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「こぐまちゃんとしろくまちゃん 絵本作家・わかやまけんの世界」2023年7月21日-9月24日に岐阜県美術館で開催

『しろくまちゃんのほっとけーき』(1972 年、こぐま社)より リトグラフ/こぐま社蔵

230点で、豊かな作品世界を紹介

 「こぐまちゃんえほん」の生みの親、わかやまけん(若山憲、1930-2015年)の多彩な創作活動を探る初めての回顧展が2023年7月21日~9月24日、岐阜県美術館で開催される。

 若山は1930年、岐阜市生まれ。戦後ほどなくして出会った童画に強い憧憬を抱き、グラフィックデザイナーを経て上京した。

 1968年、絵と文を手掛けた初の創作絵本として、現代社会への警鐘を淡い色調の幻想的な表現に託した『きつねやまのよめいり』を発表した。

 最もよく知られた作品「こぐまちゃんえほん」シリーズは、「日本の子どもがはじめて出会う絵本を作りたい」という思いのもと、1970年に集団制作で誕生。記念すべき第 1 作以来、15作が生まれ、半世紀を超えて読み継がれる大ロングセラーとなっている。

 本展では、その知られざる創作過程とともに、独特のユーモアあふれる「おばけのどろんどろん」シリーズ、民話をテーマとした絵本や詩集のための挿絵、雑誌の表紙原画、絵本制作の資料など約230点によって、その豊かな作品世界を紹介する。

撮影:田中亜人

展覧会概要

会  場:岐阜県美術館 展示室3(岐阜市宇佐4-1-22)
会  期:2023年7月21日(金)~9月24日(日)10:00~18:00
休 館 日:毎週月曜日(祝・休日の場合はその翌平日)
夜間開館:7月21日(金)、8月18日(金)、9月15日(金)は20:00まで開館
※展示室の入場は閉館の30分前まで
観 覧 料:一般1,000(900)円、大学生800(700)円、高校生以下無料
※( )内は20名以上の団体料金
※身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、特定医療費(指定難病)受給者証の交付を受けている人、およびその付き添いの 1 名は無料
主  催:岐阜県美術館、中日新聞社
特別協力:こぐま社
協  力:偕成社、銀の鈴社、クレヨンハウス、佼成出版社、至光社、社会福祉法人 全国社会福祉協議会、世界文化社、童心社、ポプラ社、ほるぷ出版

『保育の友』1982 年 8 月号(1982 年、全国社会福祉協議会出版部) 表紙原画/個人蔵

注目ポイント

開場式ほか会期中に、「こぐまちゃん」が登場!
○開場式
日時:2023年7月21日(金)9:45~10:00
会場:岐阜県美術館
○2023年7月21日(金)~30日(日)に、こぐまちゃん撮影会も開催予定。
※詳細は岐阜県美術館ウェブサイトで告知。

「こぐまちゃんのぬりえ」をプレゼント!
 会期中、来場者に「こぐまちゃんのぬりえ」をプレゼントがある。先着5,000枚で、なくなり次第終了。展覧会とともに楽しんでください。(1人1枚まで)

さまざまな連携企画がある!
 岐阜県図書館が連携企画として、7月23日(日)におはなし会を開催。その他、同館アートコミュニケーター(~ながラー)によるオリジナル企画イベントも開催する。連携企画の詳細は、岐阜県美術館ウェブサイトで告知。

関連プログラム

ナンヤローネ アートツアー

アートコミュニケーション作品《Such Such Such》を体験しながら、展示作品の魅力を味わう。
日 時:2023年8月6日(日)14:00~15:30
会 場:岐阜県美術館 多目的ホール、展示室
備 考:申し込み方法などの詳細は、岐阜県美術館ウェブサイトで確認

ナイトギャラリートーク

日 時:2023年8月18日(金)19:00~19:30、9月15日(金)19:00~19:30
会 場:岐阜県美術館 展示室3
お 話:鳥羽都子(担当学芸員)
備 考:申し込み不要、ただし観覧券が必要

スライドトーク

日 時:2023年9月2日(土)14:00~15:00
会 場:岐阜県美術館 講堂
出 演:鳥羽都子(担当学芸員)
備 考:申し込み不要、定員170名(先着順)

講演会 わかやまけんと「こぐまちゃんえほん」の誕生

日 時:2023年9月9日(土)14:00~15:30
会 場:岐阜県美術館 講堂
出 演:関谷裕子(こぐま社元編集長)
備 考:申し込み不要、定員170名(先着順)

展覧会構成

第 1 章 紙芝居からの出発 こぐま社との出会いまで

 若山憲の絵本作家としての仕事は、紙芝居から始まった。少年時代から、童画に魅せられ、18歳でグラフィックデザインの世界に足を踏み入れた。

 24歳で上京。その後、 教育紙芝居の普及に取り組んでいた稲庭桂子(1916-1975年)に声を掛けられ、10年間で18作ほどの紙芝居に取り組んだ。

 1967年に初めて「絵本」の制作に携わったが、それは書店に並ぶ単行書ではなく、子ども向けテレビ番組の 会員向けに企画された『ロンパールームのほん』だった。

 その創刊号から制作に当たったのが、のちに「こぐまちゃんえほん」シリーズを生み出すこととなる、こぐま社だった。

 同社を創立した佐藤英和(1928-2022年)、児童文学評論家の柳内達雄(1911-1978年)、児童文学作家の森久保仙太郎(森比左志、1917-2018年)、劇作家の和田義臣(1913-2006年)らが編集委員となり、合議制で編集した『ロンパールームのほん』は、複数の作者によるお話や歌などを集めた、雑誌的性格を持つ絵本だった。

