湯浅未浦展 L gallery(名古屋)で6月27日まで

L gallery(名古屋) 2021年6月12〜27日

湯浅未浦展

 湯浅さんは愛知県豊明市出身。東京藝術大学で深井隆さんの指導を受け、2004年に大学院彫刻専攻を修了。豊明市を拠点に制作を続けている。

 樟(クスノキ)を彫る木彫作家であり、本格派といっていい存在である。作品については、2019年のL galleryの個展レビュー「湯浅未浦展 “時・刻む・想”」も参照してほしい。

 ほとんどの作品が樟による一木造である。

湯浅未浦

 人物における透かし彫りのように穿たれた身体、血管とも木の根とも思える線状の隆起、あるいは、肉がうねりながら絡まる器官のような形状、大作の波打つようなダイナミズムなどが、この作家の特長である。

 とりわけ、うねるような運動感覚、流動性と循環、とどまることのない生々流転のイメージは徹底している。

生まれて消える

 今回の主要作品の1つは、ギャラリーのコンクリート壁に水平に据え付けられた長さ2メートル超、重さ100キロ超の巨大な作品「生まれて消える」である。

湯浅未浦

 大きなうねるような動き、内と外が入れ替わるようなダイナミズム、小さな波動が同期するように覆い、シンプルでありながら同時に複雑極まりない動きをはらんだ異形として、まがまがしいほどの力を持っている。

 絶えることなく、生まれては変化し、消えてゆく形なきものの形。それは、生滅変化してうつりかわり、​同じ状態に留まることがないような流れの中にある。

 木彫の大作として破格の迫力をもちながら、生まれては消えてゆくイメージは、この世ならざる存在として強烈な触覚性をそなえ、エネルギーの生成と変化、滅びが連綿と続くような異様な動感を生んでいる。

予告なき贈りもの

湯浅未浦

 2019年の個展で出品された人体の作品は、台座に立った全身像だったが、今回の「予告なき贈りもの」では、ひざまずいて祈るように天を見上げている。

 恩寵にも似た生命的なエネルギーを全身にたたえながら、時間性、循環、流動感が全体を貫く。

 上昇する生の気韻、下降し朽ちるような滅びの感覚が柔らかく拮抗するようなイメージである。

湯浅未浦

 湯浅さんのつくる身体は、体のプロポーションを表現しながら、うつりゆく姿の実体と空虚のはざまで「人間」を問い直している。

 うつろう生命は、誕生と死、成長と衰弱、生成と崩壊、過去と未来を宿している。

 それは、確かなる実体のないものであって、変化し続け、自らを同じ姿にとどめない刹那。生のエネルギーの中に、植物が朽ちゆくような、物体が溶解するような動きがはらまれている。

湯浅未浦

 生であるとともに死であるその身体は、上に向かうと同時に下に降り、体の一部はえぐられ、循環するように内と外がうねって、変転し続ける。

“ここからのはじまり”

 こうした見えないもの、形なくうつろうもの、生々流転するものを造形化する湯浅さんは、おそらく、イメージを完全に決めてから彫り進めるのではなく、自分と楠という素材、空間をひとつながりとして把握しながら、形なきうつろい、動きのイメージを触覚的につかむようにしているはずである。

湯浅未浦

 変化し続ける異形の姿、刹那のイメージを、湯浅さんはかすかな感覚をも逃さず、「嘗める」ように造形化する。

 私たち鑑賞者は、湯浅さんの作品を抽象化されたものと見がちだが、形なきものに形を与えるプロセスは、湯浅さんにとって、概念ではなく、「嘗める」ことによって、具象的なものをつかむ作業である。

湯浅未浦

 私が思うに、この常にうつろいゆく動き、決してとどまることのないイメージに湯浅さんが形を与えるとき、それは、アタマの中にある何らかのもやもやとした具象的なものを抽象化して彫るのではなく、手を動かすことによって生起し続ける具象的なものを嘗めるように彫りだす営みなのである。

湯浅未浦
湯浅未浦

 今回は、色鉛筆で着色した、かわいい壁掛けの小品や、ドローイング的な作品など、新たな試みにも挑んでいる。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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>伝えること、文化芸術とメディアについて

伝えること、文化芸術とメディアについて

1980年代から、名古屋、東京、関西で文化芸術を見てきた。新聞文化面、専門雑誌、「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、自ら新聞文化欄を編集、美術、映画、演劇などの記事を書いてきた。2000年代に入ると芸術批評誌を立ち上げ、2019年にはWEBメディアを始めた。文化芸術とメディアの関係、その歴史的展開、メディアリテラシー、課題と可能性、レビューや伝わる文章の書き方、WEBメディアの意義、構築方法について、若い世代に伝えたいと考えています。

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