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『ゴヤの名画と優しい泥棒』伏見ミリオン座(名古屋)などで2月25日公開

『ゴヤの名画と優しい泥棒』 2022年2月25日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開 配給:ハピネットファントム・スタジオ ©PATHE PRODUCTIONS LIMITED 2020

『ゴヤの名画と優しい泥棒』

 1961年に英国ロンドンで実際に起きたゴヤの名画盗難事件の知られざる真相を描いた映画『ゴヤの名画と優しい泥棒』が2022年2月25日、名古屋の伏見ミリオン座などで全国公開される。

 名画で世界を救おうとした男が、人々に優しく寄り添う姿を描く、爽やかな感動作である。

 200年近い歴史を誇るロンドン・ナショナル・ギャラリーで起きたフランシスコ・デ・ゴヤの名画「ウェリントン公爵」盗難事件。それは、名もなきタクシー運転手の人生を懸けた大勝負だった――。

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 実話に基づくとは思えない驚嘆すべきストーリー展開。社会が分断し、格差が広がっている今の時代だからこそ見てほしい人間愛にあふれた物語である。

 東海地方の上映館はほかに、 ユナイテッド・シネマ豊橋18TOHOシネマズ赤池ミッドランドシネマ名古屋空港TOHOシネマズ岐阜

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 誰もがとりこになるチャーミングな主人公に名優ジム・ブロードベント。長年連れ添った妻を演じるのはヘレン・ミレンである。英国を代表するオスカー俳優の共演による、ユーモアあふれる軽妙な夫婦の会話劇も見どころの1つ。

 『ダンケルク』の好演が記憶に新しい息子役、フィオン・ホワイトヘッドのフレッシュな魅力も見逃せない。

 監督は2021年9月、惜しまれながら逝去し、本作が長編遺作となった『ノッティングヒルの恋人』のロジャー・ミッシェル。

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ストーリー

 2300点以上の貴重なコレクションをそろえ、世界中から年間600万人以上が来訪するロンドン・ナショナル・ギャラリー。

 1961年、“世界屈指の美の殿堂”から、ゴヤの名画「ウェリントン公爵」が盗まれた。

 この前代未聞の大事件の犯人は、長年連れ添った妻、優しい息子と小さなアパートで年金暮らしをしていたごく普通のタクシー運転手、60歳のケンプトン・バントンだった。

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 娯楽の乏しい時代、テレビで孤独を紛らしている高齢者たちの生活を少しでも楽にしようと、盗んだ絵画の身代金で公共放送(BBC)の受信料を肩代わりしようと企てたのだ。

 しかし、事件にはもう一つの隠された真相が……。当時、英国中の人々を感動の渦に巻き込んだケンプトン・バントンの“優しい嘘”とは――。

短いレビュー

 社会的弱者のために立ち上がった主人公による突拍子もない行動——。

 本物のケンプトン・バントンは、夢想家で、かなりクセの強い男。いわば、変わり者の活動家だったようである。

 貧困によって社会から切り離された高齢者の孤独を癒やすのに、テレビは欠かせない。そう考えて、公共放送であるBBCを無料で受信できるようにと、社会活動にいそしむ。

 実際に、ケンプトン・バントンは、BBCテレビの受信許可料の支払い拒否のため、二度も刑務所入りをしている。

 映画では、彼による名画の盗難事件とその後が、家族のさまざまな問題を絡めながら展開する。

 貧しい人を救いたいというケンプトン・バントンの主張は、むしろ共感できるものだ。

 権威や公権力に対し、泥臭く疑問を投げかけることの大切さが、この映画の主題といってもいい。

 ケンプトン・バントンは、素朴に、人生を自分のためでなく、みんなのために捧げた人なのである。

 そこには、社会は、もともと支えあいによって成り立っているという、今では忘れられがちな考えが頑固なまでにあったと言ってもいい。

 閉塞感や不安、生活苦、格差と分断の中にある今の日本で、人が人のために生きることが見失われつつあるとしたら、この作品は一服の清涼剤となるだろう。

 筆者は、弱者に寄り添うこの作品を見て、ケン・ローチ監督の「わたしは、ダニエル・ブレイク」を想起した。

 “社会派”といっても、堅苦しい作品ではない。構えず楽しみながら、人間の優しさとつながりに触れられるヒューマンドラマである。

監督:ロジャー・ミッシェル

 1956年6月5日、英国外交官の息子として南アフリカで生まれる。

 『ジェイン・オースティンの説得』(95/日本未公開)で長編映画デビュー。その後、ゴールデングローブ賞の最優秀作品賞にノミネートされたジュリア・ロバーツとヒュー・グラント共演の『ノッティングヒルの恋人』(99)で、一躍世界的脚光を浴びる。

 主な監督作に、『Jの悲劇』(04)、『恋とニュースのつくり方』(10)、『私が愛した大統領』(12)、『ウィークエンドはパリで』(13)、『ブラックバード 家族が家族であるうちに』(21)などがある。

 今後の公開作として、エリザベス2世の素顔に迫ったドキュメンタリー『Elizabeth』(22)が控えていたが、21年9月22日に65歳の若さでこの世を去る。本作が最後の長編映画作品となった。

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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