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山田純嗣個展 Microtonal アイン・ソフ・ディスパッチ(名古屋)で2026年4月25日-5月16日に開催

AIN SOPH DISPATCH(名古屋) 2026年4月25日〜5月16日

山田純嗣

 山田純嗣さんは1974年、長野県生まれ。1999年、愛知県立芸術大学大学院美術研究科油画専攻修了。不忍画廊(東京)、AIN SOPH DISPTCHなどで個展を開いている。2021年の個展、2024年のグループ展(3人展)の各レビューも参照。

 山田さんは、アンリ・ルソー「夢」(1910年)、ボッティチェリの「PRIMAVERA(プリマヴェーラ)」(1482年頃)など、既存の「名画」のイメージを使った作品がよく知られている。

 名画のモチーフの空間を石膏やジェッソ、針金、樹脂粘土や木粉粘土などで制作して、写真撮影。版をおこして写し取ったレイヤーに銅版による線描を重ねるというもので、自ら「インタリオ・オン・フォト」と名付けている。

 新たな展開を見せてくれたのは、2024年の3人展である。山田さんは、これに先立つ2022年-23年の1年間、文化庁新進芸術家海外研修でフィンランド・ユヴァスキュラに滞在。3人展では、フィンランドの森の風景をモチーフとしたドライポイント作品を発表した。

 ドライポイントは、現地で撮影した写真がもとになっているが、驚異的なものだった。

 なぜなら、写真製版やフォトエッチングなどでなく、 横に置いた写真を見ながら、1本のニードルを使い、手動で銅板に印刻して、写真そっくりの版を作るという作業で制作しているからである。

 拡大鏡を装着して緻密に彫るという作業は、1日3センチ四方進むのがやっと。はがきサイズの作品でも1カ月を要する。3人展では、はがきサイズの作品ばかりだったが、今回の個展では、A1、A2のという大判サイズの作品も展示された。

2026年個展 Microtonal アイン・ソフ・ディスパッチ

 写真と見まがうばかりの繊細な世界。否。これは、新たな「写真技法=絵画」と言ってもいい存在感である。

 写真は、レンズを通して入った一瞬の光を捉えて、世界を切り取る。一方、山田さんは、ニードルへの筆圧を精妙に調整しながら、草むらや樹皮の表情、空間、空気感まで表している。

 そもそも、写真では、人間の肉眼では見ることができない現実世界がカメラによって記録されている。山田さんは、その現代の高度な光学装置であるデジカメが捉えた世界を、ドライポイントという極めてシンプルで原初的な技法で「再現」している。

 しかし、これは写真の「再現」といっても、決定的ともいえる、おびただしい差異を内包させている。つまり「写真」のようでありながら、同時に「写真」から離れている。写真の客観性と絵画の主観性の混交によって、イメージを問い直すゲルハルト・リヒターのフォト・ペインティングにも一脈通じる思考が感じ取れる。

 世界のイメージの客観性をベースに、そこに物質的なマチエールを加えることで、いかに自らにおける絵画性を見出していくかが、ここではテーマになっている。

 その意味では、リンゴを配置した写真に銅版画を重ねた初期の作品も、その後のインタリオ・オン・フォトのシリーズも、新たなこれらの作品群も、問題意識は一貫していると言える。

 既存の世界のイメージに対して、ひたすらニードルによる線を銅板に刻み、空間を稠密に覆うこと。その時間による線の集積によって、写真のようであって、決して従来のイメージではない、揺らぎのような膨大なノイズが深く浸潤し、これらの作品は成り立っている。

 いわば、現実の圧倒的な風景が写真に回収され得ないゆえに真実の「世界」であるのと同様、写真のように見えて、作家による制作によってしかなし得ない「絵画性」そのものである。

 この新たなシリーズを、作家は「Microtonal Drypoint(マイクロトーナル・ドライポイント)」と名付けている。このマイクロトーナルは、通常は知覚されないほどの微細な音階の差異のことである。

 フィンランドの森のグラデーションがどれだけ高度なデジタル装置によっても回収できないように、山田さんの制作によってしか立ち上がらないもの、それこそが絵画性であり、そのとき、作品には、ここにしかない神秘性、霊性が立ち現れるのである。

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