絵画の忘れ方 エビスアートラボ(名古屋)12月10-26日、1月14-30日

YEBISU ART LABO(名古屋) 2021年12月10〜26日、2022年1月14〜30日

non-painting

 絵画でないのにその形式の文脈への憧憬から導かれた作品、あるいは、ささやかなシステマティックな方法に基づき制作された絵画‥‥。

 絵画が別の文脈に融合されながら新しいスタイルへと接近している作品もある。

 絵画を起点にそこから離れていく、あるいは、絵画とは違う場所から絵画に近づいてみる、絵画をかすめながら違う領域へと進んでいく。

 「絵画の忘却」を巡る、作家それぞれの制作過程を見せてくれる興味深いグループ展である。

井上七海 Inoue Nanami

井上七海 Inoue Nanami

 井上七海さんは1996年、愛知県⽣まれ。2019年、名古屋芸術大学美術学部美術学科洋画2コース卒業、2021年、京都芸術⼤学⼤学院修⼠課程美術⼯芸領域油画分野修了。

 グレーの地にくすんだ青い線で細かいグリッドが描かれたミニマルな作品である。外周は残して、支持体の内側に矩形の方眼を描いている。

 線は定規で引いた感じだが、繊細でたどたどしく、色も太さも微妙に異なり、消えかかっている部分、わずかに折れ曲がっている箇所、絵具溜まりなど、手技の痕跡が魅力である。

 はかない格子構造が繰り返されるシステミックな構造の中に精神的な揺らぎも感じられ、アグネス・マーチンの作品をも想起させる作品である。

宇留野圭 Uruno Kei  

宇留野圭 Uruno Kei

 宇留野圭さんは1993年、岐阜県生まれ。2021年、名古屋芸術大学芸術学部芸術学科美術領域洋画コース卒業。名古屋芸術大学大学院美術研究科同時代表現研究領域。

 宇留野さんの作品では、アクリルボックスの中に、3Dプリンターで作った骨や、日用品などのオブジェが詰め込まれている。

 アクリル板がすりガラスのように加工してあるので、内部は、半ば見え、半ば見えない。また、表面に絵具を塗って拭き取っていることもあって、うっすらと色彩に覆われた半透明である。

 透明でも不透明でもなく、アクリル板を通して見えるイメージはなんとも絵画的であり、同時に立体的である。

 ミニマルな幾何学形態と全一的な色彩、三次元性を備えながら、半透明のアクリル板の二次元平面が内部のオブジェによってイリュージョニスティックな錯視性を宿しているところが面白い作品である。

小栗沙弥子 Oguri Sayako

小栗沙弥子 Oguri Sayako

 小栗沙弥子さんは1978年、岐阜県生まれ。岐阜県在住。2002年、愛知県立芸術大学美術学部日本画科を卒業し、2004年、愛知県立芸術大学美術学部油画科研究生を修了した。

 小栗さんの作品は、キャンバスの木枠を細く削り、床や壁に並べたインスタレーションである。

 絵画のように壁に掛けたり、床に置いて重ねたりしている。小栗さんの作品の魅力は、絵画のフレームという形式性を意識させること以上に、削られた木枠にある。

 窓のような矩形の木枠の規則性と細部のランダムな表情、その重なり、連なりが空間に働きかけ、美しい光景となって立ち現れている。

 2021年3月に愛知県立芸大 SA・KURAであった個展レビューも参照してほしい。

さとうくみ子 Sato Kumiko

さとうくみ子 Sato Kumiko

 さとうくみ子さんは1990年、岐阜県生まれ。2020年、愛知県立芸術大学大学院美術研究科修士課程油画・版画領域修了。岐阜県を拠点に制作している。

 絵画、ドローイングを立体と組み合わせた作品を展開している。2022年1月23日まで、「ハッピーセット」と題した大規模な個展をアートラボあいちで開催している。

 空想的物語が、装置的な立体やインスタレーション、パフォーマティブな要素と融合した奇妙奇天烈な世界である。素材は段ボールなどチープなDIY的なものが多い。

 今回は、観音開きの扉を開けると、風呂場から白鳥のビークルに乗って逃げるというような物語的な作品が現れる。

名村可奈子 Namura Kanako

名村可奈子 Namura Kanako

 名村可奈子さんは大阪府出身。日本と北米で育ち、2019年にメキシコから帰国した。大阪府在住。国内外で個展、グループ展をしている。

 紙を使い、そのときどきに考え出された一定のシステムによって規則的に作品を制作している。

 作品は、ルールに基づき展開する構造化、秩序化という演算的処理と、その反復作業を展開するときの逸脱、混沌によって成り立っている。

 具体的には、紙を襞のように山折りして山の部分を着色するなど。制作の形式的な手続き、すなわち厳格な規則性と、実際に生み出されるときのあいまいさ、遊び心に満ちた無秩序性の相剋が見て取れる作品である。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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