「人間と物質」展(1970年)に展示された庄司達さんの作品を愛知県美術館が再現展示 7月3日まで

庄司達 / 新聞紙

初めての再現展示

 1970年の第10回日本国際美術展「人間と物質」に出品された造形作家、庄司達さんの新聞紙を使った2つのインスタレーション作品が2022年4月1日〜7月3日、名古屋・栄の愛知県美術館・展示室7で再現展示されている。

 一般に布の造形作家として知られる庄司達さんの別の側面に光を当てた興味深い展示である。 

庄司達

 展示は、2022年度第1期コレクション展の一環。

 2つの作品は「新聞紙30枚に四角の孔を残して赤く塗った新聞紙」と「コピーした新聞紙の上の一部に本当の新聞紙を貼った52枚の新聞紙」である。

 両作品は2019年度、同館に収蔵された。「人間と物質」展以降で初めての同時展示となる。

 名古屋市美術館で「布の庭にあそぶ 庄司達」展が2022年4月29日~6月26日、開催。名古屋画廊では、「庄司達 ドローイング展」が2022年4月28日〜5月21日(春期休廊4月29日〜5月8日)の日程で催されている。

庄司達

新聞紙30枚に四角の孔を残して赤く塗った新聞紙(1970年)

 庄司さんは、布を使った立体、インスタレーションの作家として知られているが、このときは、展覧会のテーマである「人間と物質のあいだ」に呼応し、コンセプチュアルな作品を出品している。

 愛知県美術館によると、庄司さんは、人間と物質のあいだにあるものを「情報」と捉え、当時、主要な情報メディアであった新聞を素材に使った。新聞というメディアを物質としてみると、それは新聞である。

庄司達

 この作品では、1970年4月4日から5月29日までの新聞紙の小さな四角部分を残して、ほかのエリアをラッカー塗料で赤く塗りつぶしている。赤色には、時代背景を考えると、革命思想につながる赤旗のイメージを重ねることもできるかもしれない。

 情報メディアは、情報を入れる容器(形式、概念)だが、同時に新聞は紙という物質である。容器が赤く塗られ、壊され、変質すると、情報が意味をなさなくなる。

 つまり、ここでは新聞というメディアの概念性と物質性が改めて示され、とりわけ物質性が強調されている。

コピーした新聞紙の上の一部に本当の新聞紙を貼った52枚の新聞紙(1970年)

 他方、こちらの作品では、新聞紙を等倍サイズでコピーし、その一部の小さな四角部分のみに、本物の新聞紙を切り取って貼っている。

庄司達

 ここでは、後から貼った本物の新聞紙の部分はもちろんのこと、大部分のコピーの領域も情報として読むことができる。

 赤い作品と異なり、コピーとして物質が置き換わっても容器としてのメディアが機能しているので、引き継がれた情報を読み取れる。 

 つまり、ここでは新聞というメディアの形式性、機能性、概念性が強調されている。

 シンプルな手法ながら、物質と人間、メディアという容器とそこに盛り込まれる情報の関係へと、思いが巡らされる。

「人間と物質」展

 第10回日本国際美術展「人間と物質」は、1970年5月に東京都美術館で開催され、その後、京都市美術館、愛知県文化会館美術館(愛知県美術館の前身)、福岡県文化会館(福岡県立美術館の前身)に巡回した。

 1968年のヴェネツィア・ビエンナーレが学生運動によって混乱したのを背景に1年間延期して開催。受賞制度と国別参加が廃止され、コミッショナー制が新設された。

 企画を担当したコミッショナーの美術評論家、中原佑介さんが準備期間に視察したハラルド・ゼーマン企画の「態度が形になるとき」展などの動向を踏まえた。

 もの派、アルテ・ポーヴェラ、コンセプチュアリズム、ミニマリズムなど、当時最先端の傾向の40作家が参加。展覧会の運営、企画内容や、もの派を国際的文脈に位置づけた点などが高く評価されている。

愛知県美術館のもう1つの展示

庄司達

 愛知県美術館では、展示室7前の前室2(通路部分)で、「庄司達とタイム・ベーストメディア」という別の特集展示が企画されている。

 ここでは、「人間と物質」展以後、庄司さんが布の作品以外に展開した映像作品などを集めている。タイム・ベーストメディアとは、フィルム、ビデオ、コンピューター、パフォーマンスなど鑑賞に時間的な経過を要する媒体を指す。

 1972年のパフォーマンスの記録写真、1970年、オーストリアのザンクト・マルガレーテンで開催された「ヨーロッパ彫刻家シンポジウム」の記録映像、庄司さんの映像作品が展示されている。

庄司達

 庄司達さんは1939年に京都市で生まれ、生後間もなく名古屋へ転居。京都市立美術大学(現京都市立芸術大学)彫刻科で辻晋堂堀内正和らに学んだ。名古屋市立工芸高校のデザイン科教諭となって、同校の教諭だった現代美術家の久野真さん(1921〜98年)と知り合った。

 1968年頃から、緊張と弛緩、空間への広がり、環境への影響などに意識を向けた布の作品を制作している。

 久野さんとは、1998年、愛知県美術館で2人展「久野真・庄司達展—鉄の絵画と布の彫刻—」を開催。

 2019年、愛知・刈谷市美術館で久野真さんの展覧会「久野真展—Metal Works—」が開催されたときには、愛知・碧南市藤井達吉現代美術館長、木本文平さんとの対談「久野真の作品世界」が開催され、知られざる久野さんのエピソードを語った。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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