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ストリーミング・ヘリテージ 2022|台地と海のあいだ 2022年11月3日開幕 20日まで

  • 2022年9月5日
  • 2024年1月3日
  • 美術

久保寛子《ハイヌウェレの彫像》

「ストリーミング・ヘリテージ 2022|台地と海のあいだ」

 「なごや日本博事業実行委員会」は、名古屋城と熱田台地を結ぶ堀川を舞台に、streaming heritage 2022「ストリーミング・ヘリテージ2022|台地と海のあいだ」を2022年11月3〜 20日(期間中の金土日曜日と祝日)に開催している。

 2021年の春、秋に開催したstreaming heritage 2021に続く現代アートイベントの3回目。アートと地域文化を組み合わせ、名古屋の魅力向上を図る。今回が最終回となる。

 名古屋台地と熱田台地のへりに連なる名古屋城、納屋橋、宮の渡し、名古屋港など、堀川の流れ [stream]が結ぶ名古屋の歴史・文化遺産 [heritage] に着目した展覧会である。アートの力によって歴史・文化に光を当て、その価値を現代の視点で再生する。

 今回の会場は、名古屋城内、四間道、納屋橋、松重閘門。

参加アーティスト

・1980 YEN
・エレクトロニコス・ファンタスティコス!
・久保寛子
近藤正勝
・斉田一樹+むぎばやしひろこ+三原聡一郎
・人長果月
藤本由紀夫
・phono/graph
・三原聡一郎

会場ルポ

名古屋城(御深井丸・西之丸)

観覧時間:9:00-16:30 
※観覧には名古屋城⼊場料が必要

久保寛子 会場:御深井丸
エレクトロニコス・ファンタスティコス! 11月19日(土)18:40-20:00 会場:西之丸

久保寛子《ハイヌウェレの彫像》

久保寛子《ハイヌウェレの彫像》

 久保寛子《ハイヌウェレの彫像》は、インドネシアの神話に登場する女神をモチーフとする巨大な土の像である。不安、閉塞感が覆う現代が反映。圧倒的な存在感である。

四間道(伊藤家住宅・エスプラナードギャラリー)

観覧時間:11:00-19:00 
※エスプラナードギャラリーは11/11〜13の3⽇間のみ展⽰

藤本由紀夫 会場:伊藤家住宅
phono/graph 会場:伊藤家住宅
近藤正勝 会場:伊藤家住宅
斉田一樹+むぎばやしひろこ+三原聡一郎 会場:エスプラナードギャラリー

 伊藤家住宅では、緩やかに仕切られた日本家屋の各所に、藤本由紀夫さんの作品を配置。それぞれの作品を視覚的に見ながら、空間を超えて聞こえてくる音を感じて会場を巡る。

 エコー、ナルキッソスのギリシャ神話を主題に据え、水面に映した展示、周囲を異空間のように映す水のレンズなど多種多様な趣向である。

 聴覚と視覚を相互に行き来させながら、同時に日本家屋における部分と全体の関係、空間のレイヤーを意識させる展示になっている。

藤本由紀夫《LENS(WATER)》

藤本由紀夫《LENS(WATER)》

藤本由紀夫《ECHO(WATER)》

藤本由紀夫《ECHO(WATER)》

 その藤本由紀夫さんと、softpad(ソフトパッド)、ニコール・シュミットさん、八木良太さん、城一裕さん、intext(インテクスト)、鈴木大義さん、岸本倫子さん、林葵衣さん、貞雄大さんで構成されるのが、phono/graph。

 音の分解を薄い紙の重なりによって視覚化した《note/tone》 、大型本へ映像を投影した《Silence》など、 文字とイメージ、音声がメディアの融合、次元の変換によって働きかけてくる展示である。

phono/graph《note/tone》

phono/graph《note/tone》

phono/graph《Silence》

phono/graph《Silence》

近藤正勝《山と渓間(ピンクストライプ)》2022

近藤正勝《山と渓間(ピンクストライプ)》2022

 近藤正勝さんにとって、絵画は、自然界のエレメントを分析的に解釈することを通じて、表象に変換するプロセスである。現実のエレメントがきっかけとなって、近藤さんが自分の中の断片を拾い集めることで生成されるもう1つの世界と言ってもいい。

 近藤さんの描く風景は、無限の生命体、人間の文化、歴史や物語の集積であり、そうした自然と人間、イメージをめぐる深遠な関係から生まれている。

近藤正勝《ハガキコレクション(スタディーワーク)》1989~1995

近藤正勝《ハガキコレクション(スタディーワーク)》1989~1995

 今回の出品作 《山と渓間(ピンクストライプ)》にも、数々のディテールのレイヤーによって織られた絵画空間がある。岐阜県の山々、名古屋という都市に流れる水の流れ。そこに暮らす人々、経済、歴史……。

