「現代フォトアートは変成する」masayoshi suzuki(岡崎)とFLOW(名古屋)で9月26日まで

masayoshi suzuki gallery(愛知県岡崎市)、FLOW(名古屋市)
2021年9月4〜26日

PHOTO GALLERY FLOW NAGOYA

 masayoshi suzuki gallery(愛知県岡崎市)と、2021年5月に名古屋駅前にオープンした現代フォト・アートのギャラリー、FLOWの2会場で開催されている展覧会である。

 現代美術が盛んな土地「名古屋」というのも、いまやノスタルジーに近いかもしれない。実際のところ、FLOWは、名古屋にコンテンポラリー・フォト・アートのギャラリーがないとの問題意識で新設されたのである。

NEO TOKYO ZIN + POST/PHOTO SHOW

 写真と芸術の関係は古いが、現代芸術としての写真は、一部の有名アーティストに付随するものと捉えられがちで、そのポジションはいまだ曖昧と言えるのかもしれない。

 現代では、写真もビデオもデジタル化によって、スマホ、SNSによって、誰でも簡単に撮影・発信できるようになって、ますますありふれたものになっている。

 そんな中、FLOWの狙いは、今一度、写真そのものをアートとして深められる環境を自ら名古屋でつくることにある。

NEO TOKYO ZIN + POST/PHOTO SHOW 現代フォトアートは変成する

NEO TOKYO ZIN + POST/PHOTO SHOW

 その意味では、ギャラリーの3回目の企画展となる今回のグループショーは、ラジカルな提案によって、このギャラリーの存在意義を指し示す展示になっている。

 作家たちは、写真を漫然と作品に使うのではなく、写真というメディアの声を聴くことに意識的である。写真メディアがこの世界をどう捉えているか、進化する写真のテクノロジーがどう世界を見ているか。そんな問いがあるのである。

 言い換えると、ダゲレオタイプ、銀塩写真、デジタルカメラと、ブラックボックスの中で現実世界をイメージに変換する装置として展開してきたま写真の概念を、現代において、「変換の芸術」として捉え直すことである。

 カメラという装置と作家がせめぎ合いながら融合し、「変換」に関わるのが写真という芸術だということでもある。

 今回の展示は、masayoshi suzuki galleryが、編集者で京都芸術大学教授の後藤繁雄さんに、《NEO TOKYO ZINE》の展覧会を提案したのがきっかけである。

NEO TOKYO ZIN + POST/PHOTO SHOW

 《NEO TOKYO ZINE》は、後藤さんが主宰する G/P+abpが、富士ゼロックスとのコラボレーションによって、2020年からプロデュースしている写真集/アーティストブックのニュープラットフォーム・プロジェクトである。

 ちなみに、G/P は、コンテンポラリーアートとしての写真の振興・発信のため、後藤さんが2008年、東京・恵比寿に開設したギャラリー、abp は出版レーベルである。

 ギャラリーは、10年を区切りにいったん閉廊。2019年に、G/P+abp は、浜松市に拠点を移している。

 《NEO TOKYO ZINE》は、富士ゼロックスのオンデマンドプリンターの高性能モデル《Iridesse Production Press》を使っているのが特長。

 データを送ると、1冊からでも、必要数に応じた部数のみを継続的に制作できる高品質なZINEの制作システムである。これまでに約20冊を出版。写真集の詳細については、公式サイトを見てほしい。

POST/PHOTOGRAPHY

 今回は、この《NEO TOKYO ZINE》シリーズ全体を紹介するとともに、そのうちの《POST/PHOTOGRAPHY》という写真集にフォーカスした展覧会である。

 作品を展示したのは、写真集に取り上げられた17人のうち6人。2人がFLOW、4人がmasayoshi suzuki gallery に《写真作品》を出品した。

 なお、2021年3月には、京都芸術大学・瓜生山キャンパスのギャルリ・オーブで、17人が参加した展覧会も開催されている。

FLOW会場

伊藤雅浩

NEO TOKYO ZIN + POST/PHOTO SHOW

 伊藤雅浩さんは、アーティストでプログラマー。2011年から、写真作品を中心に制作している。今回は、抽象絵画のようなシリーズが展示された。

 写真はデータでしかないという考えから、デジタル画像のjpeg形式のデータを、自らのプログラミングによって並び替えた画像を展示している。

 横に並んだ5点の作品は、いずれも元のデータは同じだが、演算過程によって、さまざまな画像に変換されている。

 つまり、ある写真画像は、それがデジタルデータである以上、一定のプログラミングによって変換されると、そのイメージは、とてもあいまいなものだとわかる。いわば、この作品は、自動計算機が思考した写真=絵画である。

