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杉本充個展 CHAOS-COSMOS アインソフディスパッチ(名古屋)で2023年11月4-25日に開催

AIN SOPH DISPATCH(名古屋) 2023年月11日4〜25日

杉本充

 杉本充さんは1948年、静岡県伊東市生まれ。愛知教育大学と、東京芸術大学大学院美術研究科壁画専攻で絵画を探究した。

 作品のベースにテンペラ技法がある。絵画の歴史と対話をするような来し方と独自の取り組みは2021年の個展レビューでも詳しく紹介した。

 作品は、はるかな深宇宙の空間を捉えた天体写真のようにも見えるし、逆に、宇宙から見下ろした地球の写真のようでもある。

 闇の中に光の筋がランダムに走っている空間、闇の奥に光の揺らぎが層をなした空間ーー。人智を超えた、肉眼では見ることができない光のうごめきが蓄積し、可視化されているような世界である。ただ、作者自身は、宇宙のイメージを作りたいわけではない。

杉本充

 そこに、経線、緯線のような傾いたグリッドのような線が加わる。これらの線は、引っ掻いて出している。とてもシャープ、人為的で、深く広がりのある背後の空間と対比的である。

 この吸い込まれるような宇宙のような空間とグリッドの線が杉本さんの作品を特徴づけている。グリッドの線は、空間を分割するものではなく、網目のように平面的なレイヤーとして、空間に重ねられている。

CHAOS-COSMOS 2023年

 杉本さんの作品では、複雑な色彩と絵肌の変化による深遠な空間が際立っている。板材の上に白亜地で地塗りをし、カゼインテンペラ技法を主体に、自分で作る絵具を塗っては削るという作業を重ね、複雑な色合いとマチエールを出している。

杉本充

 絵具の層を重ね、乾燥後に削るという作業の反復の中で、生成される絵画空間である。

 一方、引っ掻かれた繊細な格子は、空間に人為的な幾何学性、反自然性、自律性を付与する。筆者には、背後の空間の深遠さを測る目盛りのように思える。

 作品タイトルは全て、「space」で、あとはナンバリングがしてある。杉本さんは、spaceを宇宙というよりは空間の意味合いで使っている。

 SPACE(空間)と、個展のタイトルであるCHAOS(混沌)とCOSMOS(秩序ある調和のとれた宇宙)が杉本さんの作品の主題となっている。つまり、せめぎ合う混沌と秩序、調和による絵画空間である。

杉本充

 ここには、空間に人間の思考を超えて立ち現れ、消えゆくものに、1人の人間がどう向き合うか、つまりは、混沌に直面する作家のいのちの関わりがある。

 キリスト教の世界では、無秩序の暗闇、虚無、無意味に対して、神によって天地が創造されたとする。だが、ここでは、作家自身がどう関わるか、である。

 杉本さんが目指すのは、カオス的な現実に向き合いながら、そこに調和と秩序を求めてやまない人間として、何を成しうるか、どう捉えるか、どう生きるかである。

 それは、絵画を探究する中でたどり着いた技法、つまり、何層にも絵具を塗り重ね、削るという繰り返しによって、混沌の中に不意に現れる秩序、調和を見い出す営為と合致している。

杉本充

 一見、不規則、乱雑に見える現象、状態に秩序と調和を見る。それは概念を超えた世界である。闇の中に、見た目には分からない光、さまざまな色彩、質量、重力が、非常に遠いところまで重なり合った空間である。

 空間に秩序と調和を見い出すのは、作家自身であり、そして鑑賞者である。混沌なのか、秩序と調和なのかは、実は見た目には分からない、心が投影される世界である。

 バラバラの空間と見るか、葛藤を見るか、あるいは、秩序と調和の空間を見るか、安らぎを感じるか。混沌から秩序と調和を探究することに、杉本さんの絵画の真実がある。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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