『りぼんをつけたおたまじゃくし』(1967 年、野村トーイ)より 原画/個人蔵

 表題作の絵を担当した『りぼんをつけたおた まじゃくし』では、春先の池の中で、おたまじゃくしの繰り広げるちょっとした冒険が描かれる。

 翌年発表された『きつねやまのよめいり』は、若山さんがこぐま社から出版した初の単行創作絵本で、淡く優しいリトグラフの色彩が評価された。

 第1章では、初期作品とともに、科学・知識絵本『原色科学ブック』の挿絵も紹介する。

『きつねやまのよめいり』(1978 年改訂新版、こぐま社)より リトグラフ/こぐま社蔵

第 2 章 こぐまちゃん、しろくまちゃん誕生

 こぐまちゃん、しろくまちゃんにスポットを当てて紹介。1970年、「こぐまちゃんえほん」シリーズが誕生した。当時の日本にはまだ、「赤ちゃん絵本」というジャンルが存在せず、こぐま社の創業者である佐藤英和は、日本の作家による「日本の子どもたちがはじめて出会う絵本」を創りたいと考えていた。

 そんな佐藤の呼びかけのもと集まったのが、児童文学者で歌人の 森比左志 、劇作家の和田義臣 、グラフィックデザイナー出身の若山憲だった。

 4人は毎週のように集まっては構想から話し合い、 制作を進めた。主人公には、子どもが大好きなくまのぬいぐるみが選ばれ、「こぐまちゃん」と名付けられた。

 年齢は、対象となる読者と同じ2歳。読者である子どもたちが絵だけで物語を把握できるように、若山にはこぐまちゃんが何をしているかがわかる絵が求められた。

 そのため、こぐまちゃんには常に動きがある。フォルムは「こけし」、洋服は「ポンチョ」を原型とし、何年たっても古さを感じさせないシンプルな形を追究している。

 色は、スミ(墨)、アイ(藍)、グレー、ミドリ、オレンジ、キイロという6色で展開。日本らしい落ち着いた色が用いられているのが特徴である。

 子どもたちに濁っていない美しい色を届けるために、それぞれの色に対して専用のインクを作り、1 色ごとに版を描き分けて、特色印刷で刷り重ねていく方式で制作された。

第 3 章 絵を読む絵本 「純絵本」 をめざして

 まだ、文字を読むことができない小さな子どもたちが絵本のページを開くとき―――その目は、文字ではなく「絵」から物語を読み取る。

 絵本作家として一貫してめざしてきたのは、言葉が主となるのではなく、絵の力で場面や設定を描写し、お話を伝えることができる絵本だった。

 若山はこれを「純絵本」と呼び、言葉で語る「物語絵本」と区別する。第 3 章では、絵を視覚言語とするこの「純絵本」を志向する若山が、 1970年代から80年代にかけ、文と絵の両方を手がけた創作絵本の数々を紹介する。

『おばけのどろんどろんとぴかぴかおばけ』(1981 年、ポプラ社)より 原画/個人蔵

第 4 章 ひろがる わかやまけんの世界

 多岐にわたる表現と、人との出会いによる世界観の広がりを紹介する。

 「純絵本」を提唱し、絵が物語のすべてを語る絵本作りを実践してきた若山だが、その一方で、児童文学者、劇作家、詩人などとともに、たくさんの作品を制作している。

 『てぶくろをかいに』などの名作の絵本、口から口へと語り継がれた民話の絵本、詩集など多岐にわたるが、詩情あふれる淡い色彩の水彩画、詩集に添えられたシンプルな線描のカットなど、それぞれの文章が持つ独自の世界に合わせて生み出された作品からは、幅広い表現や世界観を垣間見ることができる。

『ごんぎつね』(1978 年、ポプラ社)より 原画/個人蔵

『あかべこのおはなし』(1980 年、こぐま社)表紙 リトグラフ/こぐま社蔵

 『ごんぎつね』は、新美南吉が18歳のときに手がけた、教科書でもおなじみの名作。本書には表紙・裏表紙以外は単色の挿絵が寄せられている。

 民話や郷土玩具など日本独自の造形美があふれる世界も、若山の創作意欲を大いにかきたて、『あかべこのおはなし』や『子そだてゆうれい』などの絵本に結実している。

 『子そだてゆうれい』の制作に当たっては、完成された語りに絵を描くことの難しさに直面し、若山にとって大きなターニングポイントにもなった。

第 5 章 一点で物語る

 1953年に創刊し、現在も全国社会福祉協議会出版部より 発行が続いている雑誌『保育の友』。子どもの発達段階に応じた保育の内容や、地域性豊かな保育のカリキュラムなどを紹介するこの雑誌の表紙絵を、若山は1982年の4月から1992年の3月までの約10年間にわたって担当した。

 技法や描き方などさまざまに工夫して、「絵が物語る」一枚の作品世界を形成した。1983年の4月からは、絵と合わせて作者による「表紙のことば」も掲載された。

 絵についての単純な説明ではなく、読む人が物語を想像するきっかけとなるような文章が多く、そ の素朴な問いかけが、絵のなかにわれわれを優しく引き込んでくれる。

 若山は、題材や画風を自由自在にいともたやすく変化させているように見えるが、その裏には「ひらめき」を大切にし、それを洗練させる多大な努力が詰まっている。

 『保育の友』表紙絵には、そんな若山の真摯な姿勢がつめ込まれている。第 5 章では、 これらの表紙原画と、実際に出版された雑誌の表紙とを一部並べて紹介する。

『保育の友』1986 年 8 月号(1986 年、全国社会福祉協議会出版部) 表紙原画/個人蔵

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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