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3:IA/magazine創刊記念展「境界」masayoshi suzuki gallery(愛知県岡崎市)で2022年8月6日-9月4日

masayoshi suzuki gallery(愛知県岡崎市) 2022年8月6日~9月4日

篠原猛史、伊藤潤、山本恵、桑迫伽奈、スギサキモトヤ、国島征二、池谷友秀、安斎萌実、小川節男、橋村豊

 「写真集という名のmagazine」をキャッチフレーズに、雑誌[3:IA/magazine ]が2022年7月、3人のキュレーター、イワタトシ子さん(フリーランス)、鈴木正義さん(masayoshi suzuki gallery)、中澤賢さん(PHOTO GALLERY FLOW NAGOYA)によって創刊された。

 創刊号のテーマは「境界」。「創造」「時間」「領域」という3つのジャンルで構成された実験的な誌面展覧会の形式をとっている。

 展覧会としては、雑誌に作品が掲載されたアーティスト17人のうち、10人の作品を masayoshi suzuki gallery で展示している。

 いわば、雑誌上の展覧会と、リアルな展覧会を同時に開催するという試みである。

 出品作家は、篠原猛史伊藤潤、山本恵、桑迫伽奈、スギサキモトヤ、国島征二池谷友秀、安斎萌実、小川節男、橋村豊の各氏である。

 雑誌に掲載されているその他のアーティストは、しょうぶ学園、岡上淑子、田中健太郎、多和田有希波多野祐貴、平田五郎、辻徹の各氏。

 雑誌は、3人のキュレーターそれぞれの世界観や思想を融合させ、一定のテーマに沿って編集している。

 「3:IA/magazine vol.1」は、¥3,500(税込)。A4 判/オールカラー/無線綴じ/124ページ/限定500冊。企画・編集・デザインは、イワタトシ子さん、鈴木正義さん、中澤賢さん。

篠原猛史

篠原猛史

 篠原猛史さんは1951年、京都府生まれ。大阪芸術大学芸術学部芸術科卒業。

 篠原さんの作品は、絵画、立体として展示されながら、それらの造形言語が見る人の中にイメージの生成させる1つの装置として機能することが企図されている。

 見る人のさまざまな感覚、そこから得られる知覚、過去の記憶、体験、現在の意識などを動員し、鑑賞者と作品との交通を促すことでイメージを想起させるのである。2020年のなうふ現代(岐阜)のレビューも参照。

伊藤潤

伊東潤

 伊藤潤さんは1984年、名古屋市出身。名古屋市立大学芸術工学部・大学院で視覚情報デザインを専攻。在学中から、ドローイングなどの制作を進め、就職後は働きながら描いている。

 詳しくは、2020年の個展レビューを参照。今回は、骨を垂直線で分割したイメージの絵画や、粗いタッチで描写した頭部などのドローイングを展示している。

 ドローイングは、繊細かつダイナミックな手の動きや、絵具のテクスチャーが強く現れている。

山本恵

山本恵

 山本恵さんは1972年、大阪府生まれ。1993年、奈良芸術短期大学情報デザインコース卒業。

 1990年代から、大阪を中心にグループ展、個展で精力的に作品を発表。名古屋では、gallery feel art zeroで、2010、2012、2013年に個展を開いている。 

 木枠、矩形などの形態の古びた物で構成されたアッサンブラージュの半立体作品。白色で統一され、静謐で詩的な世界をつくっている。

桑迫伽奈

桑迫伽奈

 桑迫伽奈さんは札幌市出身、在住。2013年、北海道教育大学岩見沢校美術コース卒業。山や森林などの自然を対象とした写真のアーティストとして、北海道を中心に発表している。

 名古屋では、2021年にPHOTO GALLERY FLOW NAGOYAで作品を発表している。

 人間の手が入った森林を撮影し、イメージを加工している。「自然」「人工」などの概念を問い直しつつ、ベースには、生まれ育った環境にある森林、光、風、木々の揺れ、植生、草花の匂いや空などを全身で受け止める感覚を据えている。

 つまり、桑迫さんの作品は、スチールとしての写真に重層的な空間性、身体的な感性を回復させる試みともいえる。

スギサキモトヤ

スギサキモトヤ

 暗闇の中の光の軌跡と揺らぎをモチーフとした写真である。

安斎萌実

安斎萌実

 安斎萌実さんは1997年、愛知県生まれ。2020年、名古屋学芸大学メディア造形学部映像メディア学科卒業。同大学院メディア造形専攻修士課程在学中。写真(イメージ)が出力されるまでの編集・加工などのプロセスを意識した作品を制作している。

 今回の作品のモチーフは、2000年頃までホームレスがブルーシートなどので仮説的なテントを張って住んだ名古屋市中心部の公園である。

 その前後から現在まで、行政の「小屋掛け禁止」によるホームレス排除によって、公園は商業施設やスポーツ施設など、さまざまなかたちで美化された。

 安斎さんの作品は、元の撮影画像が激しく加工され、ぼかされているが、それが「排除」の暴力性と重ねられているところが秀逸である。 

橋村豊

橋村豊

 橋村豊さんは1964年、静岡県生まれ。戦争遺産を撮影している写真家である。

 今回は、第二次世界大戦で大日本帝国海軍によって開発された特攻兵器、人間魚雷「回天」がテーマ。回天の内部、格納壕などを捉えた作品が集団的に遂行された悲劇が何だったのかを訴えてくる。

国島征二・池谷友秀・小川節男

国島征二・池谷友秀・小川節男

 彫刻家、国島征二さんは2022年3月7日に84歳で亡くなった。「国島征二展 記憶の成層圏Ⅸ-SEALED TIME- L gallery(名古屋)」など、追悼展が開かれている。

 国島さんは1937年、名古屋市生まれ。愛知県立旭丘高校美術科卒業。作品については、2021年のギャラリーサンセリテ(愛知県豊橋市)での個展レビューなどを参照。

 池谷友秀さんは1974年、神奈川県小田原市生まれの写真家。水と人間をテーマに撮影している。2022年のmasayoshi suzuki gallery(愛知県岡崎市)での個展レビューを参照。

 小川節男さんは1952年、埼玉県生まれ。街を切り取った白黒のスナップからは、揺るぎない生と死の手触りが感じられる。無名の写真家として生き、2020年、最初で最後の個展をmasayoshi suzuki gallery(愛知県岡崎市)で開いた会期中に胃がんで亡くなった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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