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河合里奈「確かに存在する今、を咀嚼する」GALERIE hu:(名古屋)で2022年9月24-10月14日

GALERIE hu:(名古屋) 2022年9月24日〜10月14日

河合里奈

 河合里奈さんは1995年、愛知県生まれ。2018年、名古屋芸術大学卒業。2019年に、「あいちトリエンナーレ2019」に合わせて開かれた「情の深みと浅さ」展に出品した。

 2020年に最初の個展「意識ノ断片」をギャルリhu:で開いている。2021年にも個展「存在のシンソウ」を開き、今回は3回目となる。

 内なるエネルギーとともに繊細さも感じさせる絵画である。画面に布などを貼り、ペンキやアクリル絵具などで混沌として世界をつくっている。

河合里奈

 幾何学性を排除した非具象の抽象画。物質感が強調され、誰もが、かつてのアンフォルメル絵画を想起させられるだろう。

 2020年の個展「意識ノ断片」と作品が大きく変わっているわけではない。

 戦後、パリに現れたアンフォルメルは、日本でも1950年代後半に前衛表現としてブームを起こし、日本の土着性、前近代性とも結びついて、その後も長く生き残った。

 筆者が美術記者として幅広く美術を見ていた1990年代の公募団体展では、ある種、アナクロニズムの「定型」としてしばしば遭遇することになった。

河合里奈

 河合さんの作品がそうだと言っているわけではない。生々しい画面から立ち上がる熱気、過激さと同時に揺らぎ、不安を感じさせる画面の表情は、現代的なセンスも感じさせる。

 加えて、個展のタイトルにあるように、河合さんは、自分が存在している現在地点に極めて自覚的である。

 河合さんのステートメントによると、作品には、河合さんの内部にある葛藤、世界の混沌が反映していることが分かる。

 彼女が表出している内面的な感情がなんなのか、外的な世界をどう捉えているか、そのために絵画という形式をどう使うのか。筆者はそれを推し量るしかないのだが。

確かに存在する今、を咀嚼する

河合里奈

 河合さんは、支持体を床に水平に置き、その周囲を動きながら描いていく。ほとばしる「今」の感情に任せるように筆を動かし、布などの素材を貼り、あるいは、絵具を飛散させる。

 荒れた質感が強調された作品は、激しい体の動きを想起させる。

 ただ、絵具が暴れたような無秩序とした雑然さ、飛び散る絵具、素材の物質性は、強い表現性と思いが先行した結果ゆえに、逆説的に、ものを見えにくくしてしまう。

 抽象表現主義との関係で語られたアクション・ペインティングは、パフォーマンスの痕跡として、支持体が出来事の起こる舞台、あるいは作業台となることで、作家の実存性を強める一方、注意しないと、絵画の形式的魅力から遠ざかり、作品を物質に近づける。

 河合さんが「闘っている」ということは伝わる。しかし、その闘いの内実がまだ整理されていないのかもしれない。

河合里奈

 個別的な存在である一人称としての「私」、その「私」の複雑さ、あるいは複数性、そして、河合さんが闘っている世界(社会)とはなんなのか。

 それが見えてくると、作品がもっと鑑賞する側に近づいてくるだろう。

 それには、自分にとって還元できない他者性、すなわち外部性、非対称性、超越性と、とことん対話を深めた方がいい。

 こうした物質性の強い堅牢な作品のほかに、比較的静穏で、円が連なるイメージの柔らかな作品もあって、筆者の好みは、こちらである。

 筆者が今回の河合さんの個展で最も惹かれたのは、下の写真の3点である。抑制が効いていて、物質的になりすぎずに、絵画的である。

 この3点は、河合さんの作品の中では異質なほうだと思う。激しすぎず、力が入りすぎず、だが、新たなイメージを生成させる予感がある。

 河合さんだけの絵画が生まれるのを楽しみにしている。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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