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大下百華展—ドローイング・木版画— ギャラリーA・C・S

ギャラリーA・C・S(名古屋) 2020年9月5〜19日

 大下百華さんは、創形美術学校を卒業し、国内外の版画展に出品してきた作家である。

 石川県加賀市を拠点に制作。ドローイング、木版画の展覧会と告知されているが、「ドローイング」とされている作品は、会場を訪れると、むしろ、ミクストメディアによる絵画と言ったほうがふさわしい。木版画は大きな作品1点と小品のみである。

大下百華

 展示空間には、作品からこぼれ出るようなエネルギーが満ちている。これはいい意味で、予想を裏切られた感じである。

 モチーフになっているのは、豊かな生態系、生命の気配が満ちた森、鳥、動物、植物、人物である。いずれの作品も、まぶしい光と熱気、風、そして、何よりも、プリミティブな力がみなぎる空間である。

大下百華

 それらが現実空間へと広がり、画廊空間がジャングルになっているような感じさえする。森の生気、エネルギー、生き物や樹林、植物の生命力、匂いが空間の質として働きかけてくるのである。

 それぞれの作品は、いくらかフォークアートのような装飾性、単純性、素朴性を備え、既存の遠近法やプロポーション、現実的な空間、色彩の諧調にとらわれていないのが特徴である。

 かぐわしい香りと生が充溢した濃い緑や花、生き物のあふれる空間。人物は、大下さん自身だろうか。作家本人が豊かな自然、生態系に包まれ、直接に交感している内なるファンタジーともいえる。

大下百華

 流行にとらわれず、描きたいままに素直に自由に制作していることが伝わる。同じ画廊で発表してきた画家、故・市橋安治さんからの助言「自分が描きたいものだけを描けばいいんだよ」という言葉を大事にしてきたという。

 細部にこだわることなく、おおづかみにモチーフをとらえた作品からは、真っ直ぐな姿勢がにじむ。だからだろう、野趣ある絵画空間が現実の空間にあふれ出すほどに力強いのである。

 何より、描かれた動物の姿、表情がユーモラスで、非日常、非現実のファンタジーの世界が元気を与えてくれる。

大下百華

 中でも、「Another fantasy – Dodo『見ることが出来ない鳥』」「Another fantasy – Dodo『Blue eyes』」は強い印象を放つ。

 ドードーは、マダガスカル沖・モーリシャス島に生息していた絶滅鳥類である。

 空を飛べず、地上をヨタヨタ歩く/警戒心が薄い/巣を地上に作る/ヨーロッパの入植者によって食用のために乱獲された/森林開発が進んだ—などの理由によって、17世紀ごろ、絶滅した。生息数が激減してからも、ヨーロッパで見世物にされ、全て死に絶えたという鳥である。

大下百華

 つまり、ドードーは、筆者なりに解釈すると、弱く、人間の犠牲になった自然の象徴のような存在である。

 他にも、夢を食べるとされた伝説上の動物、獏と類似した形態から名前が付いたバクや、フクロウ、サルなどの生き物がモチーフとなっている。

大下百華

 作品には、木片、竹、段ボール、わらなどを貼り、新聞のコラージュなども駆使している。こうした物質感が、深い緑と鳥、動物などのイメージと一体となって、力強く、でも、決して見る者を束縛することなく、おおらかな存在感で訴求してくる。

 この心地よさが、何よりも魅力である。筆者は、この豊かさに、荒涼とした現代社会と対極的な世界、内なるファンタジーを見る。

大下百華
大下百華

 今のトレンドに乗っかったスマートさはない。だが、自由に制作を楽しんでいること、そして、何よりも、この世界に生まれてきた自分という存在と、自由な心、生きることの恵みを大切に、この世界全体を丸ごと愛したいという作家の人間性が伝わってくる。

 森と動物は、自由な心から生み出されるファンタジーそのものである。それを素直に打ち出せることが人間の自由、尊厳、恵みなのである。

 大下さんの作品には、評価やマーケットを意識しすぎるがゆえに現れる、わざとらしい過剰さ、お仕着せの意味がない。

大下百華

 横向きか正面を向く動物そのものが、無表情で観客にこびないし、意図的に何かを感じさせるものがない。装飾的で様式化されている感じもあるからか、ボーッとしていて、ニュートラルなのである。

大下百華

 だからこそ、森も動物、鳥も、あくまで見る人自身の内面の鏡、鑑賞者自身にとっての森、動物、鳥となりうる。そこにリアリティーが生じるのだ。

 見る人も自由に、この森と動物、鳥を見ればいい。大下さんの作品は、とても寛容で、自由に見る人の心を遊ばせてくれる。そんな森の生気を放散しているのである。

大下百華

 

 

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