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香港映画祭2022 シネマスコーレ(名古屋)で12月17-23日に開催

香港を知る、香港を楽しむ日本初公開の19作品

 名古屋・シネマスコーレで2022年12月17~23日、「香港映画祭2022」が開催される。全国5都市を巡回する企画の一環。上映するのは19作品で、初めて開催された2021年の7作品から大幅に増えた。

 2021年の香港映画祭については、こちら

 香港映画に沸いた2022 年の総決算として、香港映画祭 2022では、 インディペンデント映画から海外映画祭を席捲した大ヒット作まで幅広くラインナップしている。

 伝記映画『アニタ』で香港アカデミー賞(香港電影金像奨) 最優秀女優助演賞を受けたフィッシュ・リュウが出演する『風景』、ジャッキー・チェン映画でもおなじみの名バイプレーヤーのタイポー(太保)が優秀男優賞になった『ソク・ソク』(原題:叔・叔)、1990年代を代表する女優、ロレッタ・リー (李麗珍)のカムバック作で、フランシス・ン(呉鎮宇)が主演する『香港の流れ者たち』(原題:濁水漂流)など、見逃せない作品がめじろ押しである。

 デビュー作の『少年たちの時代革命』で台湾アカデミー賞を席捲したレックス・レン監督とラム・サム監督の短編集も上映される。

香港映画祭2022に寄せて リム・カーワイ(映画監督・香港映画祭2022 キュレーター)

 〈要旨〉香港映画祭の開催は、香港の社会と政治の変化を反映した香港映画が多く制作されているにも関わらず、日本に紹介されていないことが大きな理由であった。

 香港映画の多様性と魅力を日本の映画ファンに届けたいという思いか ら、本映画祭は始まった。今年も同じ趣旨で開催するつもりだったが、日本における香港映画の受容状況に変化があることに気付いた。

 今の日本は、世界中で最も香港映画を見ることができる国となっている。この状況は実に健全で素晴らしいことだ。 それでも日本で紹介されていない素晴らしい香港映画がまだ数多くあるはずだと思い、作品選考、配給会社や監督たちとの交渉を重ねた結果、短編を含め、19本もの未公開作品を上映することが決まった。

 19作品の主人公たちは、これまで日本で紹介された香港映画で、あまり主役になったことがないキャラクターである。移民、年寄りのゲイ、差別を受けた女性、ホームレス、アンダーグラウンドの芸術家たち、社会運動に参加する人、デモで逮捕された人などだ。

 社会的マイノリティーに視線を向けた映画監督の多くは、若手の新人監督。鑑賞者は、香港映画祭 2022を通じて、未知の才能を発見するとともに、香港映画の裾野の広さを知ることになるだろう。

 これらの作品から、香港国家安全維持法やコロナ禍などがもたらした変化が、むしろ香港映画の可能性と豊かさを広げたのではないかと感じていただけたら幸いである。

プログラム

【A】『風景 第一部:始まりの終わり』(原題:風景)2016/99分

【B】『風景 第二部:終わりの始まり』(原題:風景)2016/77分

監督:リタ・ホイ(許雅舒) キャスト:パン・ツァンリョン、ロー・ジャンイップ 、フィッシュ・リュウ

 2011年、香港で初めてオキュパイ(占拠)運動が起きた。大学生のタイチョウと恋人のミンイーは、 香港上海銀行を 1 年間占領。ミンイーは逮捕され、収監されるが、タイチョウはその間に彼女の母と恋に落ちる。

 金持ちのマキシム は、オキュパイ運動に参加した人々と出会ったことで、自身の生活が高度資本主義に毒されていたことに気付く。そして、かつて恋人が、失われてゆく香港の歴史を 記録するために、多くの人を取材していた理由をようやく理解する。

