部を譲り受け、豊田市に寄贈。1983(昭和58)年に設立された美術館です。

 趣のある民芸品の数々が並ぶ第1民芸館には、柳宗悦が使用していた館長室も再現されるなど、民芸好きにはたまらない、聖地といっていい場所です。

 第1民芸館、第2民芸館、第3民芸館と3つの展示室を持ち、12,000 点を越える資料を所蔵。企画展なども随時開催されています。

 展示の中心は、本多氏より寄贈された古陶磁器や久留米絣、根來漆器など貴重な民芸品と、三河木綿、絞り染め、筒描などの染色や、郷土玩具など三河地域で受け継がれてきたものです。

 豊田市民芸館の建つ猿投山麓西南部は、平安時代に陶器の一大産地があったといわれています。

 当時の面影を彷彿させる復元された猿投古窯で、穴窯陶芸講座も開催。

 敷地内には、陶芸資料館や土蔵があり、ゆったり散策した後は、茶室勘桜亭でお抹茶をいただきながら、贅沢なひとときを過ごすのもおすすめです。

猿投窯の古窯跡を移築復元した穴窯(登り窯)

 5月29日までは第2民芸館で、平成26年度から令和2年度までに収集した民芸品と収蔵品による「新収蔵品展」を開催。

 また、第1民芸館では、「手仕事の優品展」のほかに、豊田市美術館で開催されている「サンセット/サンライズ」展の連携展示も開かれ、東京出身で愛知県立芸大を卒業した画家、小林孝亘さんの作品を展示しています。

 民芸家具の上に飾られる絵画をはじめ、民芸館内の雰囲気と時空を超えて出会う美が楽しめる空間となっています。

建築美と作品がコラボする豊田市美術館の魅力

 豊田市民芸館をたっぷりと楽しんだ後は、現代美術の宝庫である豊田市美術館へ。

 東京国立博物館法隆寺宝物館やニューヨーク近代美術館のリニューアルなど、名だたる建築を手掛けてきた谷口吉生氏による洗練された建築美が圧巻です。

 県外からも多くの美術ファンが訪れるほど、人気のアートスポットとなっています。何層にも入り組み、変化に富んだ空間デザインがアート作品を引き立てています。

 谷口氏によれば、「美術館とは、建築の外部から内部にまで、作品と出会う感動を求めて辿る旅の装置である」とのこと。

 まさに ART TRIP のコンセプトそのものです! アートに触れることで、感性のスイッチが入り、多様な国や地域、時空を越えた異次元へ誘われていきます。

 自由自在な感覚であちこちへと旅する感覚。

 これこそが刺激となり、癒やしとなり、心の栄養にもなっていくように思えます。こんな時代だからこそ、ますますアートの重要性を感じます。

アートは自分自身と向き合う、静かなコミュニケーション

サンセット/サンライズ展 展示風景

 豊田市美術館のコレクションは、世紀末ウィーンで活躍したウィーン分離派のグスタフ・クリムトをはじめ、エゴン・シーレ、オスカー・ココシュカの自画像など、総合芸術を目指した彼らのコレクションを起点に収集されています。

 シュルレアリスムや現代美術、国内の近代美術、近代のデザイン、工芸など、現代の作家たちに影響を与えた所蔵品も多数揃っています。

サンセット/サンライズ

 5月8日まで開催中の「サンセット/サンライズ」展では、日が沈み、また日が昇るといった私たちの日常と自然の織りなす現象や人間の死生観などを投影した6つのテーマで構成した展示となっています。

サンセット/サンライズ展 展示風景

 新しい時代を切り開いてきた作家たちの、一つの方向にとらわれない物の見方によって、多様な世界が表現されています。

 今回のようにテーマごとにコレクションを厳選して展示する試みでは、今まで見ていた作家の作品をそれまでとは違う切り口で見るきっかけを与えてくれます。

 美術館とは、旅と同様、自分自身と向き合う、静かなコミュニケーションの場であるのかもしれません。

サンセット/サンライズ展 展示風景

 「サンセット/サンライズ」展については、「サンセット/サンライズ 豊田市美術館で2月15日-5月8日」も参照。

インスタ映えスポットが目白押し

 庭園や屋外のアート作品も、自然の風景と相まって、美しい造形美を生みだしています。各所で撮影を楽しむ姿が見られるなど、インスタ映えスポットも目白押し。

 今回の展覧会タイトルのサンセットにちなんで、私も絵画のような1枚を撮りました。

 旅に出ると、美しい景観がまるで絵画のように目の前に広がる瞬間があります。その情景の美しさに惹かれ、また旅に出たくなります。

 けれども、身近なアートの世界にも旅のように心が開放される瞬間があるのだと今回、改めて思いました。

 豊田市の2つの美術館は、旅気分を味わいながら現代アートや美しい工芸品に触れられる、1粒で2度おいしい贅沢な場所となっています。

豊田市民芸の森

住所:豊田市平戸橋町石平 60-1
開館時間
:9 時~17 時(入館は 16 時 30 分まで)
入館料:無料
休館日:月曜日(ただし、祝日の場合は開館)、年末年始
駐車場:約60台(ケーキハウスアンジュ西側駐車場)

豊田市民芸館

住所:豊田市平戸橋町並岩 86-100
開館時間:9 時~17時
入館料:無料(特別展は有料)
休館日:月曜日(祝日の場合は開館)、年末年始
駐車場:約100台(前田公園駐車場)

豊田市美術館

住所:豊田市小坂本町 8-5-1
開館時間:10 時~17 時30分(入館は 17 時まで)
休館日:月曜日(祝日は除く)、年末年始
入館料:常設展 一般300円 高校・大学生200円 中学生以下無料
(企画展/常設特別展はそれぞれ確認)
 館内で車いす、ベビーカーの貸し出しあり。授乳室個室(オムツ交換台あり)2室、個室のほかにオムツ交換台あり

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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