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L gallery(名古屋) 星月夜 2020年12月19日-21年1月17日

L gallery(名古屋) 2020年12月19日〜2021年1月17日

女性ばかり6人のグループ展

 2020年の年末から2021年初めにの期間に開催されているグループ展。残り会期中は無休である。

 テーマになっている「星月夜」は、星が月のように明るく見える夜のことをいう言葉。闇の中でこそ煌めくもの、影の中で生まれるもの、深く暗い森でうごめくものなど、暗闇、暗部、悪夢の中の世界をテーマに据えた。

 作家は、女性ばかり6人である。

植松ゆりか

植松ゆりか

 植松ゆりかさんは1989年、静岡県富士市生まれ。​2011年  名古屋造形大学造形学部を卒業した。愛知県瀬戸市の共同スタジオタネリスタジオに参加している。2021年、L galleryでの個展が予定されている。

 筆者は、「 瀬戸現代美術展2019」(2019年9月7日〜10月14日)での作品が印象に残っている。

 ぬいぐるみを使ったインスタレーションで、生命力とグロテスクさが際立っていた。樹脂で固められた多数のぬいぐるみが木から吊るされているイメージである。

 大学時代から、ぬいぐるみを使った作品を展開。一方で、2017年、愛知県立窯業高等技術専門校(現・愛知県立名古屋高等技術専門校窯業校)を卒業し、​陶製の技術を学んだ。

 植松さんのWEBサイトによると、陶製人形の精巧さ、物語性に魅せられたのがやきものを学んだ理由。後に陶製人形の老舗で絵付け・原型の技術も磨いた。

(参考)「 瀬戸現代美術展2019」(2019年9月7日〜10月14日)での作品

 

 今回のグループ展の会場にも、ぬいぐるみ、陶という異質な素材による作品が展示されていた。

 植松さんは、幼少時から、触覚、聴覚、視覚が一時的に異常になるトランス状態、非現実のような感覚を体験をしている。

 制作は、そうした言語化できない相反的な感覚をはらんだものだという。確かに、植松さんの作品には、表と裏、生と死、柔らかいものと固いもの、正と邪が共存する。

 また、植松さんによると、彼女は青年期までマイノリティーな信仰の信者として神中心の世界観で育った。

 作品には、自由と自己開放を求め、信仰と決別した後の、今、この世界を愛し、不完全であろうとも自分自身の人生を生きること、存在そのものの価値が投影されている。

 ぬいぐるみを素材にしたシリーズでは、かつて、腹を引き裂き、綿の代わりに内部にコンクリートや樹脂、シリコンを流し込んでブロック状にした作品や、愛されたい一心で型通りに生きてきたかつての自分の自画像として、ぬいぐるみを額縁の矩形に押し込んだ作品を展開した。

植松ゆりか

 現在は、解体したぬいぐるみを再構成することで内側と外側を混在させ、一部を樹脂で固めている。自分のアイデンティディーとして作られた新たな自画像には、後光のようなリングもつけられ、尊厳が与えられた。

 ぬいぐるみは、幼児が母子未分化な状態から自分の不完全さを受け入れる過程で安心感を得て分化していく「移行対象」とされる。植松さんが、自分の子供時代の柔らかい愛玩具に「自分」を重ね、解体・再構成するのは、示唆的である。

 植松さんの作品は、新たな自分を生きる中で、反抗的な力、破壊的な衝動が内包され、それが表と裏、生と死、柔らかいものと固いもの、正と邪を共存させている。今回のグループ展のテーマにも見事に符号する。

​ 他方、2017年ごろから制作を始めた「GILLREAM」は、磁器を素材にした装身具である。新たな価値観の神話を形にした「偶像」シリーズで、お守りのように身に着けてもらうことを想定している。

 自分がとらわれていた価値観から離れ、新たな拠り所となる人間らしさ、肯定的なアイデンティティーを象徴する。

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大石早矢香

大石早矢香

 大石早矢香さんは1980年、京都府生まれ。2004年に京都市立芸術大学を卒業した。

 細密な細工で陶芸の表面を装飾する手法で、しかもそれぞれが非常に写実的。筆者は、明治から大正時代に活躍した初代宮川香山を連想した。

 華やかな花などの植物や、手、足、耳など体の一部、爬虫類のような生き物など、まがまがしいほどに過剰な装飾が凝縮されている。

 

大石早矢香

 キマイラのごとく異種交配した多様な生命が混じり合う。それらが単に表面を覆うのみならず、つながりながら、複雑に絡み合っている。生体的で繊細な形態、釉薬による艶やかな色彩、裂け目のような構造によって、官能性を感じさせる。筆者は初めて作品を見たが、注目度は高まりそう。

フジイフランソワ

フジイフランソワ

 フジイフランソワさんは、静岡県生まれ。名古屋市在住。豊田市美術館(2009年)、一宮市三岸節子記念美術館(2018年)と、美術館での個展も企画されている。
 筆者は、この作家は1990年代後半ごろ、名古屋のハートフィールドギャラリーで個展をしていたころに興味をひかれた。

 伝統的な絵画を流用しながら、おかしみと同時に不穏な雰囲気を併せ持った作家として、当時、筆者が興味をもっていた前衛日本画の文脈とも関連づけながら注目していた。

 豊田市美術館は、個展の際、タイトルに歌舞伎の「綯交(ないま)ぜ」という用語でフランソワさんの作品を表現した。2つ以上の異なる世界の筋を絡め合わせることをいう。

 ただ、フランソワさんは、異世界を混ぜ合わせるだけでなく、そこに日本の美意識、風土、文化、精神性の読み直しがあるところが面白い。

Veronika Dobers

Veronika Dobers

 ドイツ生まれの女性作家、ベロニカ・ドバースさんは、Lギャラリーで個展を繰り返し開いている。

 ガラス絵の技法を使いつつ、色彩を抑えた作品である。月明かりと波紋を見下ろす人、懐中電灯を照らす女性と雫の形態など、多くはシンプルながら謎めいたイメージである。

 油絵具の特長をあえて殺し、形象そのものの神秘性、象徴性を引き出している。

 

中田由絵

中田由絵

 中田由絵さんは1976年、愛知県生まれ。同県在住。名古屋芸大卒業後、2001年に京都市立芸術大学大学院美術研究科を修了した。Lギャラリーなどで個展、グループ展を数多く開いている。

 今回は、銅版画のモノクローム出品。「ナイト・メモリー」と題された連作は、繊細な線を重ね、うつむく少女、猫、立つ男と鳥、草むらの中の白鳥など、いずれも闇の世界に浮かび上がるようなイメージある。

石田典子

石田典子

 石田典子さんは1983年、愛知県生まれ。岐阜県在住。2007年に名古屋芸大大学院を卒業した。Lギャラリーで個展を重ねている。

 暗闇、土の中などの世界を描きながら、それそれの形象や色の使い方がかわいく、ほほえましい独自の世界を感じた。

石田典子
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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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