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MITOS展-描く呼吸- ギャラリー芽楽(名古屋)で11月12-27日

Gallery 芽楽(名古屋) 2022年11月12〜27日

MITOS

 MITOSさんは男性の画家で、1985年生まれ。2008年、名古屋造形大学美術学科洋画コースを卒業した。

 2021年、清須市第10回はるひ絵画トリエンナーレで審査員賞(加須屋明子)を受賞。これを受け、2022年1-2月、愛知・清須市はるひ美術館で、同トリエンナーレのアーティストシリーズ Vol.97「MITOS展 静寂のリズム」を開催した。

 明日をひらく絵画第40回上野の森美術館大賞展(2022年)に入選。同年、瀬戸現代美術展 2022 ( 菱野団地各所 / 愛知 )にも参加した。

MITOS

描く呼吸 2022年

 MITOSさんの絵画は、規則性と不規則性に対して、作品、展示方法とも、とても意識的につくられていることが分かる。本人はあまり意識していないと言っていたが、結果として、絵画の形式面の諸要素がよく現れている。

 つまり、キャンバスの形、線、筆触、色彩にそれぞれの存在感がある。MITOSさんがとりわけ関心を向けているのは線である。

 呼吸と「」を意識して線を引くのがMITOSさんの基本的スタイルである。呼吸を整え、心を静めて、ストロークを引く。そのとき、体の感覚が意識されるだろう。

MITOS

 マインドフルネスと同じである。あるいは、コンテンポラリーダンスも想起される。つまり、MITOSさんの絵画へのアプローチは、とても身体感覚的である。

 先ほど、規則的と書いたのは、例えば、同じキャンバスのサイズに描いていること。そして、赤い絵画と、縦または横のストライプの絵画を交互に展示していることである。

 また、赤い絵画では、矩形の横長のキャンバスに赤いストロークを太い刷毛で横に引くことを反復することによって、絵画が成り立っている。

MITOS

 他方、ストライプの絵画は、厚みのある側面が傾斜して手前が小さくなった四角錐台のキャンバスが使われ、側面を含めて塗られている。縦または横にストライプがぎっしり引かれ、その上に細い線が描かれている。

 順に詳しく見てみよう。まず、赤い絵画である。

 刷毛目を出しながら、赤色で太いストロークを引く。矩形の色面のように見えるその縦の幅が、そのまま刷毛の幅である。ストロークの長さ、幅にはバリエーションがある。

 ひと呼吸で引く太い線(色面といってもいい)を描き、ポーズ(小休止)をしたとき、接ぎ目の「間」ができる。絵具溜まりのような縦線である。

MITOS

 このストロークと、間合いのポーズのリズム、それを裏付ける呼吸のリズム、そして身体性の揺らぎ。この絵画と身体感覚、呼吸感覚との一致が、MITOSさんの絵画の第一の魅力である。

 こうした描き方は、MITOSさんがかつて、クラブでライブペインティングをしていた影響もあるだろう。絵具を薄く、生々しい感触で描いている。一つのストロークには、身体の刹那が感じられる。

 MITOSさんは、「つくる」というより、「描く」こと、とりわけ、線を引くことに集中している。それは、優れたダンサーが身体の細部に意識を集中して、その身体の存在によって表現することに近い。

MITOS

 カラフルなストライプの絵画は、どうだろうか。

 実は、このストライプは、油性ペンのマッキーで描かれている。これも赤い絵画と同様、縦あるいは横に線を引く感覚で描いている。

 手の力の入れ加減で濃淡、かすれを出しやすい画材である。1つの線を引くときのひと呼吸、そして、線と線の間のかすかに見えている微細なスリットが「間」となる。

 MITOSさんによると、色はヨハネス・イッテンの色彩論などに基づいている。定規や当て木を使って線を引いているが、濃淡、かすれなど線の表情が出る。

MITOS

 刹那の描くという行為において、身体の感覚が意識される。線は、決して無機的とはいえない。身体的な揺らぎがある。

 そのストライプの上から、細い有機的な線が舞うように重ねられている。即興的に引かれたようなこの繊細な線も、身体感覚、呼吸を感じさせる。

 この線は、ひらがながモチーフになっている。文字を書くのも、呼吸のリズム、身体性と関わりが深い。

 下層のストライプの直線と、上層のひらがなの細いしなやかな線。その両方の線によって、コンテンポラリーダンスのように、刹那の呼吸、身体が現れている。

MITOS

 そうした不規則な揺らぎと、展示方法やキャンバスの形、描き方、画材なとの規則性が、せめぎ合うように、MITOSさんの絵画は在る。

 絵画をインスタレーション的に展示しているのは、そうした空間性によって、規則性と不規則性の関係が繊細なかたちで提示されるからであろう。

 余談的に書くと、筆者は、ミニマリズムの更新に向かった1970年代的な作品、例えば、沢居曜子さん(1949年生まれ)も想起した。

 沢居さんは、1970年代に「Line-Work」が話題を呼んだ作家である。カッターナイフでケント紙に線を引き、その上にコンテを走らせる作品などが注目された。筆者は、1990年代以降だが、ガレリアフィナルテ(名古屋)などでの個展を取材したことがある。

 人間の行為性、表現性を高みに置いたイメージ表出を避け、ミニマルな線に、呼吸と身体性を意識した表情をすくいとる描き方に共通点を見られるが、MITOSさんの作品は、揺らぎの感覚が強く、色彩も豊かである。

 線や色に多くを語らせるのではなく、線や色の豊かさを呼吸と身体性との繊細な関係性から導き出しているのが、MITOSさんの作品である。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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