名古屋のカルチャーWEBマガジン「アウターモーストナゴヤ」では、レビュー、リポート、トピックスなどを掲載します

「情の深みと浅さ」展

ヤマザキ マザック美術館(名古屋) 2019年10月1〜14日

 2010年に始まったあいちトリエンナーレの期間中に、名古屋の現代美術系のギャラリーが画廊マップを作ろうとして発足したNCAM(Nagoya Contemporary Art Map)が主体となって始まった現代美術展。2016年に市民ギャラリー矢田、2018年に電気文化会館で開催され、3回目は、ヤマザキ マザック美術館を会場に、18画廊の25人が出品した。企画協力に愛知県美術館の拝戸雅彦さんが入り、「あいちトリエンナーレ2019」のテーマに合わせ、「情の深みと浅さ」を掲げている。ただ、画廊が推しだす作家が出展している側面も強いので、テーマ展としての性格はあまりない。画廊ごとに作家の個性や実力にばらつきがあるのは否めないものの、全体にはまずまず質が担保されていて、名古屋のギャラリーと取り扱い作家の現在を知る、良い機会になっている。

柴田麻衣

 展示は、柴田麻衣さんの絵画の大作3点から始まる。柴田さんについては、ギャラリー芽楽であった7月の柴田麻衣個展を紹介したが、今回の大作は非常に出来がいい。柴田さんの作品は、版画の技法を応用するなどして、レイヤーの重層的な重なりによって、題材に選んだ海外の地域などの雄大な風景や風土、文化的背景、何気ない生活の営為、事物などのイメージをモンタージュするように合成しながら、統一感のある世界観、現実社会や歴史に対する問題意識を孕んだナラティブな光景を出現させる。今回は、3点の大作が並び、劇場のプロセニアムアーチ、窓枠のような構造と舞台幕やカーテンを描いたフレームの中に、雪原や山並み、旗、騎馬、写真などのイメージを配している。窓がない美術館の重厚な雰囲気の中、フィクションながら開口部をつくったようにも見受けられる、機知に富んだスケールの大きい力作である。

田中里奈

 同じ若手女性の絵画では、GALLERY VALEURの田中里奈さんも期待感を抱かせる作品である。田中さんは、自分のこれまで体験した感覚を大事に、多視点、異素材、遠近法の応用、描き方の変化を駆使する。絵画空間としてのまとめ方が独特で、特にマチエールの変奏や部分的にいびつになった遠近法が興味深い。アンバランスな絵画の要素を同じ空間に入れ込みながら、一つの世界にしてしまうセンスはなかなかのものがある。

 STANDING PINEの杉山健司さんは、1990年代半ばごろに、外側と内側の関係をテーマに据えた大型インスターレーションを発表した後、鏡を使った精巧な想像上の美術館や図書館内部のミニチュアを覗き込む作品を展開している。作品はナラティブな要素を強めながら、見ることの制度や知の体系へと関心領域を広げつつ、90年代半ばまでのインスタレーションから連なる問題意識として、身体性や視覚と自分がいる環境との関係、構造やサイズの反転、見ることの審級などがテーマにある。今回は、クラシカルな家具が展示されたコーナーにインスタレーションし、見応えのある一角を演出していた。

ふるかはひでたか

 AIN SOPH DISPATCHの山田純嗣さんは、名画の空間構造を読み解くため、抽象化したな立体をつくったのち、全体を撮影し、銅板で細密なドローイングを重ねる、手の込んだ作品で知られ、今回は赤い背景が入っている。エッチングによる小品の連作「空白の触覚」と合わせ、充実している。また、この展覧会の最後を飾る同じ画廊のふるかはひでたかさんは、多様な作品で知られるが、今回は名古屋の近世史に焦点を当てたインスタレーション。幕末から明治にかけての本草学の大家、植物学の先駆者である名古屋出身の伊藤圭介に関する書物や古文書、地図、額装して構成した資料を集め、展示内展示のようなコーナーをつくっている。

