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山室淳平「得体の知れない世界」展 ガレリアフィナルテ(名古屋)で2024年2月27日-3月23日に開催

ガレリア フィナルテ(名古屋) 2024年2月27日〜3月23日

山室淳平

 山室淳平さんは1980年、福岡県北九州市生まれ。2004年、金沢美術工芸大学美術学部油画専攻卒業、2006年、同大学院美術工芸研究科絵画専攻修了。

 現在は、福岡県を拠点に制作している。Idemitsu Art Award(旧シェル美術賞)など、公募展で入選を重ね、名古屋のガレリア フィナルテをはじめ、福岡、大阪などで個展をしている。

 山室さんのWEBサイトで、過去の作品を見ると、大学、大学院時代となる初期の2000年代前半から、カラフルな色彩を使ったポップな感覚の作品だったことが分かる。

山室淳平

 作品は、現在まで変転を遂げているが、初期の頃は、現在より背景が広く取ってあり、人物など、地に対する図がはっきりしていて、ナラティブな要素、シュルレアリスム風な雰囲気も漂わせている。

 2010年頃から、現実の自然の風景に、非現実的なカラフルな不定形を組み合わせた独特の「風景」「人物」を描くようになった。

 カラフルな不定形は、形のいびつなバルーンアート、あるいは粘土、グミのようで、それらが写実的な山並みの風景や、人物などに合成されている。人物では、顔や胴体部分に、そうした色鮮やかな不定形を組み合わせたイメージがある。

山室淳平

得体の知れない世界

 このように、過去の山室さんの作品は、再現的、現実的な風景や人物を、非現実な色彩の塊の集積に置き換えた、ポップでシュールな作風だった。

 大きな変が見られるのは2018年頃からである。一部に「肖像画」のシリーズ(2020年に集中的に描かれている)もあるが、主に「風景」をモチーフに、稠密な世界が画面に広がり、さまざまないびつな形が密集するように描かれる。

 ただ、画面全体をそうした形が覆うわけではなく、周囲にわずかな余白を残しているのが特徴である。

山室淳平

 色彩豊かな形がひしめくように重なり合いながら、一つの大きな塊のような「風景」が構成される。また、その一方で、同じように、さまざまな形が、にぎにぎしく入り組むように積み上げられたモノクロームの「風景」もある。

 いずれにしても「風景」としての塊である。つまり、「風景」が1つの完結した造形物になっている。その意味では、地に対する図として、「風景」が「人物」と等価なものとして考えられているのかもしれない。

 タイトルは「山景図」「樹木図」「挿雲図」「山水図」など。色彩がひしめく作品と、モノクロームの作品と、そのいずれも、パワフルな形態が稠密な塊をつくっている。さまざまな形が張り付くように重なった力強い画面である。

山室淳平

 それぞれは、山、雲、川、滝、樹木、階段、畑、岩などをデフォルメしたものだと推察される。それらが絡みながら塊となった異形の世界といえばいいだろうか。

 日本や中国の古い絵画も参考にしているようである。風景を視覚的なありのままの静的な自然ではなく、背後にある見えない豊潤さ、エネルギー、あるいは脅威、複雑な社会のありようをも含めた1つの自然のイメージとして捉えているのかもしれない。

 それは、日々、この世界に向き合う作者の感覚が積み上げられたような姿でもあり、歪み、つながれ、重ねられた、複雑なエネルギーそのものである。

山室淳平

 さまざまな色彩、形が寄せ集められ、私たちの考えている風景の概念に収まりきらない、野性的で、自然の見えない組成が浮き立つように描かれた風景である。

 ポップで、シュールで、エネルギッシュ。山室さんの描く「風景」は、単なる不明瞭で、つかみどころのないカオスではない。むしろ、色彩も線も形も明快でインパクトがあり、そして多様でダイナミズムがある。

 それは、人間の内面の奥底がはかりしれないのと同様、風景が風景として捉えられるものの奥に潜んだものと作家との共振による形と色彩の現れである。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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