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さとうくみ子「ハッピーセット」アートラボあいちで1月23日まで

アートラボあいち(名古屋市中区)  2021年12月3日〜2022年1月23日

さとうくみ子

 さとうくみ子さんは1990年、岐阜県生まれ。2020年、愛知県立芸術大学大学院美術研究科修士課程油画・版画領域修了。岐阜県を拠点に制作している。

 2019年、名古屋のエビスアートラボで個展「一周まわる」を開催。2021年には、 「第24回岡本太郎現代芸術賞」展 (川崎市岡本太郎美術館)に入選、出品した。

さとうくみ子

 さとうさんの作品は、絵画、ドローイング、オブジェや立体を組み合わせたインスタレーションである。

 くみ子と語感が近い「グリコ」のゴールイン・マークを「クミコ」に置き換えたキャラクターを作品に登場させるのも特徴。

 段ボールや木材をはじめとした日曜大工用品、生活雑貨など、ホームセンターで揃いそうなチープな素材で構築している。

さとうくみ子

 方眼紙に書き込んだ設計図、あるいは取扱説明書のようなドローイングもある。

 ドローイングを基に立体にすることもあれば、立体の制作後にドローイングを描くこともあるとのことである。

 立体作品の多くは、分解して箱型に収納でき、持ち運びが可能である。そのためか、会場に展示された映像を見ると、パフォーマンス的な要素を多分に含んでいる。

さとうくみ子

2021年  アートラボあいち

 筆者は、さとうさんの作品を初めて見た。祭壇のパロディとも、あるいは舞台装置ともとれる不可思議な世界である。

 今回、さとうさんはアートラボあいちで1カ月間の滞在制作に挑戦。作品は、装置的な構造物、収納型道具で構成したインスタレーションと言っていいものである。

 全体は「ハッピーセット」のタイトルが付けられ、それを構成するそれぞれが収納型の装置、遊び道具的な造形物になっているという印象である。

さとうくみ子

 映像作品が2点あって、配置して、また片付けるというようなパフォーマンス的な映像と遊び道具の使用方法のガイドのような動画になっていた。

 パフォーマンス映像を見ると、道具の移動、配置、使用後の収納などという行為そのものがテーマ、つまり、ある種の型をつくって、それを楽しむことが作品になっている気がする。

 その一方で、会期中にあったトークによると、制作時は手を動かすことが優先で、必ずしもコンセプト重視で制作しているわけではないことが分かる。

さとうくみ子

 子どもの頃の秘密基地づくりのような、1人遊びの延長、目的のないDIYのような世界である。

 さとうさんの作品を見ると、見せるためのしつらえとしては、パフォーマンス的、演劇的であったりするが、基本は、ブリコラージュに近く、それも、子どもの頃の妄想的な遊びや空想、工作を思い起こさせるようなものである。

 映像作品の各タイトルには「おもてなし耳掘り」「耳掘り練習キット」などのタイトルがついているが、耳垢掃除へのこだわりの背景も、よく分からない。

さとうくみ子

 さとうさんは、趣味として狩猟のグループに関わっていて、動物の遺体から骨格標本を作ったりしている。つまり、元の素材を変化させ、まったく機能や性質が異なるものができることを楽しんでいる感じがある。

 小学生の頃の工作が大人になってからのDIYに拡大したような世界だが、目的、機能があるようでない。さとうさんの作品は、装置や工場、機械のように見えて、生産性がない。

 生産性がないから、効率やマーケティング、トレンド、売れ筋を追いかけることがない。つまり、資本主義に組み込まれない自由さがある。

さとうくみ子

 ナンセンスな、ままごとセットみたいな作品である。子どもが空想の世界でさまざまな物を動かし続けるままごとの世界に共通する感覚を筆者は連想した。

 そこは、アジールのような居場所を思い起こさせる空間である。柔らかなアナキズムと言っていいかもしれない。

 大袈裟かもしれないが、筆者は、東日本大地震や日本経済の長期低迷、急速なデジタル技術の進展の中で、信じてきたもの、既存の価値観の延長にあるものに頼れないという時代感覚も感じとった。

さとうくみ子

 世界的にみても、気候変動や資源不足、災害と貧困、難民、格差、AIによる価値観の変化など、課題が山積しているが、さとうさんは、あえて遊びの世界、空物語物語のおすそ分けのような作品を作っている。

 チープでナンセンスで、ユーモアにあふれた、それでいて、生真面目な世界である。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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