セシル・アンドリュ

 Gallery HAMのセシル・アンドリュは、人間と言語の関係をテーマとした、簡潔でありながら繊細で深遠な作品を一貫して制作している。今回も多義性のある作品を多彩に展開。おびただしい数の試験管にフランス語の辞書の1ページずつを入れてマトリックスにした作品や、日本語の辞書のページを折ってタワー状に積み上げた立体、多様な文字や数字の形状をしたパスタを溶解させ、跡形もなく一つの固体にした作品などが展示されている。

深川瑞恵

 GALLERY IDFの深川瑞恵さんのガラス作品は、バーナーワークで植物を繊細に表現した。名古屋芸術大卒業後、瀬戸市新世紀工芸館で研修中の若手とのことだが、ガラス素材と植物の儚さがマッチし、この美術館のクオリティーの高い展示環境もあって、きれいな展示になった。今後が楽しみである。同じガラスでは、JILL D’ ART GALLERYの高木基栄さんは、吹きガラスによるパーツを組み合わせたバイオモルフィックなオブジェを巧みに展示していた。工芸では他に、芽楽から出品した加藤真美さんの器物に力動感があり、大作の磁器は、内側の螺旋的な造形から外側へ向かって大きなムーブメントを感じさせた。大森準平さんの作品は、縄文時代の火焔土器を模倣した土器を作って損壊させてから再構築し、発色のいい米国製の釉薬をまとわせる。Gallery NAO MASAKIでの2019年8、9月の個展「甦りと創造 大森準平」では大型の作品を含め、現在地点をしっかり見せていた。
 A・C・Sの長谷川哲さんも5月の長谷川哲展を取材した。今回も、コピー機のトナーを引っ掻くような激しいストロークによって生み出したイメージをスチールとムービーとの関係によって見せる作品である。GALERIE hu:の清河北斗さんは、8、9月の清河北斗展で新しい展開を見せていた。樹脂やポリスチレンフォームという軽い素材で、身体と機械が融合した異形や、生命進化をテーマにした物体を制作する。
 同じ画廊では、河合里奈さんも熱量が溢れんばかりのパノラミックな絵画を出品していた。山内喬博さんの絵画は、物質感を強めたシンプルな地の上を微妙な差異を孕んだ同一形態が連鎖し、わずかな奥行きと揺らぎによって絵画空間にとどまっている。Gallery HAMの山田七菜子さんは、黒を基調とした流動的な画面からまだ見ぬイメージが色彩を引き連れながら浮上しつつある感じ。名古屋画廊は、スーパーリアリズムの大御所、上田薫さんの作品を並べた。 

吉田友幸

 ギャラリーラウラの松浦進さんは、黒が際立つアクセントのある人物像などで人間の二面性を表現。同じ画廊の吉田友幸さんが琵琶湖周辺や自宅アトリエ付近の植物や風景を描き、日本画と油彩画を共に出品ているのがユニーク。写実の中に神秘性、象徴性がある。LAD GALLERY の高橋大地さんの作品は、方眼紙、ボールペンインク、アクリルなどを素材に表現を抑制したもので、一見、1970年代的なミニマルな表現を想起させる。NODA CONTEMPORARYの原游さんは、ポップな絵画作品の中に絵画の本質を問うような問題意識を感じさせ、masayoshi suzuki galleryの設楽陸さんは、テレビゲームの仮想空間の中のような妄想世界を絵画や立体でエネルギッシュに展開した。

 HEART FIELD GALLERY の公花さんは、西サハラの女性の民族衣装の切れ端などのテキスタイルをコラージュ。gallery Nでは、蓮沼昌宏さんが、パラパラ漫画の原理で絵が動く装置「キノーラ」で、新しい昔話のコンセプトの物語を提示し、島本了多さんは、エミール・ガレの「ホオズキ文花器」を題材に不定形なイメージとして絵付けしたフェイクの花器を展示した。GALLERY APAの藤原史江さんは、テーブルの木目をトレースするように描いた作品を出品した。

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