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タル・ベーラ 伝説前夜 名古屋シネマテークで3月5~25日

タル・ベーラ 伝説前夜

  『ニーチェの馬』 (2011年)、『サタンタンゴ』(1994年)などの作品で知られる唯一無二の映画作家、タル・ベーラ監督の1970-80年代の作品を紹介する特集上映「タル・ベーラ 伝説前夜」が2022年3月5~25日、名古屋・今池の名古屋シネマテークで開催される。

 『ニーチェの馬』を最後に、56歳で映画監督から引退した後も、ジム・ジャームッシュ、アピチャッポン・ウィーラセタクンなどの映画監督に多大な影響を与えた 。

 今回は、タル・ベーラ監督が、いかにして自らのスタイルを築き上げたのかにフォーカスしている。

日本初公開の3作品を上映

 3作品は、『ダムネーション/天罰』(1988年)、『ファミリー・ネスト』(1977年)、『アウトサイダー』(1981年)。いずれも4Kデジタル・レストア版で一挙上映する。

 ジョン・カサヴェテスやケン・ローチを想起させると評された初期の作品から、タル・ベーラ スタイルを確立させた記念碑的作品『ダムネーション/天罰』まで、根底で共通しているのは、不条理、矛盾に満ちた世界でうごめく人間への眼差しである。

 人々のリアルな姿を映しだすために繰り返し登場する酒場、酒場での音楽、歌とダンス。

 タル・ベーラのフィルモグラフィーに一貫する共通項の萌芽を既に今回の作品群に見て取ることができる。

『ダムネーション/天罰』

タル・ベーラ  ダムネーション/天罰

 クラスナホルカイ・ラースローが初めて脚本を手掛け、音楽のヴィーグ・ミハーイもそろったことで、タル・ベーラ スタイルを確立させた記念碑的作品である。

 ラースローと出会ったタル・ベーラは、すぐに『サタンタンゴ』に取りかかろうとしたが、時間も予算もかかるため、先に本作に着手した。

 不倫、騙し、裏切り。荒廃した鉱山の町で罪に絡みとられて破滅していく人々の姿を、『サタンタンゴ』も手掛けた撮影監督、メドヴィジ・ガーボルが「映画史上最も素晴らしいモノクロームショット」(Village Voice)で捉えている。

 1988年/ハンガリー/121分/モノクロ/1:1.66/原題:Kárhozat/英題:Damnation

『ファミリー・ネスト』

タル・ベーラファミリー・ネスト

 住宅難のブダペストで夫の両親と同居する若い夫婦の姿を、16ミリカメラを用い、ドキュメンタリータッチで5日間撮影した22歳の鮮烈なデビュー作。

 不法占拠している労働者を追い立てる警察官の暴力を8ミリカメラで撮影して逮捕されたタル・ベーラ自身の経験を基にしている。

 「映画で世界を変えたいと思っていた」とタル・ベーラ自身が語る通り、ハンガリー社会の苛烈さを直視する作品となっている。

 人々を見つめる眼差しの確かさは、デビュー作である本作から一貫している。

 1977年/ハンガリー/105分/モノクロ/1:1.37/原題:Családi tűzfészek/英題:Family Nest

『アウトサイダー』

 社会に適合できないミュージシャンの姿を描いた監督第2作にして、珍しいカラー作品。

 この作品がきっかけで、タル・ベーラは国家当局より目をつけられることになる。

 本作以降、全ての作品で編集を担当するフラニツキー・アーグネシュが初めて参加。

 酒場での音楽とダンスなど、タル・ベーラ作品のトレードマークといえるような描写が早くも見てとれる。日本でも80年代にヒットしたニュートン・ファミリーの「サンタ・マリア」が印象的に使われている。

 1981年/ハンガリー/128分/カラー/1:1.37/原題:Szabadgyalog/英題:The Outsider

日程

◎3月5日(土)~11日(金)

13:10ダムネーション/天罰
15:35ファミリー・ネスト

◎3月12日(土)~18日(金)

12日(土)13日(日)14日(月)15日(火)16日(水)17日(木)18日(金)
16:40ダムネーショ
19:15ファミアウトファミアウトファミアウトファミ

◎3月19日(土)~25日(金)

10:00アウトサイダー
12:30ダムネーション/天罰

監督・脚本:タル・ベーラ

 1955年、ハンガリー、ペーチ生まれ。哲学者志望であったタル・ベーラは16歳のとき、生活に貧窮したジプシーを描く8ミリの短編を撮り、反体制的であるとして大学の入試資格を失う。

 その後、不法占拠している労働者の家族を追い立てる警官を8ミリで撮影しようとして逮捕される。

 釈放後、デビュー作『ファミリー・ネスト』(77年)を発表。ハンガリー批評家賞新人監督賞、マンハイム国際映画祭グランプリを獲得した。

 その後、ブダペストの映画芸術アカデミーに入学。在籍中に『アウトサイダー』(81年)を制作。アカデミー卒業後、“Prefab People”(81年)を発表した。

 1979年から2年間、ブダペストの若い映画製作者のために設立されたベーラ・バラージュ・スタジオの実行委員長も務めた。

 「秋の暦」(84年)で音楽のヴィーグ・ミハーイと、『ダムネーション/天罰』(88年)で作家のクラスナホルカイ・ラースローと出会い、以降、全ての作品で共同作業を行う。

 1994年、約4年の歳月を費やして完成させた7時間18分に及ぶ大作『サタンタンゴ』を発表した。ベルリン国際映画祭フォーラム部門カリガリ賞を受賞。ヴィレッジ・ボイス紙が選ぶ1990年代映画ベストテンに選出されるなど、世界中を驚嘆させた。

 続く『ヴェルクマイスター・ハーモニー』(2000年)がベルリン国際映画祭でReader Jury of the “Berliner Zeitung”賞を受賞。ヴィレッジ・ボイス紙でデヴィッド・リンチ、ウォン・カーウァイに次いでベスト・ディレクターに選出される。

 2001年秋には、ニューヨーク近代美術館(MOMA)で大規模な特集上映が開催され、ジム・ジャームッシュ、ガス・ヴァン・サントなどを驚嘆させるとともに高い評価を受ける。

 多くの困難を乗り越えて完成させたジョルジュ・シムノン原作の『倫敦から来た男』(07年)が、カンヌ国際映画祭コンペティション部門でプレミア上映された。

 2011年、タル・ベーラ自身が“最後の映画”と明言した『ニーチェの馬』を発表。ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)と国際批評家連盟賞をダブル受賞し、世界中で熱狂的に受け入れられた。

 1990年以降はベルリン・フィルム・アカデミーの客員教授を務め、2012年にサラエボに映画学校film.factoryを創設

 2016年に閉鎖した後も、現在に至るまで世界各地でワークショップ、マスタークラスを開催。後輩の育成に熱心に取り組んでいる。

 フー・ボー(『象は静かに座っている』)や小田香(『セノーテ』)などの映画監督がタル・ベーラに師事している。

 インスタレーションや展示も積極的に手掛け、2017年にアムステルダムのEye Filmmuseumで“Till the End of the World”、2019年にはウィーンで“Missing People”を開催している。

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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