 レイヤーの集積としてのランドスケープのあり方を知ってもらおうと、今回は、近藤さんが1989-1995年に取り組んでいたスタディーワークを展示していて、興味深い。

 当時、近藤さんは、欧州、米国、アフリカ、日本など各地の自然のディテールを拾い、はがきに貼って自宅宛てに郵送していた。

斉田一樹+むぎばやしひろこ+三原聡一郎「ISEA2010 RUHR」(Dortmunt kunstverein、2010)での展示風景

斉田一樹+むぎばやしひろこ+三原聡一郎
「ISEA2010 RUHR」(Dortmunt kunstverein、2010)での展示風景

納屋橋(納屋橋シャムズガーデン)

観覧時間:⽇没-20:00

人長果月 会場:納屋橋シャムズガーデン

人長果月《biosphere -Kurokawa》

 屋外に投影された人長果月さんの《biosphere -Kurokawa》は、 納屋橋からの水面の映像に伊勢湾の魚、熱田神宮の大楠などのイメージをオーバーラップさせている。

松重閘⾨(中川運河ギャラリー)

観覧時間:11:00-19:00

三原聡一郎 会場:中川運河ギャラリー

三原聡一郎ギャラリートーク
11月 3日(木・祝)16:00-
11月12日(土)15:00-
11月20日(日)15:00-
※申込不要

三原聡一郎《空気の研究》

 屋上に設置したセンサーで感知したリアルタイムの空気の動きに応じて、透明フィルムが宙を舞う作品である。

 自由に漂い、動いているように見える浮遊体が、制御された6台のファンによって完全に操作されていることを知る。 

熱⽥・宮の渡し(宮の渡し公園)

11/20のみパフォーマンスを開催(10:00-12:00)

1980YEN 会場:宮の渡し公園 (宮の浜市会場内)

パフォーマンス、トーク

・11月 6日(日)14:00-17:00 トーク
ストリーミング・ヘリテージ|リサーチプロジェクト『起点としての「アートポート」』 アートポート(1999-2003年)が名古屋の創造的活動の出発点となっていることをゲストを交えて話す。
会場:名古屋都市センター
・11月11日(金)16:30-18:00 アーティストトーク
藤本由紀夫
会場:モアチェモアチェ
・11月11日(金)19:00-20:00 アーティストトーク
斉田一樹+三原聡一郎[ゲスト]畠中実(ICC主任学芸員)
会場:エスプラナードギャラリー
・11月19日(土)18:40-20:00 エレクトロニコス・ファンタスティコス! パフォーマンス「名古屋城電磁行列」
会場:名古屋城西之丸

エレクトロニコス・ファンタスティコス!《Electric Fan Harp》制作:和田永+武井祐介+鷲見倫一+Nicos Orchest-LabPhoto by Mao Yamamoto

エレクトロニコス・ファンタスティコス!《Electric Fan Harp》
制作:和田永+武井祐介+鷲見倫一+Nicos Orchest-Lab
Photo by Mao Yamamoto

・11月20日(日)10:00-12:00 1980 YEN パフォーマンス
会場:宮の渡し公園(宮の浜市会場内)

見どころ

1 名古屋城西之丸では、エレクトロニコス・ファンタスティコス ! が、《名古屋城電磁行列》と題して、築城時の熱気や、城で繰り広げられたさまざまな祭りの賑わいを甦らせる(11/19のみ)。御深井丸では、久保寛子が巨大な《ハイヌウェレの彫像》を展示する。

2 堀川の開削当初の終点・宮の渡し会場では、1980YENが熱田の賑わいを彷彿とさせるパフォーマンスをする(11/20のみ)。

3 堀川沿いの四間道に静かに佇む伊藤家会場は、そうした賑わいとは対照的に静謐な時間を体験する空間。江戸時代の商家建築に藤本由紀夫phono/graphによる静寂と音響の交差する作品、近藤正勝の異空間のランドスケープ作品が展示される。エスプラナードギャラリーでは、そうした静謐な環境に繊細に応答する作品《moids ver.2》(斉田一樹+むぎばやしひろこ+三原聡一郎)が期間中3日間に限り展示される。

4 納屋橋会場では、人長果月が 、堀川上流・黒川猿投橋付近の生態系を素材にした映像作品を堀川沿いのビル壁面に投影。堀川のさまざまな姿を改めて多層的に見せくれる。

5 今回新たに会場となった松重閘門近くの中川運河ギャラリーでは、三原聡一郎が生態系を可視化する作品《空気の研究》で、場所性にアプローチする。

アーティストプロフィール

久保寛子

 広島県生まれ。2013年、テキサスクリスチャン大学美術修士課程修了。先史芸術や民族芸術、文化人類学の学説のリサーチをベースに、身の回りの素材を用いて、農耕と芸術の関係などをテーマに作品を制作する。
 2017年「六甲ミーツアート」で大賞を受賞。
 主な展覧会に、「高松コンテンポラリーアート・アニュアルvol.10ここに境界線はない。/?」(高松市美術館、2022)、「さいたま国際芸術祭」(2020)、「いのち耕す場所ー農業ひらくアートの未来」(青森県立美術館、2019)、「Ascending Art Annual Vol.2 『まつり、まつる』」(スパイラルガーデン、2018)、「瀬戸内国際芸術祭2016」など。
 2017年より、夫の水野俊紀と共に「オルタナティブスペース コア」を運営している。

