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瀬古亮河「円あるいは、」ノダコンテンポラリー(名古屋)で2023年7月21日-8月10日

NODA CONTEMPORARY(名古屋) 2023年7月21日~8月10日

瀬古亮河

 瀬古亮河さんは1999年、三重県生まれ。2022年に名古屋芸術大学芸術学部美術領域洋画コースを卒業。2021年に「第16回CBC翔け!二十歳の記憶展」で最優秀グランプリを受賞した

 国際芸術祭「あいち2022」では、出品作家、田村友一郎さんの作品のコンセプトアートを担当している。

 もともと漫画家志望で、漫画では、すでに週刊少年マガジンや週刊少年サンデーなどで数多くの受賞歴がある。

瀬古亮河

 現在は、三重県内のアトリエで、油彩画を中心に制作している。油彩と漫画の表現の交わりから何が生まれるかを実戦的に模索している。

「円あるいは、」

 新作を多く含んだ油彩画約20点のほか、その元になったペン画、あるいはアニメーション映像の作品も展示されている。

 まず、何が描かれているか、そのスタイルはどのようなものかということは措くとして、会場で作品を見た多くの人の感想は、絵がうまいということではないか。

瀬古亮河

 ギャラリーに掲げられた恩師、名古屋芸術大教授の吉本作次さんの言葉にもそれは表れている。吉本さんは、文章の中で、瀬古さんの画力を高く評価している。筆者が見た印象でも、線の美しさや造形力、絵具の塗り、画肌の厚みによって、絵画の存在感が見てとれる。

 瀬古さんの絵画では、背景となる壁面が機械的なイメージになっていて、その前に、およそ機械とは縁遠い少女が描かれている。

 デジタルには依存せず、アナログ的技法にこだわり、すべてペンや筆で精緻に、同時にしなやかに描きこむ。「第16回CBC翔け!二十歳の記憶展」の受賞作品は、ネット上の写真しか見ていないが、とても正統的な絵画である。

瀬古亮河

 少女はキュートで、そこはかとない艶かしさもそなえている。同時に謎めいていて、刀や銃を持っていることも含め、強さを感じさせる女性である。

 高い技術力によって表出される少女の魅力的な表情、しなやかな体躯、自然な立ち振る舞いと、それらの漫画的な効果が、背景の錆びた色調の機械的なイメージと結びついて、独特の世界をつくっている。

 漫画から絵画へと舵を切る中でも、漫画、イラスト、ガンプラ、モデルガンなど、作家自身が好きなものを放棄せず、それらのベースから派生するものを高いレベルで結集して描いている感じだ。

瀬古亮河

 瀬古さんは、絵画の内容については、世界観とストリー性を重視しているという。実際に、個々の作品で印象づけられるのは、正統的な油絵としての確たる実体感、強さと、生き生きと弾けそうな漫画表現との、驚くべき共存である。

 背景にある機械的な、錆び付いた構造物は、少女の軽やかさ、たおやかさと、不思議な対比、均衡をもっている。

 今回、主軸となる作品群「LOW TEC GEAR」は、物やケーブルが地面から隆起する現象が発生した世界で、地下出身の男性シンガー、アポロと、彼の前に突如現れた謎の少女、アルが物語を紡いでいる。

瀬古亮河

 会場には、絵画の元になったペン画もあって、両者のテイストを比べながら鑑賞することもできる。また、別の作品ながらアニメーションもあるので、そうした比較もできる。

 「円あるいは、」という今回の個展タイトルは少し異質である。作家が書いたステイトメントの文章を筆者なりに意訳すると、ある視点から見たら二次元的な円にすぎなくても、三次元的には、円錐や円柱、螺旋かもしれない、ということらしい。

 つまり、次元を高くすれば、いろいろなものが見えてくる。ここでは、本格的な「漫画」を本格的な「絵画」と乗ずることで、多次元的な何が生まれるかが試されている。

瀬古亮河

 まだ、それは明瞭なものにはなっていない。瀬古さん自身もそのことを「一生の課題になるだろう」と書いている。

 内容が関わるのか、物語か、キャラクターか、あるいはスタイルか、文化史的なものか、思想性か精神性か、批評性か…。

 絵画と漫画の交わる沃野から、瀬古さんオリジナルの広がり、奥行き、力がどう生まれるのか、今後が楽しみである。 

瀬古亮河

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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