 大陸から香港に移住したリーレイは狭いアパートで彼氏と暮らしているが、謎の少女と出会ったことで、日常が少しずつ変わってゆく。

 香港の社会と政治状況によって彼らの運命が翻弄され、日常の風景が急速に変化していくことに気付かないうちに、2014 年雨傘運動が起きて…。

 香港インディペンデント映画作家 リタ・ホイの三作目の長編映画。2011年以後のオキュパイ運動、 反政府デモ、天安門記念集会、雨傘運動などのドキュメンタリー映像と世代や背景も違う人々のドラ マを交えて描いた 3 時間の話題大作。

 今の香港映画に欠かせない俳優のロー・ジャンイップとフィッシュ・リュウが主演し、自由を求め、体制に反抗した香港人の道のりを繊細かつエモーショナルに描いている。

 2019年民主化デモとその後の香港の変化を知る我々に問いかけてくるものは大きい。二部に分けての上映となる。

【C】『ソク・ソク』(原題:叔・叔)2019/92分 劇映画

監督:レイ・ヨン(楊曜愷) キャスト:タイポー、ベン・ユエン
◆釜山国際映画祭、ベルリン国際映画祭、香港国際映画祭

 退職間近のタクシー運転手パクと、すでに引退しているシングルファーザーのホイ。二人の出会いが、長年抑制し続けてきた感情を呼び起こす。共に将来を築くには、乗り越えなければならない壁がいくつも存在していた。

 高齢者の同性愛という問題を多角的な視点から描く。第70回ベルリン国際映画祭など多くの海外映画祭で上映され、中華圏で最大の映画賞である金馬奨では5部門にノミネートされた。

【D】『香港の流れ者たち』(原題:濁水漂流) 2021/112分 劇映画

監督:ジュン・リー(李駿碩) キャスト:フランシス・ン、ツェー・クワンホウ、ロレッタ・リー
◆ロッテルダム国際映画祭、香港国際映画祭、イタリアウディネ映画祭、台湾金馬国際映画祭など

 刑務所を出た輝(ファイ)は陰鬱な街・深水埗へ戻り、ベトナム難民の林爺(ラムじい)、皿洗いの陳(チャン)、薬物依存症の大勝(ダイセン)、半身不随の蘭(ラン)たちと再会する。

 ところが、行政機関がホームレスの住む一帯を撤去しにやってきたことで、ファイたちは「家」を失う。新人ソーシャルワーカーのホーは、彼らのために裁判を起こし、政府に賠償と謝罪を求める。

 ファイたちは言葉の不自由な若者、木(モク)と出会い、力を合わせて小さな小屋を建てる。しかし、平穏な場所はなく、小屋は壊されてしまう。賠償も謝罪もないまま、彼らは冬を越せるのだろうか。2022年香港アカデミー賞11ノミネート、 2021年台湾アカデミー賞12ノミネート。

【E】≪コロナ変奏曲≫(原題:動態Rolling ) 2022/108分

コロナ禍の香港の変化を描く四つの珠玉の短編映画から構成されたオムニバス

『共に過ごした日々』(原題:同渡)34分
監督:ロー・ヤンチー(羅恩賜)

 アヤンは、コロナ禍で二年以上故郷のアモイへ帰れなくなったお婆さんの世話をすることになる。同じアパートに閉じ込められた二人の関係は、徐々に変化していくことに。

『四月の変奏』(原題:四月的変奏)30分
監督:エリカ・クォック(郭頌儀)
 コロナ禍で休業することになったエステティシャンのユンサンは、久しぶりに香港に戻った友人と再会する。ユンサンは、彼に惹かれていたが、この数年間の香港で起きた変化に対して無関心な態度を見て、関係を進めるべきか思い悩む。

『ゴミ箱を探せ!』(原題:阿才)25 分
監督:チョウ・キンカン(周敬勤)

 ティンチョイは バイト先の店主に頼まれたゴミを捨てるために、香港中を駆けまわるが、どこにもゴミ箱がない。そこでティンチョイは、思いがけない行動に出ることに…。

『一通目の手紙』(原題:第一封信)20分
監督:ジェイソン・イウ(姚敏堃)
 ジェイムズの親友マンが刑務所に入った。マンを慰めるために、手紙を書こうとするが、なかなか書けない。いつしか自分もあたかも大きいな刑務所に閉じ込められているような気になってきて…。

