“彗星考” 須貝旭展 L gallery(名古屋)で2022年11月26日-12月11日 

L gallery(名古屋) 2022年11月26日〜12月11日

須貝旭

 須貝旭さんは1990年、兵庫県生まれ。2020年に、愛知県立芸術大学大学院美術研究科博士後期課程を修了した。

 銀箔の腐食、上から重ねる乾性油、サイアノタイプ、尿素などの画材、技法の経年変化によって、イメージのレイヤーが絡み合いながら、時間とともに、うつろうような作品を制作している。

 2019年のギャラリーヴァルール(名古屋)の個展では、額縁をモチーフにした「frame」と、17世紀オランダ静物画の台所や食料庫に逆さに吊るされた鳥獣からイメージを借りた「still-life」のシリーズを展示した。

須貝旭

 言い換えると、絵と外の世界を分ける境界、絵を変化から守る境界、生と死の境界をテーマとし、そのうつろいから、現在と過去、未来という時間、瞬間と永遠性を意識させた。

 須貝さんの変化する絵画では、時間とともに、画面のうつろいによって、見えなかったイメージが現れる。そして混濁し、色褪せ、流転し、生成あるいは消滅する。

 銀箔の錆びた茶褐色、酸化した乾性油の黄変、サイアノタイプの青色の退色、尿素の白い結晶の変化‥‥。未来は予想できない。

須貝旭

 今回のモチーフは、彗星(ほうき星)である。須貝さんはもともと、天文への関心がある。人間は古来、時間を観測するために空を見上げてきた。

 天体の現象も、時間と人間の存在に深く関わっている。その謎めいた遠大な時空によって、夜空を見上げる者に自分へと矢印を向けさせる。

 瞬間と途方もない永遠の時間。須貝さんの変化し続ける絵画は、時間と自分自身の今を問いかける。

彗星考

須貝旭

 L galleryでは初の個展である。

 彗星と人間の歴史をテーマにした連作「de cometis」では、1607年から1882年までのイメージを扱った10点が展示された。また、これとは別にハレー彗星の軌道を主題にした「orbit and path」シリーズもある。

 多くの天体は、地球の自転による毎日の日周運動、公転による1年間の年周運動など、分かりやすい規則性によって動いている。

須貝旭

 一方、彗星は、恒星や惑星と比べて小さく、細長い楕円や、放物線、双曲線の軌道で、夜空に長い尾を引くことから、古来、異質なものとして、不吉の前兆のように見られてきた。
 

 須貝さんの作品では、レイヤーが重層構造になっている。銀箔、透明なアクリルメディウムや乾性油、サイアノタイプ(青写真)の技法などを重ね、イメージが二重になっている。

 彗星と人間の歴史をテーマにした「de cometis」では、イメージの1つを、彗星についての昔の図像から引用している。ヨーロッパや日本で版画や絵画に描かれた彗星についての図像である。

須貝旭

  もう1つのイメージは、江戸時代に木版で刷られた当時の日本の暦である。

 ハレー彗星の作品「orbit and path」では、古い天体図の上に未来のハレー彗星の軌道を重ねている。

 天体図は、英国のグリニッジ初代天文台長フラムスチード(1646~1719年)によるフラムスチード天球図譜や、日本のキトラ古墳石室(7世紀末-8世紀)内部の天井に描かれた天文図、中国の淳祐天文図(1247年)である。

須貝旭

 ここでは過去の天体図と未来のハレー彗星の軌道が重なるように浮かび上がってくる。

 須貝さんのうつろう絵画は、単に物質的な変化にとどまらず、イメージの主題性と密接に関わっている。絵画の変容する時間が、変化し続ける深遠な宇宙とクロスしている。

 画面の変化と天体のイメージによって、循環する時間と過ぎ去った過去、未来から訪れる時間、「今」が交差し、見る者の意識を、変化する宇宙空間の中で相互に関係性をもちながら流動する自身の存在の時間へと沈潜させる。

 つまり、私たち人間も、星のかけらである。 

須貝旭

 一部にアクリル板にイメージを転写した作品も展示している。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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