エレクトロニコス・ファンタスティコス!  *11/19のみ

和田永
 アーティスト、ミュージシャン。2009年に、オープンリール式テープレコーダーを演奏するグループ「Open Reel Ensemble」を結成。2015年より始動した「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」により、第68回芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。
エレクトロニコス・ファンタスティコス!
 2015年始動。和田永が中心となり、役割を終えた電化製品を新たな「電磁楽器」へと蘇生させ、オーケストラを形づくっていくプロジェクト。東京、京都、日立、名古屋に活動拠点を設け、「電磁民族音楽」や「電磁盆踊り」「電磁行列」を夢想しながら創作活動を続けている。

近藤正勝

 愛知県生まれ。1993年、スレードスクール・オブ・ファインアート卒業。在学中にロンドン大学から The Wilson Steel Memorial Medal を受賞、1997年には「John Moores Liverpool
Exhibition 20」で 2nd Prize を受賞。主に自然界をアートフィシャルに解釈するランドスケー
プ絵画を制作する。
 主な展覧会に「エレメント」(THE CLUB、2021)、「沈黙の時に」(All Visual Arts、2012)、「Prime」(東京オペラシティ アートギャラリー、2000)、「Surface」(Nederlands Foto Instituut、2001)、 「相対的普遍」(コオジオグラギャラリー、1996)など。

藤本由紀夫

 愛知県生まれ。1975年、大阪芸術大学音楽学科卒業。70年代から、エレクトロニクスを利用したパフォーマンス、インスタレーションを発表。80年代半ばより、サウンドオブジェを制作する。音を形で表現した作品や、空間を利用した独自のテクノロジーアートを発表。「here & there」「separation & conjunction」「revolution& gravity」「silent & listen」といったキーワードで、日常の何気ない物事に注目し、「聞く」という体験を通して、「音」という存在の不思議さを表出。新たな認識へと開いていくような活動もしている。
 2001年と2007年に第49回、第52回ヴェネツィア・ビエンナーレに出展。

phono/graph

 2011年、さまざまな分野で活動しているメンバーが、専門領域や世代を超えて、結成。音/文字/グラフィクスに関わる実験的な表現を通し、メディアと生活との関係を考察している。大阪を皮切りに、これまでに東京、名古屋、京都、神戸、ドルトムント(ドイツ)で作品を発表している。
 現在のメンバーは岸本倫子、林葵衣、貞雄大、鈴木大義、城一裕、intext、八木良太、ニコール・シュミット、softpad、藤本由紀夫。

斉田一樹+むぎばやしひろこ+三原聡一郎

 2004年より、斉田一樹、むぎばやしひろこ、三原聡一郎らによって活動を開始。非中心的な音のインスタレーションや、限りなくミニマルな音の入出力機能を実装した回路群によって、外界と繊細に呼応する3つの有機的な音響環境をつくりあげる。国内外の幅広い音響環境で継続的に発表を続けている。

人長果月

 美術家。京都府生まれ。1990年代後半より、デジタル技術を用いた映像作品の制作を始め、2000年からは、映像にコンピューターやセンサー技術を組み合わせ、双方向性を持ったインスタレーションを制作。近年は、植物や微生物などを実地で撮影することでもたらされる微細な感覚をもとに、自然界の複雑なありようを光・音、鑑賞者の振る舞いによって創出することを試みている。
 主な展覧会に「Kyoto Art for Tomorrow 2022-京都府新鋭選抜展-」(京都文化博物館別館ホール、2022)、「KYOTO STEAM-世界文化交流祭-アート×サイエンス IN 京都市動物園 アートで感じる?チンパンジーの気持ち」(京都市動物園、2019/2020)、「再生の庭」(藝倉美術館、2017)、「消滅の夢」(ベラクルス州立大学、2016)など。
 2022年京都府文化賞奨励賞。

三原聡一郎

 世界に対して開かれたシステムを提示し、音、泡、放射線、虹、微生物、苔、気流、土、水、電子など、物質や現象の「芸術」への読みかえを試みている。2011年より、テクノロジーと社会の関係性を考察する「空白のプロジェクト」を展開。近年は、方法論の確立していない音響彫刻やメディア・アート作品の保存修復にも携わる。
 主な個展に「空白に満ちた世界」(クンストラウム・クロイツベルク/ベタニエン、2013/京都芸術センター、2016)、グループ展に「第11回恵比寿映像祭」(東京都写真美術館、2019)、「札幌国際芸術祭2014」、「サウンドアート̶̶芸術の方法としての音」(ZKM、2012)など。
 展覧会キュレーションに「空白より感得する」(瑞雲庵、2018)。共著に『触楽入門』(朝日出版社、2016)。

1980YEN

 現代日本のファストカルチャーを大胆にサンプリングし、音楽と美術を掛け合わせた表現で活動。2009年の結成以来、クラブや音楽フェスなどでの活動のみならず、国際展に積極的に参加。横浜トリエンナーレ、文化庁メディア芸術祭、六本木アートナイトなどで作品を発表している。

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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