PHOTO GALLERY FLOW NAGOYA(名古屋) 2024年10月5〜27日
余宮飛翔
余宮飛翔さんは1990年、東京都生まれ。東京造形大学卒業。2022年に「IMA next – OPEN CALL」グランプリ、2023年に「JAPAN PHOTO AWARD」Xiaopeng Yuan賞、「TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD」準グランプリを受賞。
写真作家であるが、いわば、写真を使った現代美術作品である。自ら撮影し、それを基に画像編集アプリケーション・フォトショップで加工、合成するというと、ありきたりに思えるかもしれないが、そんなことはない。
制作は、一見して、そうとは思えないほど手がこんでいる。特に、筆者が興味を持ったのは、作品が絵画を意識してつくられていることである。それは作品が全て額に入っていることからも分かる。
さらに言うと、自身の記憶などを淵源にしたイメージが関わっていること、そしてコンセプチュアルであることが特徴である。
「 MASK 」2024年
作品は、自身が撮影したさまざまな写真の合成から成り立っている。
元になっている写真は、作品のイメージと同じ物を撮影したケースもあるが、多くは全く別の物が被写体である。例えば、灰皿にある吸いかけのタバコも、元の写真は、全く違う物を撮影している。
それら元の写真から切り抜いた断片を半立体化し、パーツごとにスキャンする。それらをフォトショップで加工、合成することで、1つの「絵」が作られる。
作品は、ポップで、洒落た感じだが、どこかで見たような光景が多い。作家によると、幼少期の記憶、多くの場合、祖母の家の記憶が出どころのようだ。
さまざまな要素が入り込んだ作品は、パースのずれ、違和感、不穏さをも滲ませている。また、各部分を半立体化してスキャンしてある影響で、光と影や、裂け目、皺のような線が入って入て、触覚性があり、それが絵画の筆触のような印象を与える。
彼の作品は、「写真とは何か」とともに、「現実」とは何か、「記憶」とは何か、そして「イメージ」や「絵画」とは何かを突きつけてくる。
余宮さんの作品が平板でないのは、1枚の写真を加工したのではなく、多様な写真のパーツを、あたかも画家が筆で描くように加工・合成していくことにあるが、それは効率化を回避していることでもある。
例えば、お花畑のイメージの作品も、ある写真の断片から花を作って、それをコピペして増やすことはせず、花の1つ1つをそれぞれ別のパーツから作っている。
作品はそれぞれ小さなものだが、その中にさまざまな写真のパーツ、加工の手法、記憶が潜んでいて、そうした拡張、変容が、あたかも思いのこもった絵画のような力を作品に持たせるのだ。
ギャラリーの中央に、立体作品が展示してある。椅子に布がかけられ、その上の皿にリンゴが載っている。皿もリンゴも本物でなく、布で作られている。
この作品は、写真から加工・合成した「絵画」を基に、ぬいぐるみのように立体化させたものだ。
と言うことは、もとの現実空間のイメージから、さまざまな写真の断片の加工・合成によって生まれた「絵画」という二次元を、もう一度、三次元に回帰させていることがわかる。
チャレンジングであるとともに、現実と虚構、記憶、リアルと仮想、視覚性と触覚性、平面と立体、写真と絵画など、さまざまな論点をはらんだ、正統な作品であるのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)