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清河北斗展 GALERIE hu:(名古屋)

GALERIE hu:(名古屋) 2019年8月24日〜9月14日

 1974年、富山県生まれの清河は、しばらく創作期間を持った後、東京都内の造形会社に10年間勤務。現在は、そこでの活動を踏まえ、富山県黒部市の「STUDIO/HOT」を拠点に、造形職人として、イベントなどでの各種造型物や美術作品の受注制作に携わる一方、純粋な彫刻作品の創作も精力的に続けている。

 2017年3月には、富山市芸術文化ホール(オーバード・ホール)で、「舞台の上の美術館Ⅱ KYOMU~巨無と虚無~」に参加した。12メートルにもなる巨大な立体を舞台上に展示。高さ9メートルの人物立体2体とともに、プロジェクションの投影映像などと一体となった、観客の回遊性がある空間を演出し、今回の個展でもその時の映像が紹介されている。

清河北斗

 資料で過去の作品を見ると、巨大なキャタピラーのような「無限軌道型骨相像」や、武人のような男がバイクにまたがった「象駆輪金剛力士座像」、獣がバイクに一体化したような「獣駆輪肉食式速攻型」など、奇妙なキャラクターのような造形物を制作している。一方で、イベントや舞台などのために注文制作されたであろうアニメーション・キャラクターのマジンガーZ、デビルマン、ケンシロウなどもあり、個人のアート作品と注文造形物との境界が近接している印象も受ける。共通するのは、メカニカルなもの、異形の生き物、あるいはそれらの融合体への偏愛である。

 そうした中で、今回展示された作品は、先に書いたオーバード・ホールでの造形物につながるもので、キッチュさを抑え、甲殻類やサナギの抜け殻、カブトガニのような形態をモチーフにしている。樹脂や、発泡プラスチック系の住宅用断熱材として知られるポリスチレンフォームを素材に、ウレタン塗装、合成樹脂塗装と研磨のプロセスなどを経て仕上げられた作品は、古代的であるとともに未来的で時間の概念を超越している。

 今回のテーマは「装甲」、つまり、生命を守る防御のための甲冑というものだ。仕上げの美しさから工芸的な性質もなくはないが、そうした機能性もフィクショナルなものだということである。表面の完璧なほどの仕上げや、装甲の外観から重厚に感じられるが、素材は非常に軽いもので、その意味でもフィクショナルである。

清河北斗

 清河が、2014年から2015年にかけ、富山県立近代美術館、福岡市美術館、青森県立美術館であった「成田亨 美術/特撮/怪獣」展に造形物を出品したのは象徴的だ。よく知られたとおり、成田亨(1929〜2002年)は「ウルトラマン」「ウルトラセブン」などの美術を担当。水戸芸術館で1999年11月~2000年1月にあった「日本ゼロ年展」で椹木野衣さんがグループ展の一人として展示したことでも知られる。清河は、成田のデザインした怪獣「ブランカー」の原画を元に、高さ2・4メートルの巨大造形物の制作依頼を受けた。

 架空のものを造形することや、純粋美術のアーティストと、発注者からの依頼を受けて美術を受け持つ職人的なありようの間にある位置づけなど、清河と成田は共通する部分も多い。もちろん、両方の間で苦悩を抱えていたという成田と比べると、清河は軽やかに境界を飛び越えているようである。

清河北斗

 筆者は、過去の清河の作品と見ていないのだが、美術作品として見たときは、今回のような、一定の抽象度を持った作品の方がいいように思う。これらの作品の展開の先に何があるのかを見てみたい気持ちである。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

清河北斗
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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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