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岐阜県美術館がリニューアルオープン

 2018年11月から改修工事のため休館していた岐阜県美術館が2019年11月3日、リニューアルオープンした。12月22日までは無料開放。
 企画展は、所蔵品を紐解く「ETERNAL IDOL」(12月20日まで)、休館中に館外で取り組んだ4つのプロジェクトを美術館で再構成した「セカンド・フラッシュ」(来年1月5日まで)、イメージを喚起する美術教育の重要性と可能性を掘り下げた「令和改元記念事業 イメージする力、生きる力—ある日の『美術と教育』の出来事」(同)の3つ。いずれも興味深く、じっくり鑑賞することができるものだった。学芸員が真摯に美術館のあり方に向き合い、館の予算や条件を踏まえた上で、アイデアを出し合って組み立てた、価値ある展示だと思った。
 セカンド・フラッシュでは、休館中に行った館外での4つのアートプロジェクトやアーティスト・イン・レジデンスを紹介した。筆者は、それらの現場での活動に参加できなかったが、今回の美術館の展示を見ただけで、アーティストの皆さんの熱心な取り組み、それに応えた関係者や、周囲の人たち、訪れた観客の温かいサポートや反応が伝わってきた。経緯や、なぜその場所でプロジェクトを行ったかなどが解説され、地道な活動を県民をはじめとする鑑賞者に丁寧に説明する姿勢が一貫している。

Nadegata Instant Party(ナデガタインスタントパーティ)は2018年秋に、養老公園の荒川修作+マドリン・ギンズによる養老天命反転地に隣接する調整池の窪地で、養老天命反転地を引用した遊歩道型作品「パーキングプロムナード/Parking Promenade」を展開した。仮設の遊歩道を巡りながら、各所に配置された18の指示書に従い、身体と思考の体操のような行為を体験するものだったようだ。指示書の導入部は、インタビューに答える荒川修作の言葉で構成。荒川へのオマージュ的な作品にした。これらの指示書や、会場の雰囲気を伝える写真、動画、オブジェが豊富で、現地で展開された展示の雰囲気をうまく美術館という会場に移設していた。

 岐阜県立岐阜盲学校で滞在制作をした平野真美さんの取り組みも素晴らしかった。具体的なプロジェクトが始まる前から、盲学校に通い、視覚障害や盲学校のことを学び、子供たちと交わる中で、見えることと見えないこと、見ているのに見えてなかったこと、見えないのに見えていることとクリエーションの関係について深く思考を巡らし、視覚言語を優位に制作してきた自身の来し方そのものを問い直す。そうして、盲学校の生徒と共同制作のようにして、架空の生き物である「蘇生するユニコーン」がつくられていく過程がスリリングで感動的だ。頭蓋骨はピンクと青で、葉っぱの羽がついている。桜の模様のツノが生え、海を渡れる尻尾もある。会場に引用された、一角獣(ユニコーン)についてのリルケの詩(「オルフォイスへのソネット」から)が効いている。愛すること、想像すること、可能性を信じることによって生み出された「一角獣」が、平野さんと子供たちが共同作業によって作品を創造させたというプロセスに重ね合わされている。

 水や砂、石灰などの自然素材によるフレスコ技法を用いて、「北方町生涯学習センターきらり」で制作した松本和子さんの作品が大変美しく、見惚れてしまった。壁画を展示室の壁面に飾り、そこからストラッポ技法で剥ぎ取ったイメージを天井から垂らすように手前に展示し、淡い光のレイヤーが空間を豊かなものにするようだった。「きらり」では、伊吹山の山並みから発想された建築のフォルムや、建築素材、差し込む陽光など、場の環境に呼応するような制作を試みた。伊吹山に近い大垣で取れた消石灰と砂を使った漆喰をベースにしたという。建築と風景、自然環境、素材、人々との交流、さらには生まれたばかりの赤ちゃんの生命の息吹を感じながら描いたという作品は、穏やかで優しく、変化に富んだ大気と光に包まれるようであった。

「宮田篤+笹萌恵」のユニットは、2019年8月に岐阜県図書館で滞在制作。そこで出くわした人たちとのやりとりに基づくメッセージや、冒険、日記のようなものを折りたたんで作品を展開させた。今回は、「ペンびぶんフレンドクラブセンターぎふ」として、リレー形式で、人に委ねながら、間に言葉を挟んで予想外の話を展開させる体験型の作品に取り組んだ。

もう一つ、注目すべき展示は、「イメージする力、生きる力—ある日の『美術と教育』の出来事」。小中学校や高校で図工や美術の授業が減っていく中で、想像すること、イメージすることの大切さを説いた展示である。特段、難しいことを主張しているわけではなく、子供たちの作品とともに、イメージする力を培う県内や全国の学校の授業の取り組みを紹介し、何気ない日常のことからイメージを膨らませる体験型の場も用意した。錯視効果を使った絵で学校内に異空間を作る北海道教育大付属釧路中学校や、実物大の動物の立体を展示し、見慣れた学校の空間を面白くする弘前大教育学部付属中学校など、多彩な取り組みが興味深い。一方で、壁に掲げられた「学習指導要領の変遷と図工・美術の授業時間数の推移」と題された表には考えさせられた。例えば、筆者が小中学校を過ごした昭和40、50年代の小学校2年から中学校2年までの図工・美術の授業時数70が現在では、小学校高学年で50、中1で45、中2で35と激減している。イメージする力を失えば、例えば、他者への想像力が弱められ、分断、敵対が助長され、弱き者、格差の中に苦しむ人へのイマジネーションも働かない。情報へのリテラシーが育たず、断片的な情報でヘイトが起こるかもしれない。儲からない文化や芸術を削っていく今の風潮と合わせ、憂慮する事態がここでも見て取れる。

 「ETERNAL IDOL」では、ギュスターヴ・モローやオディロン・ルドン、山本芳翠、熊谷守一、藤田嗣治、靉光、青木繁などの作品が展示され、見応えがあった。現代作家では、大巻伸嗣、傍島幹司らの作品が目立っていた。

 リニューアル後は、ホール中央にコンシェルジュ機能をもつ「ナンヤローネステーション」を新設。展示室の出入り口の増設、自動扉化、照明のLED化など展示環境の整備を図るなどした。キッズコーナー、授乳室を設け、多目的ホールには、憩いの場としてのカフェを備えた。
 

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