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プラスキューブ 小田香「メモリーズ・イン・セノーテ」

 名古屋・栄の愛知県美術館(愛知芸術文化センター10階)のリニューアル・スペース「プラスキューブ」で2019年11月1日〜12月15日、愛知芸術文化センター・愛知県美術館オリジナル映像作品「セノーテ」(2019年)の関連展示「メモリーズ・イン・セノーテ」が開かれている。11月29日から開かれる「第24回アートフィルム・フェスティバル」の一環で企画された。無料。

 映画の制作中、小田香監督が描いた絵画「ミューズ」に、映画の本編で未使用の映像を組み合わせた映像インスタレーション。映像と絵画から、セノーテのあるメキシコ・ユカタン半島が感じられる展示である。関連情報は、「セノーテ」の初公開時の小田監督の対談などのリポート「小田香監督の映画『セノーテ』初公開 死者と出会うマヤの水源」

 映像は、セノーテの水中から写した光の降り注ぐ水面や、魚が泳ぐ水中、水辺の森などのほか、村の廃墟、現地の人たちやその宗教儀式、ヒーラーの治療の様子、海と船上の漁師の姿なども映す。メイキング映像であるとともに、「セノーテへの旅」と題し、小田監督がセノーテに向かう道程で撮影した映像が多く含まれるため、ロードムービー的な雰囲気もある。映像とともに響く音楽は、先祖を迎える現地の宗教儀式「死者の日」で歌われるお祈りの歌である。マヤはスペインによって植民地化されたときにキリスト教化されたが、土着の信仰も根強く残り、両者が融合したようになっているという。映像は、8mmフィルムで撮影してから、ビデオに変換。フィルムのパーフォレーションやフレームの外側まで映り込み、マヤにルーツを持つ人々を撮影し、過去の時間を浮かび上がらせる意図と相まって、映像人類学的な印象を強めている。

 また、会場には、「セノーテ」の撮影と歩調を合わせて制作した現地の少女の肖像画のシリーズ「ミューズ」も展示。これらの絵画は、映画「セノーテ」の主題でもある、マヤの雨乞い儀式の生贄になった少女をイメージして描いたものである。紙に油絵具で描いたものは、もともと、リュミエール兄弟の「蛇踊り」のショットを描いていたものが少女に重なるイメージに変わっていったもので、2人の少女が寄り添うように描かれている。

 一方、板を支持体に油彩、樹脂、ビーズ、ガラスによって制作した作品「ミューズ・イン・セノーテ」は、少女が一人一人、正面向きになっている。ビーズ、ガラスなどの素材によって煌くが、これは、生贄になった少女が泉に投げられるとき、きれいな衣装を着ていたこととも関係があるようだ。50点の肖像がグリッド状に壁に吊るされ、小田監督がiPhoneで撮影したセノーテの水中映像が投影された。ビーズやガラスに覆われた少女たちが、水中映像によって煌くように乱反射するさまは、なんとも妖しく、水の中から訴えかけているような深いメッセージと、民族、土地の歴史を今に甦らせているようだった。

 今回の展示スペースであるプラスキューブは改修工事前、「ビデオテーク」と呼ばれ、教育普及ソフトを来館者が選んで見たりする場所だった。リニューアルに伴い、展示等でも使える多目的スペースに変わった。

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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