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としのこえ、とちのうた 会場:旧豊田東高校

  • 2019年9月21日
  • 2019年10月7日
  • 美術

 愛知・豊田市美術館の北隣の旧豊田東高校の弓道場周辺で、2019年9月13日〜10月14日、現代美術のグループ展「としのこえ、とちのうた」が開かれている。
 敷地には、2023年度末、建築家・坂茂さんの設計による豊田市博物館が開館する予定だが、現在は、廃墟のような状態になっている。1924(大正13)年に県内公立高校で唯一の高等女学校として開校。59年に豊田東高校の名称となって、2007年の移転後は、別の場所で男女共学になった。旧豊田東高校では、プールがあいちトリエンナーレ2019の会場となり、高嶺格さんの作品が展示されている。
 展覧会は、2017年から、アーティスト・ユニット《Nadegata Instant Party》がディレクターを務める、とよた市民アートプロジェクトによる参加型アートプロジェクト「Recasting Club」の一環。これまでも、豊田市内で眠っていたサイトに新しい役割を与える取り組みを展開してきた。今回、展示したアーティストは11人。作品とともに、出品アーティストにインタビューをし、作家と豊田との関係、その人の来歴についての言葉も紹介しているのが特徴だ。キュレーションは、《Nadegata Instant Party》の中崎透である。
 この展覧会のユニークさは、由緒ある県立の女子校でありながら、10年以上放置された場所を会場として再生した点である。弓道場から更衣室、トイレ、洗面所、風呂、ロッカーなど、廃墟化した空間を作品を展示できる環境に戻しつつ、荒廃した雰囲気も残している。
 中でも、ひときわ注目したのが、弓道場に展示された音響アーティスト、荒木優光の作品である。この荒木の映像は体育館やシャワー室など校内の各所に展示され、映像の登場人物が長く響かせる声が学校全体にエコーを繰り返しているようで、学校へのオマージュに聞こえる。弓道場に展示してある映像では、豊田スタジアムで声を響かせている。映像モニターが設置してあるのは弓を射る射場で、的場がある方向に向かって弓が射られるように矩形の大きな窓が開いている。窓の外は、草木が生い茂り荒れ放題の状態で、校舎閉鎖後の年月の経過を感じさせる。この作品の素晴らしさは、射場の内側の壁が暗いため、矩形の窓で切り取られた荒れ果てた屋外が映像のように感じられ、それが同じ矩形のモニター画面とアナロジーの関係をつくっていることだ。

荒木優光

 女子トイレにおびただしい数の作品を展開したのが、超ベテラン・アーティストの河西進さん。静岡県出身で、愛知県在住。20歳の頃から絵を描き始めたというが、恥ずかしながら存じ上げなかった。時間に関する概念的な言葉を密集させてかいていったドローイングと、韓国の切手が貼られた、切手を模した平面作品をトイレの個室の扉や、中の壁、床に展示していて、インパクトがある。タイトルに「韓国で贈られた私への大切な手紙と時間」とある。展示方法や作品の背景を含め、興味があるのだが、情報が乏しい。

河西進

 山岸大祐さんは土素材から成り立ちうる限界を追究しながらデザインとバイオモルフィックな存在感、オブジェ性を融合させている。くすんだお風呂の壁のタイルと奇妙な呼応をしていているのも興味深い。更衣室の棚に数多くの作品を展開させた梶千春さんは紙や土、陶で形態の面白さの可能性を広げつつ、かなり以前に見た作品と比べ、形態と色彩のバリエーションが多様になっていた。

 あまのしんたろうさんは、愛知環状鉄道沿いの珍百景のような風景をクスッと笑わせるタイトルとともに展示。複雑なルーツと環境の中で強く生きる保見団地の日系ブラジル人の家族や、業を背負って流れ着くようにやってきた歓楽温泉街の石和温泉郷(山梨県)の場末で働く人たちなど、異郷で生きる人たちを撮影した千賀英俊さんのモノクローム作品は、学校の展示空間で強い存在感を放っていた。安藤卓児さんの絵画は、エネルギッシュな力とユーモアが充溢している。そのほか、実家が伝統園芸の万年青を扱う稼業だという水野ななさんの写真、看板製作職人の田代智裕さんのライトボックス、デザイナーのつちやみささんの洗面所でのイスタレーションなど、通常のアーティストの範疇を超えた人の力作がそこにしっかり居場所を見つけたかのように展示されていたのにも引き寄せられた。

会場の所々にキュレーションをした中崎透さんのライトボックスの作品が妖しく光っていた。会場の各アーティストの作品近くには、空色の文字で出展者の豊田という土地との接点についての言葉が記されている。トヨタの工場や学校での思い出など豊田市に関わる歴史と記憶、変貌著しい新しい風景と作品が響き合う。

 

としのこえ、とちのうた
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