【F】≪少年たちの時代革命前夜≫ 106分 

─レックス・レン短編集─

『虫けら』(原題:螻蟻)2017/21 分
キャスト:チャン・チャームマン

 近未来の香港で、政府が市民を番号で管理する法案が決まった。マー・イー は冤罪で逮捕されて、警察から理不尽な尋問を受ける。この短編映画がジョニー・トーやフルーツ・チャンらに絶賛されたことで、香港映画界にレックス・レンの名を知らしめた。

『夢遊』(原題:夢遊)2021/14 分
キャスト:スン・クワントー

 真夜中のクラブで、DJのカーヤンとチャンは出会い、ふたりは夢か現実かわからないような空間を浮遊する。

『9032024』(原題:9032024 )2020/8分
キャスト:チャン・チャームマン

 高度な監視社会になった近未来、庶民は蟻の如く踏み潰されていく。傑作「虫けら」の後日談。

『クイーンのワンペア』(原題:1pair女) 2021/14分
共同監督:デビッド・チャン キャスト:マック・ウィンサム

 アパートの一室をシェアしているジョアンとダイアンは、お互いの悩みを分かち合う。偶然、香港の短編映画祭でこの映画を見た矢崎仁司監督は「ラストは成瀬巳喜男の『驟雨』のよう。見終わってまた見たくなる映画」と絶賛した。

『Goodbye HK cinema』2021/1分 ─ラム・サム短編集─

『オアシス』(原題:緑州)2012/30分

 言論の自由が制限され、ますます窮屈になる香港で、若者たちは体制と戦い、息苦しい大都会で自分たちの理想的なオアシスを作りだそうと奮闘する。アンダーグラウンドの音楽バンドと若者たちの日常生活を通して描く。

『夏のブルース』(原題:志強的夏)2019/17分
 夏、香港生まれのパキスタン人が、毎日、自転車をこいで香港の郊外と中心部を行ったり来たりして、フードデリバリーの仕事をしている。ある日、彼は自転車をなくし、思いがけない人と出来事に出くわす。

【G】≪注目新人女性監督特集≫ 115 分 

─チャン・ハウザン(陳巧真)監督短編集─

『32+4』(原題:32+4 )2015/32分 ドキュメンタリー映画

 同じ建物の32階に実父、4階に母と継父が住む。32と4は離婚した夫婦の間に広がる距離であり、娘の陳監督を育んだ全てである。カメラは針となって家族の古傷をほじくり出し、一方で色あせた思い出を縫い合わせる。自分と、父、母、血縁関係のない男との過去を探るセルフドキュメンタリー映画。

『失われた一部』(原題:失去的部分) 2022/30分 ドキュメンタリー映画
 脳が縮む。体の動きが鈍くなる。歯が痛む。口の中の隙間が人工物で埋まる。自分の体の知られざる変化と、変化に順応できない心の軌跡を描く。

─チョイ・カーイー(蔡嘉儀)監督短編集─

『7 月の怪談』(原題:7月燒衣) 2015/18分
キャスト:アデラ・ソー、ロー・ジャンイップ

 死者の霊を迎える盂蘭盆会。チーワーの叔父は 20歳の時に失踪し、15年後、別人のような姿で帰ってきた。果たして、あの日の夜に何があったのか?

『雨の夜』(原題:夜雨)2015/12分
 かつて香港の中心地・九龍(クーロン)に存在した啓徳空港。そこにつながる地下トンネルで、本来交わるはずもないホームレス、中産階級の女性、農業家の3人の人生が交差する。

『午後3時』(原題:下午三點)2022/23分
 新しいアパートに引っ越したチャンは、午後3時に隣の部屋から聞こえてくる美しいピアノの音色に惹きつけられる。念願かなって出会えたものの、後日、ピアノを弾く男の思いがけない真実を知ることに。

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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