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第24回アートフィルム・フェスティバル 特集 映像人類学をめぐる旅

 愛知県美術館主催の「第24回アートフィルム・フェスティバル」が2019年11月29日〜12月8日、名古屋・栄の愛知芸術文化センター12階アートスペースAで開かれる。特集は、「映像人類学をめぐる旅」。

 ドキュメンタリー、フィクション、実験映画、ビデオ・アートなど従来の映像のジャンルを超える横断的な視点から作品を選定し、映像メディアとは何か、映像表現とは何かを探求するシリーズ企画。今回は、6月に初公開した小田香監督による、愛知芸術文化センター・愛知県美術館オリジナル映像作品の新作「セノーテ」(2019年)を起点に、この作品が誕生する背景を映画史的に探る。12月5日午後7時から、「セノーテ」上映(午後5時30分から)に続き、写真家、評論家、多摩美術大教授で、「あいちトリエンナーレ2016」芸術監督を務めた港千尋さんの講演会を開く。いずれも無料。

 スケジュールの詳細は、愛知県美術館のweb、「セノーテ」初公開については、「小田香監督の映画『セノーテ』初公開 死者と出会うマヤの水源」を参照。

小田香
小田香監督『セノーテ』(2019年)

 セノーテは、メキシコ・ユカタン半島北部に点在する洞窟内の泉。マヤ文明の時代には、雨乞いのための生贄が捧げられたとされている。小田は、マヤにルーツをもつ人々にも取材し、セノーテの歴史や記憶の古層を掘り下げた。映画「セノーテ」は、映像人類学、民族誌映画と呼ばれるジャンルに多くを負っている。早くも、フランス・リュミエール兄弟は、1895年のシネマトグラフ発明から間もない時期に世界各地にカメラマンを派遣。各地の風景や人々を記録したが、そこには西欧から非西欧に向けた植民地主義的な眼差しがあった。一方で、民族誌映画では、撮影者と撮影される被写体の側が共に映画を作るという共有の思想が基調となっていた。これらを振り返ることは、近代以降の世界の権力構造と支配関係を乗り越える示唆をも与える。今回は、先行作例を上映することで、そうした映像的イマジネーションが継承され、波及していくプロセスを見て取るとともに、「旅」「水中撮影」「抽象映像」など「セノーテ」に関わるキーワードから関連作品を上映する。

セルゲイ・M・エイゼンシュテイン『メキシコ万歳』(1976年)

 「映画の黎明から、映像人類学へ」として、吉田喜重が映画生誕100年の1995年に監督したドキュメンタリー「夢のシネマ 東京の夢 明治の日本を映像に記録したエトランジェ ガブリエル・ヴェール」は、映画が出発点において既に撮ることの暴力性を内包していたことを当時の映像から読み解く。ロシアのエイゼンシュテインが生前には完成できなかった「メキシコ万歳」(1976年)などを経て、ヌーベルバーグの文脈からも注目されたジャン・ルーシュらによって映像人類学は確立する。「実験映画、ビデオ・アートへの影響」では、故国リトアニアから米国に移り住んだジョナス・メカスのほか、ビデオ・アートのナム・ジュン・パイク、ビル・ヴィオラによる文化人類学的文脈の作品を紹介する。「テレビ・ドキュメンタリーのパイオニア、牛山純一」としては、日本テレビのプロデューサー、牛山純一による「すばらしい世界旅行」、大島渚が水中撮影に挑んだ作品を上映する。

小田香「メモリーズ・イン・セノーテ」展で展示上映されている『セノーテへの旅』(2019年)

 このほか、愛知県美術館「プラスキューブ」での小田香監督「セノーテ」関連展示「メモリーズ・イン・セノーテ」(11月1日〜12月15日)も、アートフィルム・フェスティバルから展開させた新たな試みとして注目される。

 また、会期最終日の12月8日には、特別プログラム「よみがえる山口勝弘」と、竹葉丈さん(名古屋市美術館学芸員)、越後谷卓司さん(愛知県美術館主任学芸員)によるディスカッション「映像、メディア系作品の収集と保存」がある。


小田香
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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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