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映画『インフル病みのペトロフ家』名古屋シネマテークで4月30日-5月20日公開

© 2020 – HYPE FILM – KINOPRIME – LOGICAL PICTURES – CHARADES PRODUCTIONS – RAZOR FILM – BORD CADRE FILMS – ARTE FRANCE CINEMA -ZDF

ロシア演劇界の鬼才 映画監督としても世界が注目するキリル・セレブレンニコフ

ロシア演劇界の鬼才で映画監督としても世界が注目するキリル・セレブレンニコフ監督の新作『インフル病みのペトロフ家』が2022年4月30日~5月20日、名古屋・今池の名古屋シネマテークで公開されている。

驚くべき長回しショット、めくるめく場面転換、ロシア社会への強烈な風刺、型破りな芸術的感性、息を呑むほどのパワー。過去と現在、異なる空間が多層的につながる、シュールで超先鋭的な映画である。

2021年カンヌ国際映画祭で名だたる批評家を驚かせ、フランス映画高等技術委員会賞に輝いた。

原作は、強烈なブラックユーモアでセンセーションを巻き起こしたロシアの作家、アレクセイ・サリニコフのベストセラー小説。

2017年に、ロシアから演劇予算横領の疑いで自宅軟禁状態となったセレブレンニコフが不条理な状況下で脚本を書き、闇に隠れて撮影した。現代ロシアの迷宮を疾走し、映画の迷宮を疾走する独特の映像である。

キリル・セレブレンニコフは、「ふじのくに⇄せかい演劇祭2020」に招かれ、2年前のゴールデンウイーク期間に『OUTSIDE -レン・ハンの詩に基づく』を上演予定だったが、コロナ禍で中止となった。

2012年、ゴーゴリ・センター芸術監督に就任。欧州の主要な劇場でオペラ、バレエを演出し、国際的な評価が高い。17年にボリショイ・バレエで初演された「ヌレエフ」が、バレエ界最高峰のブノワ賞で、振付、作曲、舞台美術、男性ダンサーの主要4部門を独占。映画監督としても、ローマ、ロカルノ、ベネチア、カンヌなどに出品している。

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ストーリー

2004年のロシアの地方都市、エカテリンブルク。

インフルエンザが流行する中、自動車整備士のペトロフは高熱にうなされ、妄想と現実の間を行ったり来たり。やがて、妄想はまだ国がソ連だった子供時代の記憶、あるいはソ連崩壊後の1990年代へと回帰していく。混沌をさまようペトロフの魂の旅路である。

政治局員の銃殺を手伝わされるかと思えば、霊柩車で酒盛りする旧友、イーゴリに誘われ、泥酔。図書館司書の元妻ペトロワは、男の殺人願望にとらわれ、息子セリョージャの首さえ包丁でかっ切る妄想を抱く。

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ペトロフが4歳だった旧ソ連ブレジネフ時代の1976年、両親と一緒に出かけたヨールカ祭りの思い出、作家志望の幼なじみ、セリョージャの自殺幇助をさせられるソ連解体後の1990年代、2004年という3つの時代が入り混じった、出口のない堂々巡りの物語空間。

悪夢のようなエピソードと妄想、虚構世界、今がどん詰まりゆえのノスタルジーが時空を超えてつながり、物語は迷路のように錯綜する。

鬱屈したような世界で、登場人物たちの現実と幻想が混合され、 シュールなリアリティを増幅させる。

ソビエト時代の文化的背景、生活感がノスタルジーと共に懐古されることはあっても、複雑で不可解なロシア、不安と狂気、腐敗、崩壊がないまぜになったナンセンスな不条理の中に、熱にうなされるように生きるしかないロシアが、ここにある。

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キリル・セレブレンニコフ

演出家、映画監督。1969年、ロストフ・ナ・ドヌ生まれ。父親はユダヤ人の外科医、母親はウクライナ人のロシア語教師。1992年、地元ロストフの大学を卒業(専攻は物理学)。

在学中から演劇活動を開始。2000年代以降は拠点をモスクワに移し、モスクワ芸術座などで公演。2012年には正規の演劇教育の経験がないにもかかわらず、権威あるゴーゴリ記念モスクワドラマ劇場の芸術監督に指名され、まもなく劇場をゴーゴリ・センターへと改組。

大胆な演目に挑戦するなどロシアのみならず世界の注目を集める。スタニスラフスキー賞(2005年)、黄金のマスク賞(2018年)などロシアの権威ある演劇賞を多数受賞。2021年2月までゴーゴリ・センターの芸術監督を務めた。

映画監督としてのキャリアは1998年にスタート。カンヌ、ヴェネチア、カルロヴィ・ヴァリなど世界の映画祭で数多くの賞を受賞している。

2017年、国からの演劇予算の不正流用を疑われて詐欺罪で起訴され、自宅軟禁に。かねてよりロシアのジョージア侵攻やクリミア併合、LGBTへの抑圧を批判するなど、政権に批判的な姿勢を明らかにしていたため、この逮捕を不当な政治弾圧と見る向きもあり、演劇界、映画界からセレブレンニコフを支持する声が上がった。

2018年のカンヌ国際映画祭で『LETO ‒レト‒』が上映された際は、軟禁により参加できず、女優のティルダ・スウィントンなどが「セレブレンニコフに自由を」とアピール。

2018年8月にはフランス芸術文化勲章最高位(コマンドゥール)を受章。2020年6月10日有罪判決が下され、 3年の保護観察、執行猶予付き3年の刑及び罰金となる。本作の脚本は自宅軟禁中に執筆された。

≪作品データ≫
原題:Петровы в гриппе/英語題:Petrov’s Flu
監督:キリル・セレブレンニコフ(『LETO -レト-』)|出演:セミョーン・セルジン、チュルパン・ハマートワ、ユリヤ・ペレシリド
原作:アレクセイ・サリニコフ著「Петровы в гриппе и вокруг него(インフル病みのペトロフ家とその周囲)」(邦訳未出)
2021年|ロシア=フランス=スイス=ドイツ合作|146分|DCP|カラー|R15+
日本語字幕:守屋愛 配給:ムヴィオラ

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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