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清須ゆかりの作家 阿野義久展 生命形態 -日常・存在・記憶-清須市はるひ美術館(愛知)9月10日-11月13日

阿野義久

 愛知県清須市の同市はるひ美術館で2022年9月10日~11月13日、「清須ゆかりの作家 阿野義久展 生命形態 ―日常・存在・記憶―」が開かれている。「清須ゆかりの作家」シリーズの8回目。

 阿野義久さんは1958年、長野県生まれ。1985年、愛知県立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻修了。清須市在住である。

 名古屋市のハセガワアートでの個展のほか、2020年から、愛知県豊田市の豊田画廊でも発表。1994年には「POSITION 1994名古屋発現代美術展」(名古屋市美術館)に参加した。

阿野義久

 上野の森美術館大賞展、青木繁記念大賞公募展にも出品。1989、2003、2006年に今立現代美術紙展(福井県越前市)にも出展している。

 2013年から、「ながくてアートフェスティバル」(愛知県長久手市)に参加している。

阿野義久

「冬景」(2003年)

 阿野さんは、人体や植物など生命の形態を見つめ、日常と記憶とを往還するなかでイメージを醸成している。

 今回は、数多くの大作が出品されている。年代も1980年代までさかのぼることができ、阿野さんの画業を初期からの展開として確認できる貴重な機会である。

生命形態 ―日常・存在・記憶―

阿野義久

 展示は、2001年ごろの作品から始まり、最後に1980年代-2000年代に戻るという構成だが、それが絶妙である。

 阿野さんは2001-2002年にイタリア、スペインに滞在。公園の樹木をスケッチする中で、形態を線的に捉えなおし、形を水平、垂直、対称性、反復性によって描くようになった。

 それによって、樹木が機械(人工物)のように構築され、また、逆に、給水塔やガスタンクなどの工業的な建造物は、植物の形態を思わせるように描出された。

阿野義久

「TANKS」(2010年)

 阿野さんが、樹木など植物の形態と、人工的な生産設備の形態の間にアナロジーを見てとったことで、植物と人工物が接近していったともいえる。

 植物の形態と、人間が人工的につくったものの形態が、等価に捉えられているところが興味深い。

「冬景」(2003年)などでは、描かれたイメージは、もともとは、樹々を題材にしているはずだが、もはや樹木か、人工的な構造物かという分類を超えた存在感をもっている。つまり、日常に対するまなざしが独特になっている。

阿野義久

 逆に「TANKS」(2010年)では、ガスタンクが植物の形態にも見えてくる。

 最近は、幼い頃に見た原風景ともいえる故郷の長野県の自然を踏まえた、具象的なイメージを描いている。

 それは、日常的なものではなく、記憶の底から甦ってくるイメージである。思うに、阿野さんは、具象絵画を描きながらも、「ある距離」をもった記憶の果てにあるイメージ、目前にあっても不思議な存在感を感じた「遠く」の光景を心象として描いているのではないか。

阿野義久

 その意味で、子供の頃に慣れ親しんだ風景が、今の生活から遠ざかった牧歌的なイメージとして召喚されている。

 自分の人生、生活から捉えたときの、「隔たり」のあるもの、すなわち現実的でありながら、自分にとって「他者」である風景である。

阿野義久

 注目すべきは、そのとき、全体のイメージの中に、1つ1つの植物の形態を図鑑のように図案化して並置していることだ。

 筆者には、その記号化されたシンプルな形象が、記憶の断片化とともに生命的形態への強い意識の反映として受け止められた。 

 いわば、阿野さんは、風景というよりは、植物(生命)の姿形、あるいは、それと呼応するような形態を描いていて、それを単純化、断片化する中で、遠くにあるノスタルジックなイメージを呼び覚ましている。

阿野義久

 今回の展示では、最後に、「HITO」と題された2011年の油彩画や、1990年の「無題(トルソ)」、あるいは、膠石膏、流木、廃材などを構築して生命的形態を形作った1980年代の立体が展示されている。

 つまり、大団円で、生命形態、人体という原点が提示されるのである。

 日常のまなざしの先にある遠くの世界、記憶との間を行き来しながら、一貫して生命の形態を探求していることが分かる。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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