北桂樹

NEO TOKYO ZIN + POST/PHOTO SHOW

 北桂樹さんは、2012年から制作活動を展開。今回は、3つの作品シリーズを発表した。

 いずれも、スマホのアプリケーションの誤用や、無垢な反応によるイメージの変換をモチーフにしている。

 1つは、授業などで使うホワイトボードを斜め方向から撮影すると、正面から撮ったようにイメージを変換してくれるアプリ。それを使って、街中を撮影すると、カメラの誤用によって、現実空間が奇妙な歪みを伴った世界としてアウトプットされる。

NEO TOKYO ZIN + POST/PHOTO SHOW

 また、撮影したイメージの見栄えを修正してくれるiPhoneのアプリを60回反復使用した結果、データの変換によって、逆にイメージが醜悪になったことを示した作品もある。

 あるいは、グーグル翻訳アプリのカメラ入力で街中を写した作品も展示された。文字でない部分を文字と認識する反応が起ることで、翻訳文字が生成され、現実世界が予期せぬイメージに変換されているのが興味深い。

 いずれも、アプリケーションを誤用することによって逆説的に露わになるテクノロジーの真正の機能、いわば、進化したメディアの本心のような効果がイメージとして現れている。

masayoshi suzuki gallery会場

多和田有希

多和田有希

 多和田有希さんは1978年、静岡県浜松市生まれ。東北大学農学部で学んだ後、英国に留学。東京藝術大学大学院美術研究科 先端芸術表現専攻博士後期課程を修了した。現在の拠点は京都。

 これまでは、撮影した写真表面を削る、燃やすなどイメージを減じる手法で作品を展開してきた。

 今回は、自らが撮影した女性、ランの花、鹿の写真をスキャンし、つなげてロールにしたものを壁に掛けている。多和田さんの写真は、さまざまな形式に変換されるが、今回は、インスタレーションという形式をとっているわけだ。

 イメージが連なりつつも脈絡はなく、歪みを伴って波打っているなど、文脈や全体像がつかめない半面、物質性が強く、生々しいのが特長である。

 多和田さんは、写真イメージの情報が人の知覚、感覚に及ぼす作用を曖昧なものと捉えているようである。

 制作過程におけるスキャンも、即興的かつ身体的で、生まれ出た作品は、脳内で整理されるというより、速度感を伴った触覚的、神経的なものである。

R E M A

R E M A

 R E M Aさんは1996年、愛知県生まれ。京都芸術大学大学院修士課程美術工芸領域映像メディア分野修了。

 植物の葉を撮影した写真のフィルムをスキャン、ネガポジ反転させ、インクジェットで出力している。

 人工的で異様な色彩を帯びているが、CGで描いたものでなく、ネガポジ反転から表出されているのが面白い。つまり、色彩の変化は、もともとの自然に由来する。

 葉にレーザーによるドローイングで人間やおばけのようなイメージ、文字が刻印されていることも含め、自然と人工、アナログとデジタル、身体と機械などの関係を改めて想起させる表現となっている。

大澤一太

大澤一太

 大澤一太さんは1999年、埼玉県生まれ。京都芸術大学美術工芸学科写真・映像コース在籍。

 ダイナミズムあふれる映像と破壊的なイメージの物質を組み合わせたインスタレーション。

向珮瑜

向珮瑜

 向珮瑜さんは1996年、中国・重慶生まれ。京都芸術大学大学院修士課程美術工芸領域映像メディア分野在籍。

 LGBTQを巡り、お祭り化したイベントや、 企業のマーケティング戦略によって変質した「レインボー・キャピタリズム(ピンク・キャピタリズム)」が、当事者を見えにくくしていることをテーマに据えたインスタレーション。

TALK EVENT

「現代写真アート言論:NEO TOKYO ZINEの戦略について

講師 / 後藤 繁雄
日時 / 2021.9.26(日) 16:00~18:00
定員 / 30名
入場料 / ¥1,000
会場 / masayoshi suzuki gallery
申し込み/ msg@kcf.biglobe.ne.jp

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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